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ライティング・ラボ

バベルの塔、例え話をする男、バラバラになったもの《天狼院ライティングラボ 西脇 聡志さん》


( こちらの記事は、天狼院ライティングラボの西脇 聡志さんに書いていただきました。)

[10]

ねぇ君、最近タワーマンションって言うのかい? ずいぶん背の高い建物が増えたと思わないか。

僕の住んでる街でもね、最近再開発だの土地区画整理だのと言って駅前に何本も何本もそういうのができたんだよ。

何と言うかアレだね、雨後の筍っていうやつだ。それこそ気が付いたらニョキニョキってね。

 

[9]

しかしタワーと言えば、旧約聖書の「バベルの塔」の話、知ってるかい?

僕もね、実を言うと詳しいことはわかってないんだが、かいつまんで言うとこういうことだ――

昔の人もね、それなりに優れた技術を持ってたんだ。

色んな道具を作ったり、技術を駆使して結構快適な暮らしをしていたんじゃないのかな。何せ技術や文明ってやつは常に人間のためにあるものだからね。

でもね、人間は何時しか自分の分をわきまえなくなってしまったんだね。

人間たちは協力して天にも届くバベルの塔ってやつを建ててしまった。

どうだ、おれ達はすごいだろう、おれ達の技術はすごいだろう、おれ達の力は神にも届くぞってね。

きっとみんな居丈高だったに違いない。

 

[8]

でもね、どうやら神さまはそれが気に食わなかった。

愚かな人間たちよ、身分をわきまえろ、頭が高いってわけだ。

神さまは怒りにまかせて雷を落とし、かくしてバベルの塔もポッキリ折れてあとには何も残らない、というわけだ。

そして、神さまは人間たちが二度とこんなものを作れないように、今まで世界に一つだけだった言葉をバラバラに分けて、わざと諍いが起こるようにしたんだ。

ん? そりゃ相手が話している言葉がわからなかったら色々と困るだろう? お互いイライラしてケンカしてしまうかも知れない。

この話の教訓かい? そうだねえ、人間の傲慢はいつしか身を滅ぼすということなのかねえ。

 

[7]

そうそう、確かにこれはあくまでもお話の中でのできごとだ。

今の世の中、高い建物はたくさん建っているね。

日本だったらスカイツリー、東京タワー、おっと僕たちが今いるサンシャイン60もそうか。

つまり、この世の中にはあまねくバベルの塔が建っているというわけだ。

でも、神さまは沈黙を守っている。

どうしてだろうねえ、僕にはとんと想像がつかない。

まだ高さが足りないのか、それとも、まだ数が足りないのか――

 

[6]

ところで君、今神さまが急に怒り出して、各地の塔を壊したとしたら――

いやいや君、あくまでも仮定の話だよ、話の中の話ということ。

各地の塔を、エイヤーっと怒り余って全て壊した後、

そのあともう二度とこんなものを建てられないように、今度は何をバラバラにすると思う?

わからない? じゃあ想像してごらん。

 

僕はね、今度は神さまは陸と海と空を閉じてしまうと思うんだよ。

陸路も海路も空路も断たれてしまったら、モノを運べないだろう? きっと食料も運べない。

ほら、大震災の後もコンビニから一気に食料がなくなったじゃないか。

今の世の中ちょっと物流が閉じただけで大混乱だ。もちろんタワーマンションを建てるどころの話じゃない。

 

[5]

ん、僕は終末論者かって?

いやいや、そういうわけじゃない。塔の話はあくまでも例え話。

そんなわかりやすい終末然とした終末だったら逆に現実的じゃないだろう?

僕が言いたいのはね、これはあくまでも例え話っていうことなんだね。

ほら、想像の中ならば何もかも自由だ、君も想像してごらん。

 

[4]

陸も海も空もバラバラになった世界に何が残るんだろうねえ。

もしかしたらそれこそ人間も社会も何も残らないかも知れないねえ。

でも意外とインターネットだけは残ったりして。

神さまのお目こぼしというわけだ。

 

閉じてバラバラになった世界で、残された人々はネットを通じてお互いの存在を確認し、求め続ける。

それはそれでロマンチックだと思わないか?

思わない? 君はドライだねえ、まったく…

とにかく、その世界では全ての塔は壊され、人々の行き来はない、その中でネットだけは残っている。

 

[3]

情報とその集積物だけはあるけれど、実際にはどこにも行くことができない。

その中で人々はいったい何を考えるか?――

もしかしたら人々は退行してしまうかも知れないな。

何もできないいらだちのあまり、色んな事をあきらめて、ただ情報を甘受するだけの存在になってしまうのかも知れない。

 

ん? そんなことはない?

そんなことで人間あきらめたりしない?

誰かが移動を試みるかも知れないじゃないかって?

 

いいね、君はとても勇敢な人間のようだ。

まるでゴリアテに立ち向かう小さなダビデのようじゃないか。

 

[2]

だけど残念ながら、人間の多くは君のように勇敢ではないのだよ、小さなダビデくん。

え? 何故そんなことがわかるのかって?

そりゃ君、僕もそれなりに人間ってやつを見てきているからね。

僕のささやかな経験則っていうやつだ、まだ若い君にはわからないかも知れないが…

 

…人間は愚かで臆病な生き物なんだ。

哀れなまでに猜疑心が強く、些細なことで争いあう…

もしバベルの塔が壊されなかったしても、人間はお互いにばらばらに離れて小さな小さな場所で身を潜めて、それこそ、こそこそとネットでも見ていればいいのさ。

もし僕が「神さま」ならそうするね、ああ間違いなくそうしている… そうだとも…

 

 

[1]

………ゴホン

そんなことよりそろそろ別の店で飲みなおさないか?

そうだ、今日は久々にあの店で豪華にシャンパンタワーと洒落こもうじゃ な い …

え?

え? 何だって、聞こえない…

え? 黙って聞いていればつまらない話をクドクドと?

 

おい、君、ここの電気が落ちたのかい? 何も見えないじゃないか…

 

「分をわきまえろ 愚かな人間よ」

「沈黙が保たれていた意味を身をもって知るがいい」

 

いや、これは… 光だ…

まさにこれは「光あれ」とでもいったところだね…

………それじゃあいったい君は………

 

かくして、雷は投げられ、

後に残ったのはバラバラと崩れる男の炭化した体のみだった。

 

――今回の話の教訓は、

人間の傲慢さはいつしか身を滅ぼすということ――

 

これはあくまでも例え話、話の中の話。

でも、今も各地で人間は塔を作り続けている。

今のところ、この世界に「バベルの塔」は存在しない。

まだ高さが足りないのか、それとも、まだ数が足りないのか――

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2015-01-06 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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