メディアグランプリ

返品の進化から見えた子育ての教訓


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岡田ゆり子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「そんなのダメに決まってるでしょ!」
 
私は腕組みし、眉間にシワを寄せながら答えた。
 
数ヶ月前の出来事だった。友達の誕生日に、ここアメリカの近隣都市で行われるコンピーターゲームのイベントに誘われたので、学校を休んで参加したいと息子が言ってきたのだ。
 
そもそもコンピューターゲームのイベントとは何なのか?
 
息子によると、イベントの会場は大きなイベントが行われるコンベンションセンターで、参加するのに50ドル程(約5千円ほど)のチケットを事前にネットで購入しなくてはならない。イベント当日にはゲーム業界では有名なユーチューバーも来るそうだ。息子は私を説得するために一生懸命説明するのだが、ゲームに興味のない私には全くそのイベントのイメージが掴めなかった。
 
息子はまだ中学生だ。いくら友達のお父様が付き添うからと言って、学校を休んでゲームのイベントに行くなんて、2つ返事で承諾することはできなかった。それに、大人も参加するイベントなので、どんな人が来るのかもわからない。私がよく分かっていないところに行かせるのも不安だった。
 
だが、息子はどうしてもそのイベントに友達と一緒に行きたいと言うので、お父さんにも相談しようということになった。
 
夫は、「せっかく友達が誘ってくれたのだから行かせてやりたい。息子の交友関係を大事にしてやりたい」と言う。私が「どういう人が来るのかわからないから安全面が気になる」と言うと、「自分が仕事を休んで付きそう」とそこまで言うので、私もしぶしぶ承諾した。
 
結局息子はイベントに行き友達と楽しい時間を過ごして、意気揚々と帰ってきた。それはそれでよかった。だが、安全面から私の知らないところに行かせたくないという考え方が間違っていたのか、自分の中の判断の基準がわからなくなった。その後も私は何かもやもやした気持ちを抱えながら過ごしていた。
 
その心のわだかまりが取れてすっきりしたのは、アマゾン4スターに返品しに行ったときだった。
 
最近のアメリカのアマゾンの返品のシステムの進化は目覚ましい。数ヶ月前まで、返品の場合、品物を梱包し、返品センターの住所ラベルを印刷し返送するという手間のかかる手続きが必要だった。だが、最近では、アマゾンが委託したある量販店に商品を返すだけになった。商品によっては返品しなくても返金されるものさえある。
 
さらに、「アマゾン4スター」というアマゾン独自の店舗ができ、そこに品物を持っていくだけで返品できるようになった。その店舗では、レビューの星が4つ以上のアイテムを店頭で販売している。いわば、アマゾンの人気商品のセレクトショップだ。様々な商品が置いてあるので返品ついでに見て回るのも楽しい。
 
私は子育てのヒントは返品の進化にあると気がついた。
 
アメリカのアマゾンは、消費者が購入ボタンを押すまでに考える「返品の手間」という障害物を取り払い、オンラインショッピングの返品は面倒だというイメージを覆した。さらには返品という行為をアマゾン4スターに行くというちょっとしたエンターテイメントにまで変えてしまったのだ。
 
一方で、息子に色々な経験をしてほしいと心の中ではそう思っているのに、私が知らないところは危険と決めつけて、彼の行動を阻害することは、息子が行動しようとしている道の前に私が障害物を置いているようなものだと気付かされた。
 
父は、私が子供の頃、いつも「危ないからダメだ」と私のやりたいことに許可を与えなかった。私は父が私にしていたことと同じことを息子にしていたのだ。
 
今だからわかる。父はただ私を心配していただけだった。だが、危ないからできないと言われて育った私は、物心ついた頃から何か行動を起こすとき、リスクばかりが先に頭に浮かび、行動を起こす前からいろいろなことを諦めていた。息子には私のように育ってほしくない。
 
また、返品とは購入の失敗とも言いかえられるだろう。アマゾンの返品の進化は、息子が、私の知っている世界から飛び出して何か行動して失敗したとしても、それは大したことはない。失敗はネガティブなことではなく、楽しみに変えることもできる。そう子供にも教えてあげて、多くの経験をさせてあげる事が、親としてできることだと私に教えてくれているような気がした。
 
アマゾンの返品が進化するように、いろいろなことが多様化する時代に合わせて、私の子育ての考え方も進化させていくべきなのだ。
 
今度息子から、私の知らない場所に行ってみたいとか、何かやってみたいと相談されたら、頭ごなしに否定せずにまず話をよく聞いてあげよう。
 
彼の興味のあることや好きなことであれば、できる限りその思いが実現できるようにサポートしてあげよう。失敗を恐れずにトライすること、失敗しても大丈夫だということを知ってほしい。そしてやり方によっては、失敗を楽しみに変えることだってできるということを教えてあげよう。アマゾンが消費者の購入を阻害する「返品の手間」という要素を取り除いたように、彼が行動する前に動かせない障害物があれば、それを取り除くことができるように一緒に考えてあげよう。
 
息子から私の知らない世界の話を聞けるのが、今からとても楽しみになってきた。
 
 
 
 
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2019-11-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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