イベント情報

人生には補助輪を外さなければならない場面がある


記事:中居照喜(ライティングラボ)

Facebookで自分のウォールを見ていると、ボロボロになった自転車の補助輪の写真が目にとまった。娘が補助輪なしで乗れるようなったお父さんからの投稿。

「もうお別れだね」

 そんな言葉とともに、取り外され箱に収まったその姿はどこか誇らしげだ。

 少年時代を思い返してみる。ぼくは補助輪が取れるのが遅かった。ぼくと同年代の子たちはぼくの自転車より一回り大きい「大人の」自転車で遠くへ出かけっていった。ぼくの自転車は補助輪付きのスペースシャトルの絵が描かれている「子供の」自転車。

 悔しかった。

 ぼくはみんなよりいろんな面で劣っていることは何となく感じてはいたし、そのことに対してあきらめのようなものもあったけど、それでも、やっぱり悔しかった。
 ある程度勢いがつけば、補助輪なしでも簡単に倒れたりしないことを発見した僕は、家の前の坂道を何度も何度も自転車で往復した。のぼりは手で押して、くだりはまたがって坂の傾斜で勢いをつけなんとかバランスをとってペダルを踏み、家の前までくる。そしてまた自転車を押して上まで行き、の繰り返し。途中でこけて肘や膝を擦りむきながら、額に大粒の汗をかいてぼくは何度も何度も往復した。

「あいつ、なにやってんだ?」

見ていた上級生たちが鼻白むほどぼくは真剣そのものだった。
 ぼくはもうしばらく自転車には乗っていないけれど、またがれば何の問題もなくペダルをこぎ出せるだろう。補助輪に守られることなく当たり前に自転車に乗ることができるし、あのときのぼくが想像できないほど遠くへいくことだってできる。

 ぼくらはいろんなものに守られて生きている。

 もし、もっと遠くへ行こうとするなら、ぼくらを守ってくれた「補助輪」は静かにその役目を終えるだろう。ぼくらはそのとき不安定になり、失敗し、傷つき、「なんでこんな目に遭うんだ!」と思うだろう。
 でも、思い出してほしい。ぼくらはきっとどこかの時点で真剣に願ったはずだ「もっと遠くへ行きたい」と。やがて遠くに行くにふさわしい乗り物が与えられ、ぼくらがそれを乗りこなすことを知っているからこそ「補助輪」はぼくらのもとを去ったのだ。だったらぼくらはそれを信じて、堂々と膝を擦りむけばいい。

 アスファルトに削られ、薄汚れたその補助輪はさみしそうで、やっぱりどこか誇らしげだ。

「ごくろうさま、いままでありがとう」

とぼくは心の中でつぶやいてみた。

***

この記事は、ライティングラボにご参加いただいたお客様に書いていただいております。

ラボにご参加いただいた後、記事を寄稿していただけます。

店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

次回のライティングラボ詳細・ご参加はこちらから↓

次回の詳細・ご参加はこちらから↓

 

【お申込はFacebookページか問い合わせフォーム、もしくはお電話でもお受けします】

【2/22ライティング・ラボ】たったこれだけの方法でなぜ人は読まれる文章を書けるようになるのか?今回は【グループワーク】で文章の極意とポイントを解明していきます!Facebookイベントページ

 

TEL:03-6914-3618

天狼院のデジタルマガジン『週刊READING LIFE』お申し込みはこちら

天狼院書店が発行するデジタルマガジン。おしゃれやグルメなどのトレンドを発信する「シーズンコラム」、各部活マネージャーが紹介する「ビジネスにちょっと役立つ朝のハウツー」、人気記事をピックアップする「メルマガ編集部のおすすめ記事」、文章スキルを研究する「ライティング・ラボ コラム」、編集長・川代が綴る「連載小説」、今週の「イベント告知」など、盛りだくさんでお届けいたします。

 

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をして頂くだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。イベントの参加申し込みもこちらが便利です。
天狼院への行き方詳細はこちら

 


関連記事