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プロフェッショナル・ゼミ

肌と肌とが触れあうとき、気をつけた方がよろしいこと《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:村井 武 (プロフェッショナル・ゼミ)

背中に触れられた瞬間、感じる。

あ、この人とは合わない。無理だ。出会うべきでなかった。

肌というのは、外界と触れ合う面積がとても、とても広くて、敏感な器官。だから、人と人とは直接・間接に肌を合わせるだけで、かなりのことを理解し合えると思っている。

私は手相を勉強しているのだが、手相自体を見る前に、「拝見しますね」と相手の手をとる時点で、いろんな情報が把握できるような気がしている。

肌が合うとか、合わない、とか、比喩として使われることが多い表現だけれども、実際に肌と肌とが触れ合って、その人と「合う」「合わない」を実感することは、みんな経験しているのだと思う。

その晩、女性はベッドの上で、私の背中に触れてきた。

瞬間、「あぁ、無理だ。この人とは肌が合わない」とわかった。しかし、お帰り頂くにはもう遅い。

彼女は、自分語りを始めた。自分がいかに苦労して来たか。哀しい女か。辛い思いに堪えてきたか。

「黙って」とは言えないのが私の気の弱さ。

触れ合うたびに、彼女の不幸が私の体に刷り込まれていくのが、まさに肌でわかる。そうだ。はじめのタッチでわかっていた。このひとは、不幸を語りたいんだ。

オー、マイ・ゴッド。神よ。

人一倍空気も雰囲気も読んでしまう私は、不幸せな人には同情もする。共感もする。手助けできる関係、距離なら、手助けもする。手を差し伸べるのが無理なら、そこから立ち去ることで、心中でその人の明るい未来を祈りつつも、まずは自分を守る。

でも、初対面で、いきなり肌を合わせて、それを刷り込まれるのは、無理です。無理です。あぁ、勘弁してください。もう逃げられる状況ではない。

や・め・て・く・だ・さ・い! 心の中でしか叫べない気の弱さを呪う。

どうして、こういうことになったろう。

*******

旅先で、疲れ果て、肩も背中も腰もガチガチに凝っていた私は、何も考えずに、ホテルのマッサージをお願いした。

やってきたのは60がらみの女性。

入って来るなり「お兄さん、45分なんて言わないで、2時間にしなさいよ。ね?」

気の弱い私は、疲労困憊もしていたし、これで体がラクになるならと、
「はい」
と答えた。

間髪入れずにベッドサイドの電話をとって「2時間に延長」とフロントに連絡するおばさん。

こうして有無を言わさず2時間のマッサージが始まった。

背中に触れられた瞬間、「あ、この人は、ちがう」とわかった。

私を楽にしてくれるマッサージさんではない。その直観は当たった。きっと客にあぶれていたのだろう。「2時間にしなさいよ」という長時間の強引な売り込みの意味もわかった。

ツボがわかってない、とか、力の入れ方が強いとか、弱いとか、そういう話ではない。肌が合わないのだ。

そこにもってきて、おばさんは、私の背中を揉みながら自分の身の上を延々と語り始めた。不幸がぐりぐりと背中に練り込まれているのが、ありありとわかる。

あぁ、もう、いいので切り上げてください、と言いたいのだけれど、おばさんは、いかに自分が苦労してきたかの話に思いっきり熱中している。

「そして、息子がね、お兄さんぐらいの歳なんだけどね・・・・・・」

時に同意を求められるのだが、相槌をうったら負けのような気がして、ひたすら口を閉じて聞いていた。僕は冷たい男だから、共感とか期待しないでください、と心で繰り返していた。

「あら、お兄さん、白髪あるじゃないの。あら、いっぱいあるわ」

いや、もうお兄さんじゃなくて、とっくにおじさんですから、白髪くらいありますよ。髪触るのやめてくださーい!

でも、言えない。おばさんワールドに取り込まれているので、言えない。

背中にはぐいぐい、いろんなものが揉みこまれていく。

2時間のベルが鳴った。

「延長しない?」

「いえ、いえ、いえ。もう、とってもラクになりましたので、このままぐっすり眠れそうです」

やっと解放されたが、体中、ぐったりして、疲労感が揉み散らかされていた。その晩は奇妙な緊張感に包まれ、寝つきが悪かった。

翌朝の寝覚めもよろしくなかった。

翌日、私は旅先である試験を受けたのだが、問題を開いた瞬間に、よからぬ結果が見えた。試験は実際、その通り、叶わぬ結果となった。さらに、その後数か月の間、私の身の上には、あれこれツラい出来事が続いた。願いは叶わない。思いは届かない。気持ちは通じない。

