書くために大切なことは、小学生の娘が教えてくれた
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:赤木 広紀(ライティング・ゼミ日曜コース)
「どんなことでも作文は書けるんだよ」
小学6年生になる娘が、そう言った。
父親(私のことだが)が「あぁ~、書くネタが思いつかない!」と毎週毎週叫んでいるのを横で聞いて、思うところがあったのだろう。
凄いのは、そのあとだ。
風呂から上がった後、濡れた髪の毛にバスタオルを巻いたまま、原稿用紙に向かい600字ほどの文章を書きあげる。所要時間は15分。
「はい、できた。パパ読んでいいよ」
一気に読んだ。
思わず唸った。
冒頭の書き出しは、こうだ。
『「早く風呂に入りなさい」耳にタコができるほどよく聞くセリフだ。この言葉に、私はふと疑問を持った。なぜ私はこんなにも風呂に入ろうとしないのだろう? 風呂が嫌いなわけでもないし……』
夜になると、娘にいつも叫んでいる言葉、それが、「早く風呂に入りなさい!!!」だ。
その「風呂に入りなさい!」をネタに風呂上りに600字の文章を15分で書き上げる娘。
そのあとに、こう続く。
『考えた末、理由は二つあるのではという結論に至った』
一体、どんな結論に至ったんだ?
『一つ目は「場」である。「場」というのは、例えば、家という「場」、家族が一緒に居るという「場」(中略) 家だから、家族だから、ちょっとくらいいいだろう、といった「甘え」が、原因の一つだと考えた』
たがが、「早く風呂に入りなさい!」という父親の小言から、自分の中にある「甘え」の構造にまで思い至る、その深い洞察。そのあと、もう一つの理由を考察して、文章は終わる。
「どんなことでも作文は書けるんだよ」
この言葉通りのことをわずか15分で実践してみせた、その有言実行ぶり。我が子ながら恐るべし。
「なあ、昔は、読書感想文大嫌いって、言ってたよなぁ。いつから、こんなに書けるようになった?」
そう、娘は昔から文章が得意だったわけではない。
夏休みの宿題の読書感想文は、いつも休みが終わるギリギリに書いていた。
「うーん、塾に行ってからかな。毎日、書かされているうちに書けるようになってきたら、だんだん好きになってきたよ」
あっさりと答える娘。
「だから、今は、どんなことでも書けるって思えるんだよね」
量稽古、恐るべし。
かつては娘も、僕と同じで、文章を書くのが苦手だった。
けれども、いつの間にか「どんなことでも作文は書けるんだよ」と、本当にどんなことでもスラスラと文章にしてしまっている。
一方、僕はというと、相変わらず追い込まれながら、なんとか書いている。
とてもじゃないが、彼女のような境地にも行動にも至っていない。
その差は、一体何なのか?
一つ、気づいたことがある。
彼女は、ただ「書いている」。余計なことを考えずに、ただ「書いている」
一方、僕は相変わらず、「いい文章を書きたい」という気持ちに囚われている。
彼女が、大空を自由にはばたく鳥だとしたら、僕はまだ、かごの中に囚われている鳥だ。
「いい文章を書きたい」「何かお役に立つことを書かないといけない」「早くさっさと書きたい」etc……
こういう欲が、目に見えない心の檻を作り出し、自分で自分をかごの中に閉じ込めていたのだ。
娘は「どんなことでも作文は書けるんだよ」ということを疑っていないし、「書けないかもしれない」なんて心配もしていない。そして、僕のような変な欲がない。
何より、書いている姿を見ていると、楽しそうなのだ。
書くことへの苦手意識を克服したい。
ライティング・ゼミを受講するキッカケはそれだった。
確かに、最初のコースと再受講を通して、以前のような苦手意識は無くなっている。
でも、克服できたかと言えば、そう言い切れない自分がいた。
毎週、締め切りがあるおかげで、強制的に書かざるを得ない環境に身を置くことができるので、書けるようになったのは事実だ。
ただ、そのやり方は、あくまでも「書かねばならない」という強制力を自らに課すことで、成し遂げようとしたものだった。
ある程度は、強制力は必要だろう。特に最初のうちはそうだ。
だが、それをずっと続けられるかというと残念ながら難しい。
「書かねばならない」に変わる何かが必要だった。
でも、それは一体なんだろう?
ある日のこと。
食事の最中に、娘に尋ねた。
「どうしたら、書けると思う?」
「うーん、そうだなぁ、興味を持つことじゃない? 興味を持っていたら書けるよ」
「スプーンについても?」「うん、書けると思う」
「はちみつについても?」「うん、書けると思う」
あぁ、そうか。
彼女にあって、僕になかったもの。
「興味を持とう」という姿勢だ。
興味を持とうとして、対象をじーっとよく見ていると、色々と疑問が湧いてくる。
疑問は謎と同じだ。謎解きは僕たちをワクワクさせてくれる。
いつの間にか楽しくなってくる。
そして、どんどん楽しくなってくるから、書ける。書き続けられる。
興味は自然に湧いてくるだけではなく、自ら興味を持とうとすれば持つことができる。
そう、興味は育てることができるのだ。
野山に自然と咲いている野生の花もあれば、人が自らの手で種をまいて育てる花もあるように。
「だから言ったじゃん、どんなことでも作文は書けるんだよって」
そう話す娘の顔は、ヒマワリのような満面の笑みだった。
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