僕たちはいつから「福袋」を買う勇気を失ってしまったのか?
記事:吉田竜二(ライティングラボ)
「いらっしゃいませー! 福袋は残り僅かとなりましたー! 」
多くの人で賑わいを見せる店内にも関わらず、どこにいても響き渡る声が聞こえる。
新たな年を迎えた一日目を貴方はどう過ごすのだろうか。 初詣に行く人。故郷へ帰省して過ごす人。気の置けない友人と旅行する人。
様々な過ごし方があるが、とりわけ若い人たちにとっては「初売り」の新年である人も少なくないだろう。「初売り」と聞いて、多くの人が連想するものと言えば、恐らく「福袋」だと挙げる人が大半ではないだろうか。
年の瀬に差し掛かると、毎年のようにテレビに流れる 「さきどり!!福袋の中身を徹底調査!!」 「売り切れ必至!!◯◯店の福袋!!」 「今年は◯◯店の福袋が買い!!」 と言った謳い文句。
ああ、このテロップ何度見たんだろう… と思いながらもテレビのチャンネルを変えられずに見てしまう。
テレビに映る女性リポーターの様子は 福袋の中身を伝えたいのか、単に自分自身が誰よりも先に中身を知りたいのか、区別がつかないほどに興奮気味だ。
「え、◯◯◯◯円相当の品がそんなに入っていて、その価格ですか!?」 「みなさん、これはもう買うしかないですよ!!」
リポーターの目が輝いている。 いや、輝きすぎている。 リポーターとして伝えているのではなく、これは一人の消費者としての目だ。
そもそも福袋はいつから販売され始めたのだろうか?
江戸時代に大丸呉服店(現・大丸百貨店)が余った端切れををまとめ、袋に入れて販売したとも(当たりの福袋には金の帯が入っていたらしい)明治に入ってから、鶴屋呉服店(現・松屋銀座でお馴染みの松屋)が売り出したとも、いとう呉服屋(現・松坂屋)が売り出したとも… 諸説ある次第である。
じゃあ、そもそも福袋って何のことを指してるの? これは確信をもって言える。
七福神の福の神である大黒天様が持っている大きな袋のことだ。 和製サンタクロースさながらに背中に担いでいるあの袋のことだ。
福袋は中身が分からず、買うまでは確かめる術が無いという運を試す要素の大きなものであったが、近頃では販売方法に変化が訪れている。
いまや福袋は、中身を確認して買うのだ。
運試しもへったくれもない。 中身を知らずに買う?そんな博打みたいにリスクを伴うもの売れるの? もはや、そんな言葉が行き交うように福袋の定義が変わってきている。
さらには中身の商品が分かるなんて当たり前、福袋と題して事前に商品をひとつひとつ説明した上で「このセットを1月1日に発送致します!」といった通販まで存在している。 絶対に失敗しないのである。
しかし、これには抗えない理由があるのではないか。
バブルが弾けてからというもの、地価の下落は抑えられず、不良債権は拡大するばかり。遂には誰もが思ってもなかったであろう銀行の破綻と、想像していなかった事態が相次いで起こったことにより、メディアから受け取る情報は不況の二文字が付いて回ることになってしまった。 メディアから受け取る情報は強いもので、自分自身で調べているわけでも無いにも関わらず、素直に信じてしまうものである。
それ以来というもの、今は不況な世の中なんだ。と潜在意識レベルにまで刷り込まれてしまい、 「こんな時代だ。失敗なんかしたくない。」と安定志向を望む傾向が濃くなってきているのだ。
就職を控えた大学生への意識調査では、長期勤務が出来る公務員や銀行員といった安定という言葉を代表する職種に人気が集まっているようである。
この調査からも汲み取れるように、不況という二文字が常に付いて回る今の経済環境では、リスクを背負いながら失敗を繰り返してでも自己実現に向かうより、今あるものを失わないように守りながら過ごしたいという思いが強いのだと伺える。
そんなことも相まって、中身が確認できる「絶対に失敗しない」福袋が求めらるのは当然のことなのだろう。
破格で欲しいものが手に入るのだ。買わないわけがない。
しかし、リスクを背負ってでも、一歩踏み出すことでしか手に入らないものだってある。それは、強く欲しいと望んでいたものよりも遥かに意義をもたらすような、自分自身にとっての金の帯かもしれない。
金の帯を手に入れるまでには、きっと何度も壁に立ちはだかる。 何度も壁を前に引き返したくなる。いや、実際に目を背け引き返すかもしれない。それでも良い。引き返しても挑戦することを諦めさえしなければ、いつか乗り越えられる時が来る。 失敗するたびにコツを一つずつ掴み、それを何度と繰り返し積み上げていくことで、いつしか超えられるのだ。
ある日突然にひょんと現れては、便利な道具を貸してくれる未来からのロボットに頼ることは出来ない。もし頼れる状況があなたにあったとして、それでもやはり頼るべきではない。
困難に直面したときには自分を信じること。 積み重ねてきた経験は嘘をつかない、失敗を恐れずに自分自身を信じきれた時にこそ乗り越えられるのだ。
そうして積んだ経験は、きっと金の帯以上に大切なものなのではないか。
あなたの顔は自信に満ち溢れている。
ほら、もう、そんなに目を輝かせて。
福袋の中身を知った途端に消費者の目となった私と同じような目だ。
そんなことを思いながら、立ちはだかる人混みに負けずと靴紐を固く結んだ。
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