【天狼院書店大暴露日記】「営業」の恐れ
*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:田中望美(チーム天狼院)
「うちの息子に会わせたい」
「いやいや、私はまだまだ全然なんです」
喋り方がおっとりとした男性。
しかし、天狼院書店に入るやいなや、ゼミや本に興味津々。おっとりした喋り方で、たくさんお話ししてくださる男性。
とてもとても会話が弾んだ。
そして、翌日のライティング・ゼミに参加されることになった。
私は、受注したことになる。
営業で一件受注したのだ。
会社や自分のためにお金を稼いだ。
商売なのだから、当たり前の流れである。
けれど私は、営業のためにゼミにお誘いしようとすると、罪悪感に苛まれる。
え、私、お金のためにお客さんに話しかけてるの?
自分の利益の為に、笑顔で話しかけるってどうなの??
嫌がられるんじゃないか??
そっとして欲しいと思ってるんじゃなかろうか?
私が誘ったことで、しつこいと思われて、天狼院書店のことを嫌いになってしまったらどうしよう。
怖い。
営業って大変だし、それを仕事にしている人は、凄いなとつくづく思う。
以前営業職について、新人でもあるにかかわらず、営業トップになった友人はこう言っていた。
一日中、机に座って電話かけまくってたよ。もう、無心。つらいけど、やるしか無いと思って頑張った。色んな情報かき集めて、自分で工夫してやったら取れたんだよね。
彼女は、とても正義感が強く、明るい性格だ。さっぱりとしているから、男子にも女子にも好感が持たれるのだ。そんな彼女にエアー営業のモノマネして。と無茶ぶりをいったら、恥ずかしそうにちょっとだけやってくれた。もう何千回と言ってきた言葉なのだろう。普通の人が言えば噛むところをスルスルとリズムよく喋る。しかも、その声のトーンは彼女の性格がにじみ出ているようだった。
私は彼女に尋ねた。
「営業って、難しいよね?」
「う~ん。難しいけど、やるだけやったらやっぱ、達成感はあるよ。喜んでもらえたら嬉しいし、自分が担当でよかったって思ってもらえるように、めちゃめちゃ心がけてる。私、人に喜んでもらいたいんだよね。腐れたくないし」
私は凄いというかなんというか、びっくりした。同時に自分のことをとてつもなく恥ずかしく思った。こんなに堂々と人に喜んでもらいたいと、言えるのか。しかも営業で。
人に喜んでもらえることが自分の喜びだ。
そういう彼女の目は、嘘一つ無い澄んだ目をしていた。
私の人にモノやサービスを売るという罪悪感は何なのだろうと思った。
私には、売るという行為自体が、押し付けで、嫌な、下心のあることなのだと思えてならなかった。
けれど、1年目にして営業トップとして表彰された彼女は、そんなわだかまりを通り越して、人にモノを売りまくっている。
多分、私達の違いは、ここだろうと思う。
自分のことばかり考えながら売っている私に対し、彼女は相手基準で物事を考えている。売るという行為自体は、悪いものでも何でも無い。というかむしろ、そうしなければ商売は成り立たないわけで、世の中に役立つものやサービスが循環していかない。それは社会にとっても良いことではないし、巡り巡って自分自身にも悪影響を及ぼすことかもしれない。
私の中のちっぽけなプライドや思い込みが邪魔をしているせいで、もしかしたら相手にとって必要かもしれないコンテンツを遮断しているのだ。確か、店主三浦はその事を機会損失だと言っていた。クリエーターは世の中の人のために、良いコンテンツを生み続ける義務がある。電車の車掌さんが、毎日運転してくれているのと同じように。
天狼院書店は、絶えず質の良い自信を持って世に出せると言えるコンテンツを産み続けている。そのことは、私が一番新鮮に覚えているはずだった。ここで働き始める半年前は、天狼院書店の一お客さんだったのだ。いつもいつも「のんちゃん」と言って妹のように親しんでくれる社員スタッフ。忙しい中、こんな何も知らない田舎娘の相談に長時間付き合ってくれていた店主三浦。ここで私は3年の間、多くの素晴らしい学びとスキルと人脈を手に入れた。ここで社員スタッフや店主三浦に声をかけてもらえていなかったら、今頃自分はどうなっていたのだろうと、身震いするほどだ。きっと、何もかもなあなあにしてしまう甘ったれた社会人になっていたかもしれない。いやもし、そうでなくてうまくやっていっていたとしても、私は今、この天狼院書店で育ってきた自分のほうが好きだと自信を持って言える。その時の私は、営業をされているなんて思ったこともなかった。むしろ、自分から、なんでもやりたいと強く望んでいたのだ。だから、親身になってアドバイスをくれたり説明してくれた書店の人には感謝しかなかった。
自分が一番、天狼院書店のゼミや部活、その他数多くのモノやサービスがとてつもなく良いことを知っているのに、いざ、自分が売ろうとすると、億劫になってしまうのは、営業のせいではない。自分がどんなスタンスでお客さんと関わっているかが問題だったのだと気がついた。
だから私は今、お客さんと心通い合う会話をすることを心がけている。自分が心を開いて胸の内をさらけ出さなければ、お客さんからの信用は得られないと思うのだ。それからまだまだ下手くそで、サボりがちになってしまうことが多いけれど、お店全体の情報を把握すること。それはお客さんが不安にならない為にとても重要なことだと思っている。私にオススメしてもらってよかった、任せてよかったと言ってもらい、信用を得るためでもある。
「うちの息子に会わせたい」
「いやいや、私はまだまだ全然なんです」
先日受注した時にした会話だ。
私が天狼院書店で学んだこと、大変だけど、やりたいとことをやれているこの環境のおかげで充実していることを話したところ、おっとりしゃべる男性は、都内で就活中の息子のことが頭に浮かんだそうだ。
「アイツにもこんな風に自分のやりたいこと、好きなことをして生きていってほしいと思ってるんだよね。あなたのような人をうちの息子に会わせたい。東京の天狼院書店に行くよう言ってみるかな」
私自身も就活中に天狼院書店に出会い、今まで教わってこなかったいろんな考え方を知り、人生の大きな決断ができた。
だから私はこう言った。
「是非、息子さんにも東京天狼院に行って、いろんなゼミに参加して欲しいです」
あれから、あのおっとりしゃべる男性は、息子さんに話しただろうか。
話してくれて、少し遠いけど、足を伸ばしてくれてたらいいなと思う。
なんだか、ちゃんと心を開いて営業すれば、営業をした感じがしない気がしていた。
だって、本当に息子さんやそのお父さんの為になればいいな、と思うからだ。
ああ、相手を思うってこういうことなのかもしれない。
感謝し、感謝される関係になれたとき、営業は営業でも、罪悪感ではなく、どこか達成感に満ちたものに思える。
やっぱりまだまだ営業することが怖いと思うことがある。それは言ってしまえば、人と人の関わりなのだから、あたり前のことかもしれない。人の心は全てわかるはずがないのだから、不安になることはたくさんある。けれど、唯一わかる「自分」が心通わせようとしなければ、うまくいくものもうまくいかないのだ。そう感じた。
まだまだ、営業に限らず天狼院の無限にある仕事への奮闘は続く。
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