ライティング・ラボ

名作文学を書き写す。原稿用紙に文章を書く作業は武道だ!《文ラボ・レポート》


記事:熊谷 藤生(ライティングラボ)

 

様々なイベントなど、いつも楽しさ満載の天狼院で原稿用紙に名作文学を書き写すというラボがあり、参加してきた。

 

原稿用紙に書くなどというのはン何年ぶり?という、久しぶりの作業だ。

何も難しい作業ではない。小学生がやっていることだ。

一マスごとに文字を書くだけだ。

 

しかしこの作業が侮れなかった。

1枚、2枚と書き進んで自分が書いたものを見て、まず驚いたのだ。ウソ、と思った。

愕然とするくらい字がヘタクソだったからだ。

 

別に上手に書く必要はないだろう。要は文章を書き写すことを通して名作の文章のリズム、息づかいを感じ、身につけようという作業だ。字がうまいに越したことはないが、第一優先にする項目でもない。

 

けれど私は、文字はきれいに書く、と子どものころから教わるステキな日本という国に育ったのだ。やはりどうしても気になる。だからと言って急に字が上手くなるわけでもないので、とりあえずは丁寧に書くことにした。

 

それがちょっとした体験の始まりになった。

 

私は以前、ヨガや太極拳を習ったことがあるが、上級者の動きを見ていると、とにかく美しい。無駄がなく、スッキリとして清々しさがあたり一面に漂う。

 

そうだ、思い出した。子どもの頃から、自分は手に力が入りすぎるのだ。ペンの動きを力で抑え込んでいるために、時々、ピクン、と筋肉があらぬ方向に「反逆」するため、字の形が崩れる。それでイライラして、もっと力を込める。そんなクセがあった。

 

当然のことながら、あまり力が入っていると手はのびのび動かず、文字が窮屈になる。

第一、書いていて疲れる。すぐ面倒になる。

そこで、ペンをまずはゆったりと持つ、と思ってみた。

 

ところがこれが意外とコワイ。

 

怖い? なぜ?と自分に問う。

力を抜くというのはどうやら、自分のコントロールを外れ、物事があらぬ方向に行くのでは?という漠然とした感覚を呼び起こすようだ。

自分以外の力の侵入を許し、不本意に流されそうな。

 

それは、拠り所をなくして途方に暮れるという不安らしかった。

自分の中にそんなものがあったのか、と再び驚いた。

 

けれど、私だけじゃない。周りをみれば、不要な力をふるう場面はいくらでもある。

暴力行為、さらに言えば、武力行使などはその最たるものかも知れない。

 

世界の背後にはそうした怖さが漠然と広がっている。

暴力を振るわないまでも他人のありかたを批判したり、言葉や態度で攻撃したりすることを通じて、不安や恐怖は私たちに支配力を行使させているのかも知れない。

 

いやいや。妄想はそんなに膨らまさなくていい。

今はただ、原稿用紙に文字をキレイに書きたいだけだ。

 

それには、ゆったりと書くんだ。

姿勢が悪いと文字が曲がるから、背骨の力も抜いて姿勢をまっすぐに。

そのためには、座る位置やお尻の置き方にも気を配るんだ。

 

文字を丁寧に書くというのは小さなことかも知れない。しかしそれは、隅々にまで気を配るという姿勢を身につけることに繋がると思えてきた。

文字を書くという作業は、ココロまで含んだ全身の作業だ。

気持ちが上ずっていたりすれば文字は乱暴になる。

 

文字くらい丁寧に書けなくて他の何に丁寧な気配りができるというのだろう。

たとえば仕事や人間関係、自分の健康についても、気配りは大切だ。

 

原稿用紙に文章を写すことが、自分のココロの状態を見る作業になってきた。

どう書くかによって、自分のその瞬間を変え、状態を改善することもできる。

肉体の姿勢や物事への向き合い方の良しあしまで要求する、

もはや武道のようなものだとまで思えてきた。

 

いやいや、妄想はそんなに膨らまさなくていい。

もっと無心になって、名文を感じるんだ。

 

さて、ようやく文字も中心線の通った、すっきりとした雰囲気が出てきた。

文字の見た目は大して変わっていないかもしれないが、書いている手の感触がすっかり変わって書きやすくなった。

ここまで、原稿用紙を20枚ほど費やしていた。

 

力業を脱すること。

それでいつの間にか、無心になっていくんだ。

 

そうして名文のリズムを感じ取る感性を得て、

肌感覚になじませ、育てることができる。

美しい日本語を使える自分になることができる。

 

余談だが、それは、きっと外国語の勉強にも役立つ。

例えば英語を話せるようになりたければ、英語の名文を書き写せばいい、ということになる。

 

で、当初の目的である、名作文学の息遣いの体得ができたかと言えば、まだだった。

いや、その下地ができたところであると思う。

自分のココロやカラダの状態は毎日違うので、一度分かったように思ったことも、繰り返して続ける必要があると思うが、続けて行こうという気になった。

 

気がつくと名作文学を写しながら、トンネルをひとつ抜けて、

自分のダメダメな部分の底が仄明るくなった。

***

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2015-04-23 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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