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ライティング・ラボ

知りたくなかったのに知ってしまった女子大の秘密~階段教室のヒエラルキー~


記事:西部直樹(ライティング・ラボ)

 

教える仕事をはじめた時、いつかは「大学で教え」てみたいものだ、と思っていた。

研修講師として、社会人を相手に数日間の研修している。数日の付き合いでしかない。

それが少し物足りなかった。

もう少し、長くじっくりと関わってみたい、と思っていたのだ。

やってみたいな、と思い続けると、叶ったりするものである。

ということで、ひょんなことから大学で教える、しかも女子大学で教えることになった。

女子大で教えるのだ。

というと、独身男性の友人知人たちは、少し怒りを含んだように「女子大!!」と、半ば叫ぶように言うのである。

いやいや、女子大だからといって特別なことはないですよ。と返しながら、少し小鼻がふくらむのを押さえることは出来なかった。

女子大は、男子にとって、桃源郷を思わせるものがある。

女子だけという限定感が、特別なものがあるように思えてしまうのかも知れない。

札幌で大学生していた頃は、女子大というと中島みゆきさんの母校に友人、後輩と連れだって行ったことがある。

なぜ、行ったのか、覚えていないが、どうもナンパだったのではないかと思う。しかし、一台の車に四人のむさい男が乗っていては、ナンパどころではなかったと思う。声をかけても乗せるスペースがないではないか。

アホである。やれやれ。

その後は、社会人になってから、何かの機会にどこかの学祭に行ったくらいだろうか。

女子大は、遠い世界だったのだ。

東京から離れたところの大学だったので、毎週通うのは難しく、授業は夏休み中に行われる集中講義形式であった。

一日四限で四日間の授業である。

授業は、全学年対象のものであった。1年生から4年生以上も取れるのである。

私の授業が物珍しいものだったのか、初年度は、比較的多くの学生が集まった。

広めの階段教室が割り当てられた。

授業は、講義形式ではなく、ワークショップスタイルなので、固定式の机と椅子の階段教室はいたって使い勝手が悪いのだが、致し方ない。

大学生はどのように授業を受けるのだろう。

自分が学生だった頃は、寝ているか、本を読んでいるか、え~と、時々講義を聞いていたような、不真面目な記憶しかない。

女子大学生はどうなのだろう。

教室に行く前は、少し不安だった。

それは杞憂だった。彼女たちはいたって真面目だった。

一限目からの授業なのに、遅刻者もほとんどいない。

3年とか4年以上は、卒業単位の関係もあって必死なのだろうことは想像に難くない

1年や2年は、必修でもないのに、きちんと出てきている。

嬉しいなあ。

調子よく、授業を進め、演習をいくつかこなしていった。

演習の時は、各自が作業をしている時、大学の授業では珍しいであろう、机間巡視をした。

教室内を歩いて、学生たちの進捗度合いを見るのである。

この机間巡視を階段教室でしてみたら、あることに気がついた。

階段教室、平場の机が数列あり、徐々に階段状になる形式である。

平場の学生を見て回っていると、なんだか爽やかな柑橘系の香りがするのである。

学生たちのシャンプーなどの香りであろうか。

そして、階段状の机の間を巡りはじめると、変わってきたのだ、香りが。

少しきつめになったというか、爽やか系から化粧系の匂いが混じってきたのである。

最上段に達すると、机の上の様子も違ってくる。

平場では、ノートと筆記具だけだったのが、最上段では

机の上には、ノート以外に、なにやら箱状のものが置かれているのである。

そして、なんとも「臭い」のだ。

どういうことだろう。

この臭いは、むむ。

机の間を廻っていると、少しずつ臭いは違っていた。

よく嗅ぐと、どうも、ひとつひとつはなかなかいい匂いのような気もするのである。

そうか、彼女たちの付けているパフュームの香りなのだ。

個々に素敵な香りを付けているようなのだが、学生がそれぞれ違う香りを付けてくるので、香りと香りが渾然一体となって、なんとも「臭く」なっているのだ。

素敵な色も、混ぜ合わせてしまうと、結局は黒くなってしまうように。

香りも混じれば、異臭になってしまうのだ。

しかも、彼女たち、自分のパヒュームの香りを盛んに確認し、時々付けなおしている。

他の香りが気になって、自分の香りがわからなくなり、それで重ねて付けているのだろう。

パヒュームを何度も付けると、香りは強くなる。

自分が付けた匂いには、鼻がすぐに馴れてしまうので、匂いがなくなったと思って付け直すという繰り返しなのだろう。

揮発性の香りなので、教室の上空に停滞し、机間巡視をする私の鼻を直撃したのだ。

あとで学生たちに確認すると、平場には、1年生が主に座り、階段の中段には、23年生が、そして、最上段には4年以上が座っていたのである。

そして、4年生が机の上に置いていた箱は、メイクボックスだったのだ。

12年は、化粧ポーチで年次があがるにつれて、化粧道具も大がかりになっていくのだろう。

そうなのか、階段教室には、このようなヒエラルキーが存在していたのか。

恐るべし、階段教室。

私は、もちろんこのような状況に怯むことなく授業は続けた。

鼻も慣れてしまったしね。

それにして、授業中にメイクボックスを机の上に置かないでほしいものだ。

昼休み、休暇中で人気のないキャンパスを散歩した。

晩夏の陽射しのなか、つくつく法師の鳴き声が耳をつく。

大学のキャンパスは、学生たちがいないと、明るくても少し寂しげだ。

ふと旧い歌の歌詞が浮かんできた。

いのち短し 恋せよ少女(おとめ)

朱(あか)き唇 褪(あ)せぬ間に

……

ふふ、彼女たちは勉強に真面目に取り組み、そして、元気に恋にも萌えているのだろう。

彼女たちの元気な姿に、私の心も明るくなる。

まあ、それにしても、あの匂いは何とかしてほしいのだけれど……。

 

***

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2015-07-07 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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