チーム天狼院

あの頃の方が、とどれだけ思われたとしても。《天狼院書店「池袋駅前店」8月26日池袋東口・WACCA池袋にGRAND OPEN》


「新店舗の名前、決めたよ」

天狼院書店・店主であり、上司である三浦さんとは、もう3年半の付き合いになる。
私が大学生の頃から、ぶれることなく面白いことを考え続けている彼には、常に刺激を受けながら、そして常に振り回されながら、それでもやっぱり三浦さんと天狼院を取り巻くこの環境があまりにも面白くて、なんだかんだ、私はここを離れられずにいる。
三浦さんには、とくべつ面白いことを思いついたときの、「笑い癖」のようなものがある。
いたずらっ子のように、キラキラと目を輝かせて、ニヤリと笑うのである。
彼がそんな笑いかたをしたときは、何かこれから面白いことが起こる前触れだった。

だから、新店舗の名前決めたよ、と言った三浦さんの表情を見たとき、私はぞくりとした。

今までにないほど、これまでに一度も見たことがないほど、企みを含んだ顔で、ニヤリと笑っていたからだ。
私には、これから何かが大きく動きだすということが、直感的にわかった。

何かが、変わる。
おそらく天狼院は、これまでの天狼院ではなくなる。

私には抗えないようなとても大きな流れがやってくるのがはっきりとわかったとき、私の脳裏には、私がはじめて天狼院に来たときのことが浮かんだ。

「東京天狼院」と書かれた扉を開けたのは、寒い冬のことだった。

その頃私は大学3年生で、真っ黒なリクルートスーツを着て、痛い足を引きずりながら池袋にたどり着いていた。「天狼院書店」という書店のイベントに参加するためだった。
おそらく本好きの店主が個人的な趣味でやっているであろう、一度も名前を聞いたこともない小さな書店に、私はなぜか、根拠もなく期待を抱いていた。

ここに行けば、何かが変わるんじゃないか。

そんな期待を抱いていた。いや、抱かざるを得なかった。なぜなら私は、そのとき落ちこぼれ就活生で、崖っぷちに追いやられていたからだ。

面接を受けるも、ことごとく落ちまくっていた。出版社、広告会社、外資系メーカー。誰もが「すごい」と認めるような有名企業ばかり受けていた。
倍率が高いのだから落ちても当たり前なのに、自分が納得できる会社でないとエントリーシートを送るのすら嫌だったから、もともとの手持ちの数が少なかった。
結局私に残されていたのは、一社だけだった。名の知れた出版社だった。
もしもその一社が落ちれば、また会社情報を集めてエントリーシートを送るところからはじめなければならない。またあの面倒な作業を一からやって、自分よりも優秀な学生に囲まれて面接やグループディスカッションをしてプライドを傷つけられる勇気が、その時の私にはまだなかった。

だから、なんとかしてその出版社にだけは、内定をもらわなければならないと躍起になっていた。目を血眼にしてその会社の情報を集めていたとき、ふとたどり着いたのが、天狼院書店だった。
私が行きたいその出版社と関連して、イベントやフェアをやっているようだった。天狼院、なんて変な名前。最初にそう思ったのを覚えている。なんとなく怪しい雰囲気がするなと思ったけれど、その時の私は、藁にもすがる思いで天狼院に行くことにしたのだった。

そうして、はやる鼓動をおさえながら東京天狼院の扉を開けた。緊張して、取っ手を持つ手が震えていた。小さな店内に、たくさんのお客さんが集まっていた。

なんだ、ここは。
異質な空気を感じた。けれどもなぜか、嫌だとは全く思わなかった。あたたかい、誰でも入れる部室のような雰囲気。ふんわりと、木の匂いがした。
こぢんまりとした本屋だからこその、アットホームな雰囲気を、私は一発で気に入った。

東京天狼院の店内は想像していたよりもずっと狭くて、その狭い店内に本がずらりと並んでいた。独特の字で書かれたPOPもいくつかある。パッと見ただけでも買いたい本が何冊もあった。

「どうもー、イベント参加します?」

そして、入った私に話しかけてきたのは、スキンヘッドにヒゲの、年齢不詳の男性だった。この人が店主だろうか? メガネでひょろりとした感じの店員が出迎えてくれることを予想していた私は、一瞬たじろいだ。まったく本屋らしい格好ではなかったし、話している内容もあまり本屋らしくはなかった。ただ「いかに面白いことを思いつくか」ということをひたすら考えているような感じがして、私が想像していた本好きの集まりというのとは、随分違っている気がした。

