メディアグランプリ

傷つくことができるのは、強いからなのだと思う


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記事:星絵里華(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「よく今まで生きてこられたね」
入社してまもなく上司に言われた一言だった。
 
「はい。大変でした。頑張りました」
私がとっさに考えた最大限の皮肉だった。
 
私がなにをミスして言われたのか、もう覚えていてない。
それくらい私にとってはどうでもいい一言だった。
 
あえて言うなら、良い爆笑ネタ頂きました!
そんな気分だった。
 
でもどうやら、爆笑ネタと捉えるよりも傷つく方が普通のようだった。
 
なぜ、爆笑ネタにしか思えなかったのか考えてみた。
 
小学生のころから、私より何をやっても出来る妹に、両親も親戚もメロメロだった。
 
妹よりなにか秀でるものを持たなければ。
いつしか、私の頭の中はそんなことでいっぱいになっていた。
 
両親が最も喜ぶこと。
それは、良い成績、先生からの高評価だった。
テストで100点取らなければ……優等生を演じなければ……
 
でも、一過性ではだめだ。
だから、偏差値の高い高校合格して、3年間の勉強の成果が合格だと示す必要があった。
 
私の存在に気付いてもらうために、必死に勉強した。
 
合格発表の日。
高校の玄関前に掲示されている合格者の番号の中に、私の受験番号はあった。
でも、親は合格したと報告した、私の言葉を信じなかった。
 
「見間違えたんじゃない?」
それが、親の一言だった。
 
「ウソでしょ。そんな見え透いた嘘つくわけないじゃない」
私は、心の中で何度もつぶやいた。
 
そして、知った。
「どんな結果を出しても、私の方に振り向くことはない」と。
 
絶望した。でも、すぐさま切り替えた。
「もう両親に存在を認めてもらうために生きることをやめよう」と。
 
ただもうその時には、「部活と勉強の両立」を達成させること以外に私が自分自身を許すことができなくなっていた。
 
毎日朝練、授業、昼錬、授業、部活、居残り練習、勉強……この繰り返しだった。
休日は授業が部活に変わるだけで、同じ生活を繰り返した。
 
表面上は。
 
燃え尽きた人間が再び燃えるのは容易じゃない。
 
ろうそくが溶けてロウが下にたまっているのではない。
紙が燃えたあとのように、私は燃えカスになっていた。
 
もう気合いでは、どうにもならなくなっていた。
 
中学生のころはもっと頑張れていたはずなのに……
ただただ、合格という目標に向かって、どんなにつまずいても走り続けられたのに……
 
自己嫌悪の毎日だった。
 
頑張れない自分を殴った。
どんなに殴っても、頑張れなかった。
 
そんな頑張れない人間の居場所は、部活になくなっていた。
陰口を浴びせられる毎日。
限界になって、辞めた。
 
私に残っているものは勉強だけになった。
勉強ができたわけでも、好きだったわけでもない。
でも、それ以外何もなかった。
 
ひたすら机に向かっていた。
テキストを何度も解いた。
 
分かっていた。
こんなやる気のない状態で勉強したって何も身につかないと。
でも、受け入れられなかった。
 
量をこなせば……
きっと……
 
努力は報われるはずだ……
 
そう、自分に言い聞かせた。
 
部活をやめた喪失感。
勉強しかない毎日。
結果が出なくて、ますます居場所がなくなった家。
 
暗闇の中を歩く毎日が続いた。
でも大学受験日は、容赦なく訪れた。
 
結果は、不合格。
 
その瞬間、私は全てを失った。
その絶望に耐えられなくなった。
その時の私が考えられたことは、感じる心を捨てることだった。
 
何を言われても何も感じない。
耳から入った音は、言語として認識せずに耳から出ていくだけ。
 
そう言い聞かせた。
1年間の浪人生活の間、私は感じない練習を繰り返した。
 
大学生になってからも感じず生きた。
一度できるようになると当たり前のようにできた。
平穏な日々になった。何も苦しいことを感じない日々だったから。
 
ところが、就職活動で悲劇は起こった。
就職活動を始めるにあたって、自己分析というものをすることになる。
自己分析の第一弾として、なんと、「たのしかったこと」「うれしかったこと」「かなしかったこと」「くやしかったこと」は何ですか、そんな質問があるのだ。
 
3年以上感じないように生きた私に、こんな感情にまつわる質問が答えられるはずはなかった。
 
「楽しいって何?」
私の頭に浮かんだことばだ。
 
どんなに考えても分からなかった。
 
一緒に自己分析をした友達は、いろんなエピソードを語っていた。
私には分からないいろんな感情を話していた。
 
挫折も後悔も……。
苦しい感情を覚えていたし、今もなお、いろんなことで葛藤していた。
 
すごいと思った。
私は耐えられない苦しみを味わったと思って、感情を捨てた。
でも、友達は耐えられない苦しみを耐えた。乗り越えた。そして、また更なる苦しみに真正面からぶち当たっている。
 
その時思った。
傷つくのは弱いんじゃない。
傷ついてもまた、傷つけられるのは、本当は強いんだと思う。
だって、逃げずに感情と向き合っているのだから。
 
逃げ方を知ってしまった私は、きっといつでも逃げられる。感じないように生きられる。でも、いい大人が爆笑ネタとして強がるのなんてかっこよくない。そして実はただ弱いだけと周りに思われるのも嫌だ。思いっきり傷ついて、乗り越えて、そっと誰かに優しい言葉をかけられる人になりたいと思う。上面じゃなく芯から強い人になりたい。
 
 
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2017-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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