後付け、後知恵、思い込み、そんなバカな、と思われようが、主観的にはどう考えても、あのとき背中にいろんなものを揉みこまれて、運が落ちた、あるいはいささか大げさに言うと生命力を奪われたとしか思われない。そのくらい、あの肌の触れ合いは衝撃的だった。

後にこのホテルは営業を停止し、建物も取り壊されたと聞いた。私の運がそこそこ平常運転に回復するまでには数か月かかった。

肌の触れ合いには、本当に慎重を期さないといけない。

マッサージとか整体とかは施術者とそれを求める者との肌を通したコミュニケーションだ。言葉を交わさなくとも、熟練の施術者は、こちらの体の問題点を探して、そこに指・手を使って語り掛けてくれる。本当に巧い人にお願いするときには、言葉はいらない。

むしろ、私の場合、施術をしながらおしゃべりをされるのも、苦手だ。あの、おばさんは私のこのツポにも触れてきたのだ。

マッサージと床屋とタクシー、どれもサービス提供者と顧客とが近距離で空間を共有する共通点を持つが、少なくとも信頼できる相手でない限り、黙って仕事をして頂きたい、と私は思っている。波長が合わないまま話し続けられても逃げ場がなく、囚われの聴衆になってしまう三大空間。

肌の合う人の施術は、心も体もラクになる。心と体が表裏一体だと実感できる瞬間。まず例外なく、そういう人は黙って施術してくれる。

不幸を刷り込まれた一件に出会うまでは、マッサージや整体に行って「ご指名はございますか」と聞かれるのが不思議だった。誰がやっても、ツボを押してくれればいいんだから、同じだろうと思っていたのだ。

しかし、違う。自分の肌に触れてもらう人は、よくよく選ばないといけないのだ。単純に自分の体のクセを知っているとか、前回までのカルテがあるとか、話が巧いとか、そういう問題ではないのだ。肌合いが異なる人とは、着衣越しであっても、肌を合わせてはいけないのだ。へんてこりんな化学反応が生じて、運勢に変化が生じてしまうから。

医師でもあり、整体や各種の経絡のツボにも通じている人から
「医者も、整体も、人のゴミを拾う仕事ですから」
と聞いたことがある。

そうか。施術する側でもそれは感じるものなんだな。他人の不純物、不要なモノを拾ってしまう分、施術者には強靭な体力と気力とが必要になるのだろう。

そしてゴミや不純物を拾える施術者がいるなら、技量不足やら、心の持ち方によって、ゴミをこちらに練り込んでしまう施術者がいたっておかしくないわけだ。体力も気力も弱っているところに(だからこそ、施術をお願いしているのに)、これをやられたら、それは運気も落ちるよな、と思った。

怖い。

接触によって、運気に影響が出るのは、肌だけではないと知ったのは、その数年後のこと。

都内某所で信じ難く安い料金を売りにした床屋を目にした。最近増えているカットに特化した格安チェーン店ではない。いかにも「床屋」然とした古い店構え。ちょうど髪も伸びてきていたし、カットなんか誰にお願いしても同じだと思って、面白半分に飛び込んだ。何より、安いし。

入店した瞬間、店の空気が澱んでいるのがわかった。他に客はいない。店主と思しきおじさんが1人。愛想もなく、無言のままで、回転式の椅子をこっちに向ける。

椅子にかけて、店を見渡すと、まぁ、掃除が行き届いていないこと。靴を履いたまま入る店構えなのだが、土埃の溜まった床には何人分だろうと思うほどの、切られた髪の毛が積みあがっている。まだ午前中だったのに、この客足を考えると数日掃除をしていない?  黒い芝生のようで気持ちが悪い。前を見ると鏡は曇っている。後悔と共に外を見ると、窓も汚れで曇っていて、街の様子がよく見えない。

汚い床屋の話って、北杜夫の「どくとるマンボウ航海記」に出てきたな。パリに留学中の辻邦生のアパートの近くだったな。それにしてもこれほど汚かったのかな。落語に無精床って噺もあったな。あそこも汚い床屋だったな。そんなことをとっさに思い出していた。

おじさんは、こちらの注文を聞くでもない。

髪を軽く濡らしてもらう水が妙に匂う。ハサミを手にしたおじさん。武骨にザック、ザックと私の髪の毛を切っていく。あ、ちょっと、痛いんですけど? ハサミ、研いであります?

