チーム天狼院

人生を変えたければ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村山真子(チーム天狼院)
 
「もっとアクセル踏んで」
 
助手席から声がした。それは、怒るというよりは呆れたような声だった。ミラーで周囲の安全確認を十分におこなった後で、制限速度を確認し、私はアクセルを少し強く踏んだ。
 
「運転すると気持ちが大きくなって、危険運転をする人がいます」
 
免許取得前、教習所の授業で見た、映像を思い出す。自分が力を得たような錯覚、自分の強さを友人や周囲に見せつけたい欲求、それが制御できず、無謀な運転をして結局は事故を起こしてしまう映像だった。
あれは見ていて心底嫌な気持ちになった。自分は絶対にそんな運転はしたくないと強く思っていた。
 
「もっと、アクセル、踏んで」
 
助手席から、ほんとに勘弁してくれという気持ちが混ざった声がした。気を張ってないとアクセルを踏む足をゆるめてしまう自分に、自分でもなぜだろうと思った。
 
 
ある程度速度を出さなければ、それはそれでルール違反だということを、教習所では教わった。だから、そのルールは守りながら、かつ制限速度よりは遅く走っていた。周りの車はビュンビュン私の車を右側から追い抜いていたけれど、私はこれでいいんだ、安全第一だ、何を思われたっていいじゃないか、と、自分に言い聞かせていた。
 
ドライブは私の最近の唯一と言ってもいい趣味である。
 
「速度を出さないのも、危険なんだよ」
はじめは、正直、なんのことかわからなかった。
 
 
 
 
 
 
必要以上の安全確認と危険予測、失敗を恐れる運転。
 
“運転”を”人生”に置き換えると、それは私の人生そのもののようだった。
 
 
ゆっくりいこうよ。焦らずいこうよ。自分のペースで。
 
生きていると耳にすることのある、そういうたぐいの言葉を真に受けていた。
 
いや、真に受けすぎていたのかもしれない。
 
 
 
ある程度しっかりアクセルを踏みながら、それでも気持ちは焦らず。そういう意味だったのかもしれない。
 
 
運転が私の写し鏡のように思えてきた。
 
まだ起こってもいないことの心配をしすぎて、私は人生のアクセルを踏むのが怖くなってしまっていた。基本的に足はブレーキにそえたままで、かろうじてクリープ現象で進んでいる状態だった。自分のペースで行けばいい、そう思っていた。
 
 
しかしようやく、客観的に自分の運転と人生を分析して、どちらももう少しアクセルを踏む必要があると思えた。
自分が納得したら動く性格の私は、ようやく助手席からの助言の意味を理解した。
 
 
ここから、私の人生を変えるドライブが始まった。
 
アクセルを適切に踏むことができるようになった。
イレギュラーなことが起こっても周囲の車の対応をよくみて真似して対処したり。
駐車も一発で決めなくていいし、枠内におさまっていれば多少車体が曲がっててもオーケーと思えるようになった。
疲れたと思ったら、途中で運転を代わってもらうことも覚えた。なにがなんでも最後までやりとげたくて、運転すると決めたら誰にも譲らず行きも帰りも自分が運転してた頃の自分と比べたら、大違いだ。
 
そう。信頼できる人に目的地だけ告げて、運転をまかせてもいいのだ。
なにも常に自分で運転しなくても。
それは、きっと人生も同じだ。
 
スピードを出してみたりあれやこれや試行錯誤しながら乗っていたら、ドライブがもっと楽しくなり、もっと運転したくなり、どんどん運転技術も上がってきた。運転技術が上がれば、もっと遠くへ行ってみたくなってきた。
 
 
そうやって、運転を変えているうちに、自分の生き方までもが変わってきた。
 
人生でいろんなことを試して、人生を楽しむことができるようになって、もっと生きたくなってきて、前よりも上手に生きることができるようになって、今度はもっと違うことがしてみたくなったり。
 
 
「やべぇ、眠くなってきた」
 
助手席から、いびきが聞こえてきた。
私の運転が安心できるものになった証拠かも。
 
 
この先、人生を変えたくなることがあったら、その時は、ハンドルを意識的に握ってみよう。
 
運転から、そんな学びを得た。
 
***

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