ライティング・ラボ

どこでもドア博多美人


 

記事:安武一征(ライティング・ラボ)

 

「はぁ?! 150万!?」
思わず声を出してしまった場所はとある街の繁華街中心部ビル2階のバーカウンター。

 

髪をひとつに結び、少し浅黒い健康的な肌に白いタンクトップが似合ってるキリッとした顔立ちの彼女。
20代前半くらいか、その彼女が渡してきた紙に書いてある数字。
ゼロの数を数え直す。
やはり150万。

 

そう、これはお会計をお願いして出てきた数字だ。
そんな金額は持ち合わせてない。
あたりまえだ。

 

様子を見ていた浅黒く日焼けした男二人が眉間にシワをよせ、カウンターから出てきて迫ってきた。

 

この街には仕事で40回以上は来ている。
街々によって、その場所や人が発するオーラはいろいろだがこの街には様々なものが混じり合っているオーラがある。
綺麗なものと汚いもの。経験と若さ。そして、高さと安さ。

 

どう付き合うかは自分たち次第だ。

 

仕事で来るこの街での予想外のトラブルはよくあり、免疫もついているつもりだったが、ちょっと油断しすぎたのかもしれない。

 

今回は福岡の久留米にあるアパレルショップオーナーと一緒に来ていて、この街にあるアパレルショップの調査も兼ねている。
そして、もうひとり。
ホテルで朝食をとっている時に隣りのテーブルにいた俳優の彼と出会い、夜は一緒に行動をした。
撮影の為、彼は東京からやって来ていた。

 

この日は夕方遅くに繁華街交差点にあるビルの1Fカフェで待ち合わせをした。
このビルは3F建てで全て同じ会社が経営している。
道路に面してオープンテラスになっているカフェ。
粘り気のある生暖かい空気が肌にまとわりつく季節にビールを呑みながら俳優の彼がやってくるのを待っていた。

 

ボクはこの街のこの場所が大好きだ。
それはこの街が発するオーラを浴びていられるからだ。
気は許せないがこの街にはある程度馴染めているとも思っている。

 

撮影が終わり、暗くなる前にやって来た俳優の彼と3人で軽く1Fテラスで呑みはじめた。
そして3Fにあるこちらもオープンテラスのバーに移る。
途中、そんなに冷えてはいなかったが、一番高いシャンパンを入れた。
風が気持ちよく、街の喧騒を感じながら野郎3人で呑む空間も心地いい。
お酒も一気にすすむ。

 

気分も良く、その勢いで2Fに移動。
ここは冷房がちゃんと効いた完全室内。
外の世界とは遮断されたバー。
カウンター内には男2人とキリッとした目の女の子がひとり。
気分もよくなってた僕達はさらにシャンパンボトルを追加し、お店のスタッフにも振る舞った。

 

あとでメンバーから多少文句も言われたので正確にいうと振る舞ったのはボクだ。
酔ってはいたが、ある程度頭の中で計算しているつもりではいたんだが。
請求金額は150万だった。

 

1F、2F、3Fのビル全部をはしごした合計金額「150万」
野郎3人で財布の中身全てを出し合った合計金額「120万」

 

3年程前の円高レートだと「150万ドンは約7,000円」「120万ドンは約5,500円」。
この街では大卒の初任給がだいたい200ドル位だと聞くので当時だと16,000円くらいか。

 

この支払い額はこの街の人には大金だ。
そして自分たちにとっても大金だった。
なぜなら、仕事で来て何泊かしているとどうしても現地価格になじんでしまう。

 

200円もあれば昼飯を定食屋でビールなどもつけて済ませられる感覚に慣れてしまっていたボクらの財布には、その150万ドンという支払額に合わせた金額は入っていなかった。
ホテル近くの店だったので、ちょい呑みのつもりがついつい盛り上がった感じもあった。

 

結局はホテルまできっちりついて来た男性スタッフに残りを支払ったんだが、
「オレらは日本円でひとり2,000円も持っていなかったのか?!どんだけ現地に馴染んどるんや 笑」と、まあ3人で苦笑い。

 

分かる人には分かるだろう。
そう、ここはベトナムのホーチミン。
そして、世界中からバックパッカーが集まるファングーラオ通りだ。
大好きな街のひとつ。

 

福岡からアジアへはたいそうな旅にはならない。
福岡空港を昼前の飛行機に乗るとその日の夕方にはホーチミンのタンソンニャット国際空港に着く。

 

安い時期だとチャイナエアライン往復と3泊ホテル代合わせても3万円代があったりする。

 

空港からタクシーの運ちゃんと料金の喧嘩をしながら市内まで約20分、降り立つと東南アジア独特の空気感のなか、そのまま呑みに行こう。
ファングーラオ通りの入口角にあるビルだ。
そこまで行けばすぐにその店は分かるだろう。
白いタンクトップが似合ってるキリッとした顔立ちの彼女に、あなたも会えるかもしれない。

 

東南アジアが好きなボクの仕事はプロダクターだ。
日本では感じることができない現地の感覚との出会いから5年前に誕生したコハルライトというアイテムがある。この時は仕事仲間とスタッフとベトナムへ研修名目でただ過ごしに行った時にそのきっかけと出会った。
仕事をしに行ったわけではない。
ホントに呑みに行ったのだ。

 

そんな感覚で付き合いができるのが福岡からのアジアだ。

 

福岡からアジアは近いとよく言われるが、ホントに近い。
ベトナム・ホーチミンより北京、香港、台湾、ソウルなどはもっと近い。
東京に行くより近い街はたくさんある。

 

そうなるともちろん逆もそうだ。
アジアの人達にとってそれぞれの街から東京に行くより福岡は近い。
福岡県への外国人入国者の実に94.7%(2012年)はアジア地域からだ。

 

博多はアジア各国からも、福岡県内からも、九州各県からもやって来る。
そうなのだ、ほとんどの博多美人は博多以外からやって来る。
そして、博多で見かけた美人さんを福岡県以外の人が博多美人という。

 

博多ですれ違う美人さんの言葉に耳をかたむけてみよう。
何語を喋っているか。
アジアな風を感じることもあるはずだ。
そして、間違いなくそこにはあなたにとってのアジアン博多美人もいる。

 

出会ったアジアン博多美人の先には勢いで旅立てる喧騒感溢れる街へと繋がっている。
あの店で待ち合わせてもいい。

 

 

***
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2015-07-22 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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