クラシック音楽は敷居が高いままでいい
記事:Kensuke Kobayashi(ライティングラボ)
私はクラシック音楽大好き人間です。本やお芝居や映画も好きです。そういった芸術文化全般が好きなんです(その代わりスポーツにものすごく疎いです。有名な野球選手も知らなかったりします)。
だから身近でクラシックに興味を持ってる人がいると、押しつけがましくならないようにさりげなくクラシックの深い森に誘うようにしています。
そんなクラシックの普及に熱心な「クラシック界のフランシスコ・ザビエル」を自称している私ですが、世間の多くの人はクラシックは敷居の高い高尚な趣味だと思っています。
なんか取っつきにくいですよね。
でも人間でも、最初は堅物だと思っていた人がいざ話してみたら愉快な人だったりすることってないでしょうか。食べ物でも、とても食べられないと思っていた臭いのきついドリアンを勇気を出して食べてみたらめちゃくちゃハマったりとか。
取っつきにくさっていろんな物事においてあるのでしょうが、いざ取っついてみる(?)と、最初のハードルの高さがあるぶんその壁を乗り越えられたっていう喜びが大きいのですよね。だからそれだけその世界に没頭します。
私もかつては小学校の音楽鑑賞会でヴィヴァルディの「四季」を講堂で聴いて寝ちゃってました。塾通ってて睡眠不足だったし、クラシックって長いですから。
それに退屈だったので。要はクラシックの面白さがわかっていませんでした。
そんな私がクラシックに興味を持つようになったのは中2のときです。音楽の授業で若い非常勤の先生がLDを見せてくれました。3大テノールとして活躍したイタリアのテノール歌手ルチアーノ・パヴァロッティが歌うオペラアリアでした。プッチーニの「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」というアリアです(荒川静香さんがトリノ五輪でイナバウアーしたときに流れてたあの曲です)。
そのパヴァロッティの歌唱を聴いて(見て)、うわー!っていう気持ちになりました。
まさに「うわーっ!!」です。
今まで感じたことのない強烈な感動でした。
それでクラシックの世界に興味を持ちました。うちは両親が音楽を聴かずCDプレーヤーもない家だったので、突然変異を起こしたようなものでした。
駅前の小さなCDレンタルショップでクラシックのCDを借りてみました。といってもクラシックのCDなんて借りる人はほとんどいないので、店の片隅に申し訳程度に置いてあるだけです。それも「アダージョ・カラヤン」とか当時のベストセラーが十数枚。それをいくつか借りてました。
何枚か聴いてみても、すんなりいいと思えたわけではありませんでした。まだクラシックの世界の面白さの入口にたどりついていませんでした。
でも面白さの入口にはたどりついていなかったけど、クラシックを聴くという「取っかかり」の入口にはもうすでに足を踏み入れていたのだと今になって思います。
それから「初めてCDを買ってみる」、「『レコード芸術』(クラシックの専門誌)を買ってみる」、「コンサートに行ってみる」、「好きな音楽評論家の本を読んでみる」、そんなステップを踏むうちに、いつの間にかクラシックの深い森の中にいる自分に気づきました。
敷居の高さって、そういう意味では「乗り越えたときの喜びの大きさ」のための大事な存在なんだと思います。
珈琲が大好きな人は砂糖やミルクなしのブラックで飲んで、豆本来の味や香りを楽しむのではないでしょうか。
珈琲苦手だなーっていう人にがぶがぶミルクを入れた珈琲を飲ませたとして、それで美味しいと感じたとしても、それって本来の珈琲の味とはかけ離れたものになってるのではないでしょうか。
だから何事につけ、敷居の高さって大切なんだと思います。珈琲好きの人が勧める喫茶店のブレンド珈琲をあえてブラックで飲んでみる。「にがっ!」と思ったとしても、それはその人が珈琲を好きになる入口の前に立ったということなんじゃないでしょうか。
自分が知らない世界の入口はどこにでもあります。私は能も何度か見ましたが、わからないなりにその雰囲気を楽しんでます。
サッカーは国際試合であっても最初から最後まで全部見たことがないです。でもサッカーが大好きな友達ができてスタジアムで一緒に観戦したら、その面白さにハマるかもしれません。
私にとっては能よりサッカー観戦のほうが敷居が高いです。自分がその面白さや楽しさを知らない世界ってちょっと身構えちゃいますよね。
でも一見高そうなその壁を乗り越えたとき、「ああ、この世界に入ってよかった」ときっと思えるはずです。サッカーでも能でも、クラシックでも。
世界はいつも私たちの前で入口を開けて待っています。その入口の前に立ってみるか素通りするかはたぶんその人次第なのだと思います。
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