メディアグランプリ

仕事中に大泣きして、帰りに博物館へ行った最悪な日のこと。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ふくい(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
不覚にも会社で、仕事中に泣いてしまった。しかも頬を涙が伝って…というようなヤワな泣き方ではなく、ヒックヒックとしゃくりあげながら、嗚咽を漏らしながら、レベル100の大泣きで。まさか、こんなに泣くと思っていなかった。
 
ここ数日ずーっと、忙しい時のムシャクシャした思いが心の中でチリチリしていた。なんだか感情が定まらなくて仕事に行きたくないし、今までで一番仕事が混み合っていたから全てを投げ出したいという気持ちでいた。
 
その日は誰にでもある最悪な1日だった。女子にある月に一度のなんとやらで、お腹が痛いのに痛み止めも効かないし、必死に満員電車に揺られながら仕事へ向かえば、遅延のせいで遅刻。会社に着いたら、早速システムトラブルで対応に追われて、あー!! 今日も! 今日もトラブルかよ! いい加減にしてくれよ! と頭の中が沸騰しまくっていた。
 
こんな時だから、いやこんな時こそ、辛いとか、疲れたとかは言えないものだ。仕事を分担すれば、終電帰りのやつが一人増えるだけ。仕事をやればやるほど、残業をすればするほど、困った仕事がやってくる。しょうもない仕事は周りにお願いできないし、なんて思いつめた考えが渦巻いて、色々と抱えこみまくった挙句、私は完全に“仕事ができないやつ”に仕上がっていた。
 
そして、泣いた。
本当にバカ。もう少し賢くありたいものだ。
 
会社で泣くやつが一番嫌いだし、面倒臭いと思っていたのだが、その考えは金輪際封印することとなり、職場の仲間のご厚意で早めに帰途につくことになった。
なぜか駅まで歩く道々、ずっと行けずにいた国立科学博物館の特別展示へ行かなくてはならない気がしてきて、とっさにいつもと違う電車に乗り込んだ。ハートブレイクを引きずったまま、上野駅のトイレで鏡に映った自分は、腫れぼったい瞼に赤い目がウルウルしていて、なんだか不貞腐れたような顔つき。
 
少し恥ずかしいけれど、まぁいい。これも何かのネタになるかも。投げやりな思いで、季節外れの暖かさを抱えた夕方の上野公園を歩いた。観光客で賑わってはいるが平日の園内は穏やかで、ゆっくりと散歩気分で博物館へ。
大人なカップルに、おひとり様のおじさま。赤い目をした変な女は私だけだった。インスタ映えすると話題になっている展示があるから、若い子も多い。周囲と歩調を合わせながら、じりじりと展示を見て周る。
 
国立科学博物館の特別展示「人体ー神秘への挑戦」は、ホラー映画やグロい画像が苦手な私にとって、少しの挑戦であった。でも、天下のNHK様が放送している番組「人体ー神秘の巨大ネットワーク」がベースとなっているのだから、大丈夫。そして、何かしら得られるのであろうという気持ちだった。
 
結果を言えば、大正解だった。強いて不満を言うならば、展示を見た後にもつ焼きと焼肉は食べられないだろうということくらい。
人体の謎の虜になる研究者の背中を見ることができたし、心臓って自分が思っていたよりも大きいということを知った。肝臓を大切にして休肝日を作らねばとか、腸ってすごく長くて、毎朝トイレで流す大きなアレは結構な冒険をしているから敬意を表そうとか、くだらないことを考えて単純な感想と先ほどまで頭いっぱいに抱えていた悩みを交互に転がした。弱っているから、些細な展示のキャプションも心に響くみたいだ。
 
「驚くほど美しく騒がしい人体」
と銘打って、展示の目玉となっている「人体ネットワークシンフォニー」を見つめた時間は忘れられない。綺麗だった。博物館で知識を抜きにして、美しさにハッとする展示は稀だと思う。
 
そして、次に思ったのは、「あ、別に私が泣いたことなんて、臓器が発したメッセージの一つなんだから、仕方なかろう」ということであった。
初めて知ったのだが、脳みそが司令塔で、それに基づいて体が動いているというのは昔の定説で、最新の科学ではどうやら違うらしい。それぞれの臓器がメッセージ物質を発し、お互いに連携をとってヒトを支えているんだそうだ。キラキラと輝きながら、メッセージをやり取りする臓器たちが表現されたプラネタリウムのような展示は、それの仕組みを体感するためで、私は思惑通り、人体に宇宙を感じたのだった。
 
そして、こんな宇宙のように素晴らしい人体において私の悩みなんてちっぽけなものよ、とテンプレのごとく悩みをゴクリと飲み込んだ。悩みを消化するには、一度飲み込んで体に取り込まないとはじまらない。
 
「あぁ、あんな風にハイパーコンテンツに関わってみたい、作ってみたい」と悔しさと尊敬の念を燃やしながら、博物館を後にする。
 
人体展で味付けして飲み込んだ、あの悩みは私の血となり肉となるのだろう。
 
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

http://tenro-in.com/zemi/47691

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事