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ライティング・ラボ

絶対にカップルでは観ないでください!映画『ゴーン・ガール』を観たら、居ても立ってもいられなくなったのでネタバレ覚悟で書きます。


記事:わたなべみさと(ライティング・ラボ)

画面がすっと暗くなり、エンドロールが流れる。隣の席から忍び笑いが聞こえて我に返るとすぐに180度後ろを振り返る。果たして勇敢か蛮勇か、寄り添うように座席に座ったカップルは私の後方に3組いたが、上映後2人の表情を見やると、そのすべての男性が半笑いであり、女性は無表情のまま固まっていた。

私はその日、映画『ゴーン・ガール』を観に行っていた。
以前、天狼院書店店主の三浦さんがカップルでは絶対に観にいってはならないと言っていた理由が、ようやくわかった。
女は嘘をつく。

人から認められたい、守られたい、大切にされたい。そんな思いから少しでも嘘をついたことはないだろうか。それが大きく膨れ上がり、より狡猾に、より強欲になってくると収集がつかなくなる。そうなってしまったら最後、映画のように大きく人の人生を狂わせてしまうのかもしれないが、がんばった話をほんの少し盛ってみたり、謝るつもりが言い訳みたいになっちゃったり。強がったり拗ねたり……。すりむいて痛いのを我慢できるはずなのに、ついつい傷口を人に見せちゃう。我慢してえらいって褒めてほしい子供のような気持ち。そんな気持ちになったことはないだろうか。

子供のようにひざ小僧をすりむくことは少なくなるが、今度は大人になったら心をすりむくことが多くなる。心の傷口は厄介で、すぐに治らないし、一人で抱えてしまったら、次々と嫌な気持ちが浮かんできて、傷口が膿んでしまうことだってあるだろう。

だから誰かに見せたい、打ち明けたい。でもそんなときに限って誰もその傷口を見つけてくれなくて、多少の嘘をついてでもあくまで自然に傷口を見せる方法を探してしまう。

だから、ただただ、聞いてほしいだけの愚痴を言ったり、時には自分を卑下してみたり、気づけば自分が悲劇のヒロインのように話を進めてしまったりして、そうして少しずつ膿を出していかないとこの気持ちは自分でも手が付けられなくなってしまうかもしれない。

 

上映後、心の中は荒れ狂っていた。そんな私の気持ちを見透かさたようで、激しい自己嫌悪に襲われたのだ。エイミーは私だ。箱の外からサスペンスを楽しむ視聴者の立場で映画を見ていたはずが、いつの間にか失踪した妻、エイミーに自己投影して映画を見ていたのだ。

そしてきっと私の表情も、カップルで来ていた彼女達と同じように無表情だっただろう。必死で自分の気持ちを表情に出さないようにすることで精一杯だったからだ。

 

女性がエイミーと同じ気持ちになって表情を引き締めているのだとしたら、男性はなぜ笑っていたのだろうか。男性には女性の気持ちが分からなくて、女性の心の傷や、膿が滑稽に見えるからだろうか。私はその逆だと思う。男性にも女性の心の傷口は分かるが、その傷口がどこにあるのかが分からないのだと思う。下手にさわったら予想もしないところからたくさんの膿が出てくるかもしれないのが怖い。受け止め切れない心を隠し、半分笑った目で見つめ、心では目をそらす。ゴーンガールを目の前に、できることなら冗談で済ませてしまいたいある種の逃避の半笑いを無意識的にしてしまっているのではないか。そう想像してしまった。あくまで想像であるが、その想像が当たっているのであれば、『ゴーンガール』は女性の一番見せたくない。傷口である。そして、ゴーンガールを見た後の男性の反応が、傷口を包み隠さず見せたときの素直な男性の反応であるとしたら――。うん、これは何の心の準備もなくカップルで行きたくない、行ってはならない。

 

それとは別にもうひとつ、思ったことがある。上映中私がこんなにも自己嫌悪の波にもまれながらも、最後まで見ることが出来たのは、この女性のカリスマ性にあるのではないか、と。怖い女性として描かれているにも関わらずこの映画のヒロインはこんなにも美しく目が離せない。もしかすると嘘や自己嫌悪で狂ってしまうくらい荒れ狂う心を狂気と呼ぶのなら、その狂気も、女性の美しさと強さの一部であるのではないかと。狂気こそ妖しさであり、妖しさこそ女性が秘める魅力の一つであるのだとしたら。憧れでも恋愛感情でもなく、ただ、不思議と魅かれてしまうこの気持ちは何だろうか。

私は女性としてヒロインを投影し、一方でまた、男性のような気持ちでこの美しさから目が離せなかったのかしら。とおもうと少し可笑しいような、不思議な気持ちになってくる。

映画で見せつけられた狂気の女がもう一度、男の腕の中で振り返るとき、誰もがきっと魅了された筈だ。離せない目と裏腹に心では目をそらしながら、現実では美しい彼女を見つめ続けてしまう。

 

男の腕の中で彼女が振り返る。口元には笑みをたたえている。私には妖しい目元が絶対の自信を持って言葉を紡いでいるように見えた。

「――私を愛してくれるのね。当然でしょ?あなたはもう私から目が離せない。あなたは、私のものになったのよ」

 

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2015-01-24 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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