大切なものは、「かくかくしかじか」が教えてくれた
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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やりたい曲がない。ライティングに置き換えると、何を書けばいいのかわからない。ブログのネタでも、記事を書いているときは誰しもがこんなことを考えたことはないだろうか。あるいは絵を描いている人、作曲する人、クリエイティブに0から1を生み出す人が誰しも悩むことだろう。
でも、それを人に伝えると大概の人は「自分で考えろ」と困惑する。
考える枠組みや知識も、何かを生み出すための型も持ち合わせていない私は、そういわれてしまうととまどうことばかりだった。
でも東村アキコ著作「かくかくしかじか」はそこに一つの答えを出してくれる。
「ただ目の前にあるものを描け」とのことだ。
「かくかくしかじか」という漫画は、東村アキコの自伝漫画である。高校生の頃に画家の※先生と出会い、絵をかき、美大受験や就職、漫画家デビューなどの軌跡を描いた漫画である。
この先生の教えが「描け」という一言に集約されている。
どういうことなのかというと、何を描きたいか、は考えなくていい。ただ目の前にあるティッシュやオブジェをじっくり、いろんな角度から見て、それを細部まで描く、ということだ。そして、描くことを繰り返していく。ひたすら描く。
この特訓のおかげで、東村アキコは「酔っぱらっても漫画を描く」という特技を身に着けたという。また、当の本人はかなり速筆で毎月100ページ以以上の連載があるのにもかかわらず締め切りは守っているという。これも、とにかく手を動かすという教えのたまものではないだろうか。また、続けていくことでそれはルーティーンとなり、いつかそのルーティーンによって心が救われることがあるのだ。実際に最終巻では、「どんなに悲しいことがあっても、地震が起きても、私は描きつづけられる」と話している。それは「描くことが身についているからだ」としている。
また東村アキコは昔から「ぶーけ」など少女漫画が大好きだったこと、また題材として家族(『ひまわりっ!』や『ママはテンパリスト』)や身の回りにいた人(『東京タラレバ娘』)など、観察能力が優れている。これもその、「目の前にあることを描く」という教えに基づいているのだろう。「ヒモザイル」が炎上してしまったこともあったが、それも彼女の身の回りにいた人を「描いた」だけだったのだろう。
また、「かくかくしかじか」での東村アキコは根拠のない自信に満ち溢れていた。「私は絵がうまいんだ」という自信は描くという行動につながっていた。たとえどんなに「下手くそ」と言われ続けても、とにかく手を動かし続けていた。それが今の実績にもつながっているのではないだろうか。本当に、この漫画を読んだときにただただすごい、自分には持っていないものを持つ人だな、と感じたのはよく覚えている。
そんな中で私にとっての「描く」はなんだったのか。それはどうやら「トロンボーンを吹く」だった。
中学時代に吹奏楽部で担当したトロンボーンはひたすらロングトーンばかりやらされ、音を間違えれば指揮棒と怒鳴り声が飛んでくる厳しい部活だった。いったいいつ辞めてやるか、とばかり考えていた。けれども目の前にある譜面とひたすら向き合う、それに対して自分の音はどうなのか、と向き合っていた。どう吹くか、ではなく、ただ目の前の音符と向き合うことだった。これは今でも続いている。現在ジャズのビッグバンドで演奏する私は、譜読みをする際にかならず「譜面」と「譜面の実際の演奏の音源」を用意する。iPodで曲を流しながら譜面に書かれている音符を歌うことで音源の演奏と譜面を一致させ、それを実際に自分のトロンボーンに落とし込んでいく。これはまさに、目の前のオブジェ(=譜面)をじっくり観察(=音源を聞き込む)し、描く(=トロンボーンで演奏する)と思考が一致するのである。
その繰り返しで、気が付けばトロンボーンを始めて16年経った今でもロングトーンは続けているし、譜面は昔よりはるかに正確に演奏できるようになった。またジャンルも吹奏楽だけでなくジャズができるようになった。昔は嫌いだった自分の音を今は気にせず、8個の社会人ビッグバンドを電車の中で譜読みして、当たり前のように練習するようになった。そこに自分の音が嫌だから、とかそんなことは考えなくなった。それはどんなことがあっても演奏しつづけることで、「吹く」ことが染みついていたからなのだ。
もともと自信はなかったのだけれど、「吹く」ことによって少しはまともになっていった。何があっても目の前のことを観察し、手を動かし、やり続ける、というのはいつしか自分を支えてくれる。そう信じて今日もトロンボーンを吹いている。
だから皆さんも、同じように信じて手を動かして書けばよい。ブログのネタにしろ、よく周りを見ると面白いことが転がっている。家の近所で太鼓を練習している音が聴こえる、いつも乗る電車のアナウンスが「今日も一日行ってらっしゃい」と優しい、公園で遊ぶ子供がかわいい……たくさんあるではないか。そしてそれを、自分の言葉で伝えてみるのだ。最初は不器用かもしれない。
でも周囲を観察して、手を動かし続ければ、見えてくる。そう信じて「書き」始めよう。
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