「これって、超絶面白いことになるよ!!!」

それが、三浦さんだった。いかにも怪しい風貌のおじさんという感じだったが、つぶらな目はキラキラと輝き、面白いことをやってやろうという企みに満ちていた。
思えば、ニヤリと笑うあの表情に何かを感じて、私はここで働くのを決めたのかもしれない。

イベントに参加し、この三浦さんと話をしたのをきっかけに、私はインターン生として天狼院で働くことになった。
天狼院には出版社の人もたくさん来るから、きっと就活に役にたつと思うよ。そう言われたら、断る理由など何もない。
けれど正直なところ、天狼院のイベントに参加して、三浦さんと話した段階で、私にはもはや、そんなことはどうでもよくなっていた。就活に役立つとか、出版社の情報が得られるとかよりも、ここで起こる面白そうなことに、ずっと興味を惹かれた。
その書店には、小さいながらも、パワーが満ちていた。可能性が無限にあるように思えた。このスキンヘッドの店主は、何かとんでもないことをやらかしてしまうんじゃないかと、そんな予感がした。

「書店業界に、革命を起こす」

三浦さんは大真面目な顔をしてそう言っていた。ただの小さな本屋のくせに、ずいぶんとでかいことを言うもんだ。あるいは、多くの人にはそう思われていたかもしれない。当たり前だ。彼が言っていたことはあまりにも大きすぎる話だったし、たった12坪の小さな書店が、書店業界にそこまで影響を与えるなんて、冷静に考えればほとんどありえないことだった。

けれど私はそのとき、彼を信じてみたいと、追いかけてみたいと、はっきりそう感じた。ただ直感的に、そうしなければならないような気がした。

それは、まるでワンピースの一巻を読んでいるときのようなワクワク感だった。
ルフィが小さなボロいボートに乗って、グランドラインに漕ぎ出していくシーンが、私には浮かんだ。

きっとこの店も、はじまったばかりなのだ。
仲間もまだ誰もいなくて、すぐに壊れてしまいそうな船で、大海原に漕ぎ出そうとしている船長がひとり。
そう思ったとき、ワクワクした。これほどワクワクしたのは、久しぶりのことだった。
この小さな船が、どこまで行くのか、見てみたい。

思えば、そんな純粋な感情が、今ここまで、私を天狼院につなぎとめているのかもしれない。

はじまりは、単なる好奇心だった。
池袋の東通りをずっと奥の方まで歩いた、住宅街にあるビルの二階。
知らなければ、理由がなければ、誰も入りたがらないような場所に、天狼院書店はあった。
私が飛び込んだ漕ぎ出したばかりの船では、次々に面白いことが起きた。

数々の部活ができた。
雑誌を作った。
演劇をやった。
映画を作った。

無謀なことに挑戦しすぎたせいで、幾度となく、潰れそうな危機がやってきて、それを乗り切った。
三浦さんの顔が青白くなっているのを何度も見かけた。大学生の手でもなんでもいいから借りたかったのだろう、おかげで重要な仕事を任せてもらうことができた。

一度は就職のため、天狼院を離れた。けれども、一度スタッフではなく客として天狼院を見ると、いかに異常なスピードで天狼院が動いているのかが、よくわかった。
私がいない間に、天狼院はどんどん有名になっていった。

福岡天狼院がオープンし、糸井重里さんに取り上げられたことで知名度は一気に広がった。
メディアに取り上げられる回数も増え、私の友人からも天狼院の名を聞くようになった。

このままじゃ、だめだ。
ものすごい焦燥感をおぼえた私は、いそいで天狼院に戻ることにした。

このままじゃ、置いていかれる。

気がつけば、ボロボロだったはずのボートはゴーイングメリー号になり、船乗りを増やしてあっという間に、肉眼では見えないずっと遠くの方の海まで行ってしまったように思えた。

 

 

あの寒い冬の日から、もう3年半である。

天狼院はあの頃から勢いを落とさないまま、猛烈なスピードで海を走っている。

ゼミが出来た。
旅部がはじまった。
スタジオ天狼院が出来た。
京都天狼院が出来た。
新しい雑誌が出来上がり、その雑誌が、他の大型書店でも売られるようになった。

そして、今。

「新店舗の名前、決めたよ」

三浦さんは、ニヤリと笑う。
あのはじめて出会った日と何も変わらない企みを含んだ笑い方をする。
私は、ぞくりとした。
ああ、そうだ。最初に三浦さんと話したときも、こんな風に背筋がぞくりとしたのだ。確実に、何かが起こるような、そんな予感がした。

