『ドラゴンボール』はとある男のヒーローズ・ジャーニーだ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:池山 和希(ライティング・ゼミ 冬休み集中コース)
また悪い癖が出てしまった。
僕にはどうも覚えたての言葉をすぐに使いたがる傾向があるみたいだ。「ヒーローズ・ジャーニー」は天狼院書店が運営するライティング・ゼミで新しく覚えた単語だ。言い換えれば「成長物語」だったか。
僕はこの言葉の意味を知ってとある漫画のとあるキャラクターの顔がすぐに思い浮かんだ。
『ドラゴンボール』は、わが国ではあらゆる世代において知らない人のいない大人気少年漫画だ。主人公・孫悟空と七つ集めると願いをかなえられる不思議な球「ドラゴンボール」をめぐる冒険に始まり、果てには地球の命運をかけたバトルを描く作品である。
ただ、僕が思い浮かべた「とある男」とは孫悟空のことじゃなかった。彼は作中において徹頭徹尾戦うことが大好きな野生児という印象を覆さない。(少年漫画の主人公にしてはちょっとクレイジーすぎるがそれはまた別のお話)
ヒーローズ・ジャーニーにおいて、挫折からの転機、成長の振れ幅が読者を感動させる。では『ドラゴンボール(以下DB)』の作中においてもっとも大きな振れ幅を見せたのは誰か? 挫折や葛藤を経験しながら以前とは見違える姿へと変化を遂げたのは一体誰だっただろう?
ここまで読んでいただければ『DB』ファンならもうお分かりだと思う。そうそう、宇宙からやってきたアイツだ。
『DB』大好きなあなたは、ぜひ「彼」の活躍を思い返しながら続きを読んでいただきたい。
※ここからただのドラゴンボールオタクの熱い語りがしばらく続きます。
ある程度の長さの人生を歩んでいれば、誰しもどこかのタイミングでほぼ確実に挫折というものを経験するだろう。
揺るぎない自信を覆された瞬間、プライドをへし折られた瞬間、越えられない壁にぶち当たった瞬間……。その人物はいかにも我々読者が感じるであろう、いやそれ以上にすさまじい感情の動きを見せる。
一方で主人公である悟空はそんな彼を尻目にメキメキと強くなっていくのだが、そんな悟空との対比がよく利いている。
彼は初登場にして人生初の敗北を経験する。実際には敗北というよりも両者痛み分けといった感じなのだが、己の戦闘力に絶対の自信を持っていたことから、悟空をはじめとする自分よりも圧倒的に劣ると見ていた相手に対して逃走を選択することとなった事実は彼のプライドに大きく傷をつけた。
その後も男の災難は続く。
以前の挫折体験から、時には自らを痛めつけながらひたすらに強さを追い求めていった彼だったが、今度は自分をずっと支配し続けていた宇宙の帝王・フリーザに敗北を喫してしまう。それも徹底的に。圧倒的に。ドラゴンボールの起源、ナメック星での出来事だ。
それまでの努力では越えられない壁がそこにはあった。恐怖と挫折による涙がそこにはあった。
さらにその後、伝説の戦士・超サイヤ人に覚醒した悟空がフリーザを打ち破ったことがさらに彼の劣等感を煽る。
たった一つの誇りだったその強さを完膚なきまでに打ち破られ、宿敵にも、ライバルにも突き放された彼の心境は知る由もない。ただ、それでも自分の可能性を信じ、ひたすらに努力を信じるその姿は僕の胸を打った。
彼は決して強くなることを諦めようとしなかった。
そして転機は訪れる。
地球への移住とそこで暮らす人々との交流だ。(ちゃっかり妻子をゲットしたりもしている)
もちろん地球でもまた幾度かの激しい戦いに巻き込まれる。(というよりは嬉々として参戦しているけれど……)
でも平和を知り家族を知った彼はほんの少し、でも確実に変化し始めていた。
「ママを大切にしろよ……」
まさかあの戦闘中毒者がこんなセリフを吐くことを誰が想像していただろう。葛藤こそあったが、不器用ながらに家族を愛する一児のパパの姿がそこにはあった。
まさか自分以外の誰かのために命を懸けて戦うような男になることを、作中のキャラクターも読者も微塵も想像してはいなかったと思う。
しかも、サイヤ人としての誇りは決して捨てずにだ。
根幹の部分は絶対にぶれず、でも確実にいい方向に変わっていく一人の人間の姿が「ドラゴンボール」では描かれているのだと思う。
そして、
ストーリーのラストではもうすっかり、平和を愛する一人の父親だ。家族と、家族が暮らす星を守るために戦う最高に格好いいお父さんだ。僕は彼のような人になれるだろうか。どうしようもなくあこがれてしまう。
いやぁ、語りつくしてしまった。後で見返すのが恥ずかしい。
もしもこの記事を最後まで読んでくださった方がいればどうか、
誇り高きサイヤ人の王子の物語をどうかたまには思い返してあげてほしい。
ジャンプコミックス『ドラゴンボール』全42巻 全国の書店にて販売中。
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