おじさんの指先が私の髪と頭をなぞる。なんだこの感触。あぁ、また、肌が合わない! あのホテルのマッサージおばさんの記憶が蘇る。この床屋さんからは「まじめにやる気ないぞ」感が思いっきり伝わってくる。

髪の毛も肌も一緒か! 髪のカットも「誰がやっても同じ」なんかではなかったのだ。値段で選んじゃダメだったんだ。

おじさんの指が私の髪の毛をすごくざっくりつまみ、ザグっと、切れ味の悪いハサミが入るたびに、髪の毛はひきつれ、痛くて、同時に私の生命力が削がれていく。髪の毛切られて神通力失うのってサムソンとデリラだっけ? メデューサ? いやいやいや。

奔逸する思考。人と触れ合うって、こんなに注意深くしないといけないのだった。うー。あの時と同じ「やっちゃった」感。一刻も早く、この空間とおじさんの手から解放されたい。

不幸中の幸いだろうか、おじさんの仕事は雑な分、速かった。やる気ねー感はぞくぞく伝わってきたが、自分の不幸語りをすることもなかった。カットは終わった。もう、髪型がどうなってるかなんて、どうでもよかった。来た時より短くなってれば、いいよ。

「シャンプー」

おじさんのぶっきら棒な声。

ほっとしたのも束の間、シャンプーのためにおじさんが開けてくれた引き出し式のシンクに向かって頭を下げた瞬間、再びの衝撃。白いはずの陶器の洗髪用シンクが前の客の髪の毛で真っ黒だったのだ! ダメじゃん。おじさん、いくらなんでも、これ、ダメじゃん。一人ずつ終わったら洗い流すでしょ? やる気ねーっつっても、何人分の髪の毛溜めてるんですか。

だめだ。また運勢の引き潮だ。こうなること自体運命だったのか、とか、頭がグラグラする。床に、シンクに、汚く溜まった黒い髪の毛が、目に焼き付く。

その土地の持つ気のようなものと合わないこともあったのだろう。(都内でもちょっと苦手なエリアをたまたま探訪してしまったときのことだった。)

私の運勢は、その後数週間、低迷した。床屋さんとの接触時間が短かった分、回復に要する期間も短かったのかもしれない。

思い込み、迷信、心の弱さと言って下さって構わない。私の中では、確実に、肌の合わない人との物理的接触によって、自分の運気が損なわれるのだ。

私に、触れるな。

幸い、逆の事象も起きる。汚な床屋の失敗から数年後くらいか、ヘアメイクアーティスト、Mさんとのご縁ができた。10名ばかりの男女が、1日がかりでカットをしてもらうイベントでのこと。1人ひとりのカットが終わるたびに、その変化に会場に集まった人々がどよめく。目的が抽象的にのみ示された、ある種のブラインド・イベントだったので参加者の中には「えー、僕、前の日に床屋行ってきちゃいました」という男性もいたのだが、彼でさえ変化した。私じしん、生まれて初めて納得のいく髪型にしてもらえた。(若いころ、ひとりよがりに髪を切らず長髪にして「イケてる」と勘違いしていた暗黒時代はこの際措いておく。)

横浜港の汽笛を耳にカットしてもらいながら、髪の毛に触れるMさんの手とハサミの感覚が、今までに感じたことがないほど心地よいことに気付いた。

Mさんは都内のマンションの一室を仕事場として仕事をしているという。仕事場をアトリエと呼んでいるというのが素敵だと思った。

「今度、アトリエにお邪魔してもいいですか」
「もちろん」

その時期、私は体調を崩して病院通いが続いていたりしたのだが、その日を境に、気力と体力が戻っていくのがわかった。

それ以降、定期的にMさんのアトリエを訪れることは、私にとって、単なる髪のカットを超える、心身のチューニングになった。Mさんの手とハサミは、老若男女、多くの人のルックスと生命力と、多分運勢とを、整えてきたのだ。

アトリエは、そんなMさんを慕って集まるたくさんの人々のほっこりした気が積み重なって、多くの人にとってのパワースポットになっている。年中、不思議に枯れない植物が繁茂していることが、アトリエの気のよさ示している。

残念なのはそのアトリエから株分けしてもらってきたかわいい小さな観葉植物が私の自宅に来たとたん、想定を超えてデカくなり-Mさんは「私の目の届かないところだと、態度がでかくなるんだな」と言っていた-やがて枯れてしまったことだ。まだ、私自身の元気は足りないと見える。

せめて、私は、他人の元気を奪わない気とタッチとを身に着けておこう。

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミプロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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