さようなら 初恋
記事:西部直樹(ライティング・ラボ)
横断歩道の向こうに彼女はいた。
彼女と目があった。
いつもの彼女である。
しかし、もう違う彼女である。
信号が変わり、横断歩道を渡りはじめた。
お互いに目をそらし、素知らぬ顔ですれ違った。
私は胸が痛んだ。
もう、彼女は戻ってこない。
彼女を失ってしまったのだ……。
3年越しの恋だった。
彼女を見初めたは、学校の帰りだった。それから、少しずつ仲良くなっていった。
バレンタインになにももらわなかったのに、ホワイトデーにキャンディーを届けたりもした。
同じクラスになった時には、嬉しかった、と思う。
そこから、少しずつ近づいていって、友達同士で遊び、勉強するという口実を設けて、家にまで来たりした。
友達と一緒に来ていたのが、いつの間にか一人で来るようになった。
母親とも仲良くなって、家族ぐるみのつきあいになっていった。
彼女の部活の発表会には、家族で見に行ったものだ。
もちろん、彼女もこちらの発表会そやイベントを見に来たりもした。
気さくな彼女は、うちに遊びに来るとなかなか帰らなかった。
相手が用事で出かけても、母親と遊んで 待っているほどだった。
一緒にミュージカルを見に行ったりもした。
なかなか手に入らない貴重なチケットを手に入れ、ふたりで見に行ったのだ。
開場前、会場の手前の公園、ブランコに座って話していた。
ミュージカルなんかどうでもよくて、話していたいだけだったのかも知れない。
そんなふたりも、それぞれの進路が違ってきた頃から、少しずつ疎遠になっていった。
その先の学校が違う、それだけだったのかも知れないけれど、ただ仲のよい二人ではいられなくなってしまったのだ。
彼女と学校の廊下で会えば、にこにこと笑いかけてきた日のことを思い出す。
今でも、当時の写真を見ると心が痛む。
全校生の集合写真を見ると、小さく移っている彼女は、ひいき目があるかも知れないけれど、学校一可愛らしいのだ。
それなのに、なぜ、別れてしまったのだろう。
もう、こんなに可愛い彼女は現れないのではないか。
一生の不覚だったのではないか!
さようなら、息子の初恋、小学生の恋は終わったなあ。
父はちょっと寂しく、哀しいよ。
彼女はいい嫁さんになりそうだったのに。
もてそうにないからなあ、親のひいき目でみても、息子は。
技術系の学校に進んでしまい、女子がほとんどいない環境では、もう彼女を作るのは難しいだろう。
と親が心配をしていたら、ちゃっかり別のルートから彼女をつくっていた。
おいおい、お父さんが高校生の時には、彼女はできなかったのに……。
なんだか、ちょっと悔しい男親なのであった。
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