やさしい言葉をあつめる理由
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:木村なほこ(ライティング・ゼミ特講)
先日行った博物館には、外国人のお客さんも多かった。
その展示の内容を、係りの人が説明をしていたのだけど、アジア系の親子連れにも、やさしい日本語で説明をしていたのを見かけた。
その親子連れはおそらくベトナムあたりの出身のようで、きっと英語で無理して説明するより、お父さんが少し日本語がわかるようだったから、日本語で説明を、という判断だったのだろう。
ゆっくりと、わかりやすい言葉をさがして話すその人は、とても優しく見えた。
そのお父さんは、それを更に子供に説明してあげていて、ほほえましい光景だった。
英語だけが外国語じゃないよな、と改めて感じたできごとだった。
街中で、外国人を見かけることも多いこの頃。
日本に住んでいる人も増えているのだろうけど、観光客であっても、けっこう日本語を勉強しているのか、カタコトでも話してくれる人も多い。
外国人に道を聞かれて、あわてて、顔の前で左右に手を振ったりして、ノーノ―、英語しゃべれない! なんていう光景は、最近見ていない気がする。
スマホの翻訳アプリも活躍しているのかもしれない。
そして、また英語圏の国以外から来ている人も多い。
最近になって、ある団体の活動を知った。
外国にルーツを持つ子供たちの教育を、支援する団体だ。
親の仕事の都合などで日本に来たけれど、ほとんど日本語が話せない。学校には行っているけれど、言葉の問題で友達が出来づらく、また授業も理解できない、という子供たちが、かなりいるのだという。
また、その親も、十分に日本語を理解できていない場合、学校とのコミュニケーションが難しく、お知らせのプリントなどもらっても、良く意味が分からず、準備が出来ないと言った問題もあるようだ。
そんな子供たちに、言葉とともに勉強を教えたり、親には、日本の学校とのコミュニケーションについて具体的に教えたり、そういう活動を行っているというのだ。
普通の公立の学校では、なかなかきめ細かいケアは難しいのだろうな、とは思う。
だけど、外国人が増えている、この最近の状況を見ると、なんとかしないといけない、という感じもする。
地方自治体では、災害が発生したときなどに、日本語が得意ではない外国人が情報不足にならないように、と「やさしい日本語」についての冊子を作ったりする取り組みをしているところもある。
「やさしい日本語」とは、たとえば
「記入する」ではなく「書く」、
「土足厳禁」ではなく「靴を脱いでください」、
「いらっしゃいますか」ではなく「いますか」、
などだ。
できるだけ、熟語を使わず、わかりにくい敬語も使わない。
考えて見れば、べつにいつでも、このやさしい日本語でいいんじゃないだろうか。
外国人だけでなく、子供にもわかりやすいし、大人だって不都合はない。
社会人になると、なんとなく難しい言葉や漢字を使った方が格調高い気がするのか、あえてそういう言葉遣いになってくる。
私も、「ご検討の程よろしくお願い申し上げます」などどやっている。
もちろん、論文を書くときなどは、専門用語もあるし、それなりの文体があるとは思う。
そして敬語は使えた方がいいし、美しい言葉だと、私も思う。
だけど、できるだけ理解されやすい日本語、というのも、大事なことだと思うのだ。
「伝わる」ということを第一に考えるならば、これも敬語が使えるのと同じくらい、とっさに使いこなせた方がいい。
最近は私も、文章を書くときに、読みやすさ、わかりやすい言葉づかいを意識するようになった。
やさしい言葉を使う、というのは、別に難しい言葉を知らないからではなく、もちろんレベルが低いということでもない。
読みやすく、そして誰にでも伝わるように書くというのは、慣れないと、かえって難しい。
やさしさが伝わるような言葉で、それでいて中身はしっかり詰まっていて新しい気づきをもらえる、そんな文章に出会ったとき、私は感心してしまう。
難しいことを難しい言葉を使って説明できるのは、ある意味当たり前かもしれない。
やさしい言葉で、複雑な、難しいことを表現するのは、本当に大変だ。
私はいつも、ここで四苦八苦する。
そう、ここでも「四苦八苦」なんて言葉を使ってしまう。
やさしい言葉づかいで、あらゆることを表現できるマスターになれたら。
子供にも、外国人にも伝わりやすく、普通の大人の日本人の心を打つような言葉をつかえたら。
それは最強ではないだろうか。
敬語は難しい。でもそれは単なるルールだから、覚えてしまえば難しくない。
英語よりも敬語よりも、やさしい言葉。
私は今、この「やさしい言葉」を使いこなして思い通りに表現できるように、特訓中である。
特訓とは、特別に集中して練習している、というところかな。
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