親友から突き付けられた絶交は、愛の道しるべ
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記事:青空(ライティング・ゼミ 平日コース)
時折、ふと思うことがある。
彼女は今、元気にしているだろうか?
私の人生に「親友」と呼べるものがあったのならば、それは彼女だったと思う。
出逢ったのは、とある専門学校だった。
私とは違って、社会人としての経験を積んでから専門学校への道を選んだ彼女。
私よりも10歳近く年上だったこともあり、今までの友人知人よりも大人びた佇まいが新鮮で、それでいて若々しい感受性を備え、一緒にいて年齢差を意識しなくてよい心地よさもあった。
通常の授業がある日に一緒にお昼を食べたり、教室移動中や放課後におしゃべりしたり、試験前に机を並べて一緒に勉強したりしたばかりでなく、学校がない期間中にもよく一緒に過ごしていた。
たとえば春休み、誰もいない教室に二人で投稿して、部活のノリで技術の練習をしたり。
夏休みに公共施設を安く借りて、何人か仲間を集めて合宿をしたり。
彼女の実家の方で花火大会がある時には、一緒に連れていってもらったり。
自分をオープンにすることに慣れていない私にとって、「何でも話せる友達」に一番近い存在だった。
思えば私は、人と話をすることが苦手な人間だった。
小学校時代は、友人はクラスの中にせいぜい1人か2人。
中学校に上がった時は、友人が皆別の中学に行ってしまったので、自分からは誰にも話しかけずにいたら、最初の一週間は誰とも口をきかずに過ごしていた。
高校2年生の時、前の席に座っていた女の子に自分から話しかけることができて、「これは人生初の達成だ!」と我ながら驚いていた。
アルバイト先も、できるだけ社交性が求められないところを選んでいた。
ファミレスの裏方でひたすら天ぷらを揚げ続ける早朝バイトとか。
小さな製紙工場で、色とりどりの紙を数えて束ねて運ぶバイトとか。
だから、大学時代に初めて接客のバイトをした時には大変だった。
最初は牛タンを提供するチェーン店で、あまり規模の大きくないお店のホールを担当したが、面接のときから声が震えて裏返るありさまだった。
うっかり採用されたあとも、キッチンに注文を通すために声を上げることにものすごく緊張して、最後まで慣れなかった。
ホール担当は一人だけだったので、毎回ストレスの塊になりながらシフトに入っていた。
次は駅の中の小さな飲食店で、複数のスタッフの中で働いた。
複数で働くというのはまた別の苦労があった。
例えば一人のお客様から、「熱燗とホットドッグ」という注文があったら、自分は熱燗を用意して、他のスタッフにホットドッグを頼まなくてはいけない。
その「誰かに頼む」ということが、本当に苦手で苦手で、いっそのこと全部自分でやりたいと思うのだけれど、それでは仕事が回らない。
「人に頼むことや、人に任せることって、どうしてこんなに難しいのだろう」と常々思っていた。
そんな私だから、友人に自分の話を積極的にするタイプではない。
けれど、彼女には不思議と色々なことを話せた。
その時々の悩み。昨日あったこと。こんな風になりたいと思うこと。
彼女も、色々なことを話してくれた。
卒業したらやりたいと思っていること。彼とのこと。家族のこと。
何より、他愛のないことで笑い合えるのが嬉しかった。
「私にもこんな友人ができるんだ……」と、新鮮な喜びを持って過ごしていた。
月日が流れ、卒業研究をすることになり、彼女と同じグループになれた時は本当に嬉しかった。
ところがそれからが大変な時間だった。
彼女は周囲の人間関係に複雑に悩まされ、大変な状態になってしまっていた。
私は私で、ちょうどその時、昔お世話になっていた先輩の結婚式に係わっており、右も左も分からない中で、新郎新婦と共に式場に足を運んで司会の段取りを考えたり、サプライズの演出をこっそり企画したりしていた。
私は卒業研究のグループリーダーだったので、皆の卒業のためにも何とかこの状況を乗り切らなくてはいけないと思った。
ミーティング中に彼女が機能しなくなった時は皆の目を逸らしつつフォローしたり、課題をこっそり代わりに行ったりもした。
そんな中で、私も次第に疲弊を深めていった。研究発表の時には、人前で話すことに緊張すらできないくらい頭が朦朧としていたし、自分が何を話しているかも分からない時があった。
とはいえ、ともかく無事に終えることができた。ホッとした。
緊張の糸が切れたからか、私は大きく体調を崩し、学校を休む日も増えていった。
いつしか彼女も知ることになった。私が彼女を庇おうとしたこと。結果的に体調を崩したことを。
そして貰った手紙には、「もう関わらないで欲しい」と書いてあった。
彼女のためと思って全力でやった結果が、絶交だった。
学校に行っても、もう視線を合わせることすらなくなった。
しばらくの間は虚脱状態だった。なぜこんなことになってしまったのか……。
彼女からの手紙に庭で火をつけ、その炎を見つめながら茫然としていた時の感覚を、今でも覚えている。
――あれから十数年の時が経ち、私も自分なりに時を重ねてきた。
ぎりぎりのところで人を信じることや、人に任せることも、少しずつ学んできた。
今なら、彼女からの本当のメッセージを紐解けるように思う。
「全部ひとりで背負おうとしないで。私だってあなたのために働きたかった。もっと信頼して欲しかったのに」――と。
私が自分で思うよりも、私のことを大事にしてくれている人がいる。
大変な状況の中でも、私が勝手にジャッジする以上に、私のためを思ってくれる人がいる。
そのことを少しずつ学びつつあるのは、彼女がくれた「絶交という名の愛のみちしるべ」のおかげかもしれない。
もう、大切な人と絶交することのないように。
彼女から貰ったみちしるべを大切にしていこう。
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