プロフェッショナル・ゼミ

インドでの後悔が原動力となった話 《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:伊藤千織(プロフェッショナル・ゼミ)
 
あれ、なんか違う。
オーダーメイドしたスカートが届いたので確認したら、見覚えのない柄だった。
私は確か、緑色の柄の生地を選んだはず。しかし手元に届いたのは青色の柄の生地だった。
 
返品するか。でも、どうやって。なんて言えばいいのかわからない。
 
なぜ私がためらっているのかというと、このやりとりはインドで行われているからだ。
私はインドでの旅行中に、トラブルに巻き込まれた。
 
インドといえば、トラブルが後を絶たないイメージだった。日本でも、ぼったくりや女性が暴行されたといった物騒な報道をよく目にしていた。なので、インドに行くと決めてからはインドの習慣やトラブル回避法について事前に徹底的に調べた。
一人旅だったが、さすがに1人で単独行動するのは怖かったため、朝から夜までガチガチに観光コースの決まったツアーに申し込んだ。行く先々のお土産店や観光地では、敵を警戒する小動物のように、神経を研ぎ澄まして観光していた。
そこまでしても、トラブルは自分の身に起きてしまった。
 
宿泊先のホテルのロビーまでスカートを届けてくれたのは、店が手配したと思われる現地の男性3人だった。私は英語が全く喋れず、彼らとは身振り手振りでやりとりをしていた。
 
返品したい。でも、どう伝えたらいいのか言葉がわからない。
返品したいと伝えられたとして、どんな手順になるのだろうか。
模様を間違えているのだから、本当の模様を伝えないといけない。
そのためには、一度お店に行かないといけない。
いつ行くの。今行くことになってしまったら、さすがに私1人じゃ怖い。
ちゃんとお店に連れて行ってくれるのか、わからない。
どこか別の場所へ連れて行かれてしまうかもしれない。
 
私は悩みに悩み、結局間違えられたスカートをそのまま受け取ることにした。
スカートを受け取ると、3人のうち1人がこれまでに観光地を一緒にまわってきた現地ツアーガイドに電話をした。繋がると、私に電話に出るよう言われ、ツアーガイドの声を聞いた。
 
「商品はちゃんと希望のものでしたか」
「……はい」
「そうですか、よかったです」
 
スカートを受け取り、自分の部屋に戻ると、悔しさが募った。
現地の人に警戒しまくっていたので、私はそのツアーガイドのこともあまり信用していなかった。それでも、スカートが頼んだものと違ったことくらい相談できたのではないか。そこで今から現地に行けと言われたら、1人では怖いから一緒についてきてほしいと言えたのではないか。
 
それに、スカートをオーダーメイドするのに1万円もかかった。
私のインド旅行での目的の一つに、現地の布を使用したスカートを買うというものがあった。ツアーの途中で立ち寄ったお店は確かに正規のお土産店なのかもしれない。しかし、私は日本で1万円もする金額のスカートを買ったことがなかったし、そもそもインドの布がこんなにも高いとは思わなかった。
 
旅行前にインドについて調べたとき、インドでは値切れば商品をだいぶ安く買えるという情報があった。今回スカートの金額があまりに高かったので、安くならないかと交渉してみたが、一切話を聞いてもらえなかった。
 
観光客の足元を見すぎではないか。インドの布なら、素材の良し悪しなんてどうでもよかった。街中の露店ならこれの何十倍も安く買えたのではないか。
ツアーにしなきゃ良かった。1人で来なきゃ良かった。
飲み物も気軽に飲めないし、街も臭いしあちこちに動物がいるし落ち着けないし、いっそのことインドに来なきゃ良かった。
 
 
いや、違う。インドは悪くない。自分の意思を伝えることを諦めた自分が悪い。
せっかくの連休に大金払って海外に来たのに、私は何をウジウジ考えているんだ。
自力でインドに行くと決めたのは私だ。ツアーを選んだのは私だ。何が起きても自分で責任を取る覚悟で旅行したんじゃなかったのか。
 
私は帰りの飛行機の中で、ある決意をした。帰国後すぐに英語を1から勉強することを決めた。
英語が話せない状態で海外に行くことが不安なら、次に海外へ行くときまでに自力で現地の人と交渉ができるくらいまで英語を完璧にすればいい。そうすれば1人で自由に海外に行ける。
とにかく今すぐに、絶対にやってやる。インドでの悔しさが、私のやる気スイッチをオンにさせた。
 