「池袋駅前店」

そして、私の勘は、たいてい当たる。私はボケッとしているけれど、結構勘は鋭いところがある。
私には、直感的にわかった。わかってしまった。天狼院が、これから大きく変わるであろうことが。

この池袋駅前店が出来ることによって、天狼院は、これまでの天狼院ではなくなる。

ついに、ここまで来たか、と私は思った。

東通りの誰も気がつかないような場所で、たったの12坪ではじまった小さな書店。

小さいくせに、「革命を起こす」などと、デカイことを言いまくる店主。
おそらくみんな、その彼が言うことを、半信半疑で聞いていただろう。
小さな船はあくまでも小さな船であって、大航海時代を乗り越えられるとは、誰も信じていなかったかもしれない。

けれども今、池袋駅前に、こうして店が出来る。
池袋東口からたった3分の商業施設、WACCA池袋の二階に、あらたな店舗がオープンする。

ここまで、来た。
来てしまった。

正直に言うと、私自身が一番驚いている。
まさかあの小さな船が、ここまで来るとは思わなかった。
私も、半信半疑だった。それに、そこまで行って欲しくないという思いもあった。

天狼院は、小さな街の本屋だからこそ、こぢんまりとした部室のような空気があるからこそいいのであって、それがなくなってチェーン店のような大きな本屋になってしまったら、天狼院は天狼院らしさを失ってしまうような気がする。

あくまでも「小さいくせに色んな面白いことに挑戦している」からこそ面白いのであって、大きくなって有名になってしまったら、何も面白くない。

そう思っていた。有名になるのは、何か、違うような気がした。おそらく、お客様の中にだって、そう思われている方もいるだろう。
あの頃の方がよかったと、あの小さいくせに必死になって色々やっている感じがよかったのにと、そう言われる方もいるだろう。

調子に乗りやがってと、離れていってしまうお客様も、あるいは、いるかもしれない。

けれども、それでも私たちは、ここで舟を漕ぐことをやめてはいけない。やめることはできない。

なぜなら、必死になって漕ぎ続けていなければ、それは、天狼院ではないからだ。

常に前を向き続け、船に穴が開いても、大波に揺られて溺れそうになっても、それでも前へ前へと、必死になって進み続けなければならない。変わり続けなければならない。
変化しないのならば、それは、天狼院ではない。

「人生を変える書店」をうたっている本屋が変わり続けないで、どうやって人の人生を動かせると言うのだろう?

私は、ここまで来たことを、誇りに思う。
そして同時に、いや、それ以上に、恐ろしいとも思う。

いったい、この船は、どこまで行ってしまうのか。
すでに信じられないようなことが次々に起こっているのに、この先の未来には、どんなことが待ち受けているんだろう。

わからない。わからないけれど、天狼院が大きく変化するこの瀬戸際に、今私は立っているのだということはたしかだ。

これ以上大きくなれば、こう思われることもあるだろう。

あの頃の方が楽しかった。
あの頃の方が面白かった。
あの頃の方が、好きだった。

けれども、それでも、私たちは進み続けなければならない。

あの頃の方が、とどれだけ思われたとしても、天狼院は、これからも大きく変わり続け、お客様にもっともっと面白がっていただけるように、成長し続けなければならない。そうやって変化し続けることこそ、これまで支え、応援してくださったお客様にできる最大の恩返しだ。

そうしてこれからも必死に船を漕いで行くことが、私たち天狼院書店スタッフが今もっともやるべきことだと、私は思う。

天狼院書店 池袋駅前店。
2017年8月26日11時に、グランド・オープンいたします。

これまでの天狼院書店とは、雰囲気もガラリと変わった書店になると思います。

ぜひ、オープン日に店頭にお越しください。

みなさまに楽しんでいただけるよう、全力でお迎えいたします。

どうぞ、よろしくお願い致します。

天狼院書店池袋駅前店
店長 川代紗生

 

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

天狼院書店「池袋駅前店」 2017年8月26日(土)グランド・オープン
〒171-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 2F
*「WACCA池袋」の2Fです。WACCA池袋へのアクセス

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2017-08-14 | Posted in チーム天狼院, 川代ノート, 記事

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