私はインターネットで都内の英会話スクールを徹底的に調べた。講師が外国人で、会話が中心で、できるだけ料金の安いところがないか探した。とにかく現地に近い環境ですぐ勉強したことを実践できるレッスンがよかった。
 
すると、2か所魅力的な英会話スクールを見つけた。
1つは、1コマ45分間のレッスンを月に4回、自由に曜日と時間を選択できる「A」という英会話スクールだった。料金は入会金がなく手頃で、大手有名英会話スクールの約半額で済む。
もう1つは、1コマ3時間の「B」という英会話スクールだった。1レッスンにつき最大10名のグループレッスンで、3時間の中でディベートやゲームをする。1コマあたりのレッスンは長いが、45分で換算すると料金は割安だった。
どちらも講師は全員外国人で、テキストを購入する必要はない。私は両方の体験レッスンを受けてみた。
 
「A」の方は講師がとても気さくで、私がうまく伝えられなかった文法や文章を講師がその場で紙に書き、丁寧に解説してくれた。とても好印象だった。
 
一方「B」の方は、会話についていけず心が折れそうになった。メンバーのほとんどが大学生で留学経験があり、英語が堪能だった。私は自分だけが年上で、彼らと比べて全然英語ができないことに引け目を感じてしまい、いい印象をもてずに3時間を終えてしまった。
しかし、メンバーはみんな明るかった。年齢関係なく、積極的に話しかけてくれた。私のたどたどしい英語も必死に聞こうとしてくれた。伝えたい言葉が英語でわからなかった時、彼らは自然とアシストしてくれた。
私のちっぽけな負い目なんて、この場には不要だ。彼らに気負いなんてしなくていい。堂々としていればいい。前向きな彼らといれば、私も変われるかもしれない。
 
結局、私はどちらとも体験レッスンを受けたその日に申し込み、2か所通うことにした。
文法や単語は「A」で勉強して、その勉強した内容を「B」でアウトプットすればいい。とにかく、早く、会話ができるようにしたかった。
 
私はこれまでジムに通ったことがあったが、続かずに月額料金だけ支払って通わなくなったことがあった。しかし英会話だけは絶対そうはさせるかと、勉強の目的をいつも定期的に思い出し、絶対後悔のないようにと、自分に約束をした。
 
 
英語を勉強し始めて半年が経った頃だった。勉強した英会話を実践する機会が突然やってきた。
会社の出張のために駅の券売機で特急券を買おうとしていた時、隣の券売機にいた外国人女性に話しかけられた。券売機の表示が日本語しかなかったため、切符の買い方が分からなかったようだった。彼女はつたない日本語でなんとか会話をしようとしていたのだが、正直あまり理解ができなかった。
 
「行き先はどこですか。あー、ウェア……」
「タ、タテバヤシ?」
「あー、オーケー」
 
私は隣の券売機で彼女が言った行き先のボタンを押した。すると券売機には窓側の座席か通路側の座席か選択する画面が出てきた。
 
「あー、ウィンドウサイド? オア……」
「イエス、ウィンドウサイド!」
 
彼女が窓側を希望したため、窓側ボタンを押し、切符は無事買えた。彼女にお礼を言われたが、正直お礼を言われるほどたいしたことはできなかった。
 
単語しか言えなかった。それも「ウェア」「ウィンドウサイド」だけである。こんなの中学生の頃から知っていた。全然、半年間の英会話の成果を活かせなかった。
それでも私は彼女に感謝された。どんな形にせよ、役には立てたようで嬉しかった。
 
英語を勉強する前までの私だったら、きっと感謝されることはなかった。過去に外国人から話しかけられたことはあったが、これまでは一緒にいた友人に助けを求めたり、すべて日本語で返答したりしていた。そして相手が理解しきれていなかったとしても、これ以上聞かないでほしいと、逃げるようにその場を後にしていた。
 
それが、今回私は自力で英語を使って会話しようと努力した。私にとっては大きな進歩だった。どんな相手であっても、ためらうことなく自信を持って会話ができた。相手に伝えようという気持ちになれた。その結果、相手の期待に応えることができた。
 
日頃のレッスンのおかげだと思った。文法やひとつひとつの単語はまだ全然身についてはいないが、英会話のおかげで、自信と会話力、アウトプットする勇気が身についた。私がインドから帰って真っ先に身につけたかったのは、これらの能力だった。
 
もう、今の私はインドでグズグズしていたあの頃の私ではない。インドに行ってよかった。「悔しい」という感情は、私にとってやる気の原動力だったようだ。
次、私が1人で海外に行くのは9月だ。それまでにより自信と会話力を磨き、何が起きても動じない勇気を持っていきたい。
 
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