メディアグランプリ

アウトカーストの下剋上じゃー!vol.2


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ぐらんラブ(ライティング・ゼミ 冬休み集中コース)
 
 
「ほら、買ってきたよ」
夫はめんどくさそうにそう言って、スーパーのレジ袋からレトルトの粥をテーブルにぶん投げた。
おとといから私はひどい風邪を引き込み、床にふせっていた。
身体の節々が痛み、熱が下がらない。もちろん食欲も全くと言っていいほどない。
いわゆるインフルエンザの症状が見事までに出現しており、ふらふらなのだ。
 
 
「なぜなんだろう」
もうろうとした頭で考える。
 
 
夫が極まれに風邪など引いたときには、私はお粥など消化の良い料理をつくるし、心配だって少しはしたものだ。
しかし不思議なことに、私が風邪を引くとそういう扱いにはならない。
 
 
「なんで俺のメシがなくて、俺はおまえの粥を買ってこなきゃならないんだ」と言わんばかりのむっつりとした夫の不機嫌顔。
 
 
「私だって人間なのだ」
 
 
ちなみに私の今の仕事はライター。
1本ごとに単価のつけられる出来高制で働く。
自分で言うのもアレだが稼ぎが悪い。
 
 
夫婦の収入は、その家庭の中での力関係にたやすく反映する。
収入が低いと発言力が弱くて肩身も狭いが、稼ぎがよければ発言力は増す。
 
 
そもそも収入が低く、かつ不安定な私の立場が悪いのは仕方ない。
でもちょっとひどい。肩身が狭いなんてものじゃない。
病気になったらゴミ扱いだ。
カースト最下位、いやそれ以下のアウトカーストだ。
 
 
前のパート仕事のときはそこそこでの収入でも、夫はそれなりに育児と家事に少しは協力してくれたものだ。子育ての手が離れたいま、互いに協力する対象がなくなったからだろうか。
 
 
夫から人間以下の扱いをうけてもなお、書くことを諦めないのには理由がある。
「書くことが好き」ということ。それと「人類が進化するのをこの目で見たい」ために書いている。
みんな笑うかもしれないが、本人はいたって正気。狂ってはいないつもりだ。
 
 
風邪が治った私は、もくもくと家事を再開し、取材して記事を書いて、筋トレをする。
「稼ぎが悪いから、コンビニでバイトしろ」と夫から言われても無視する精神力。
「時給にしたら、いったいいくらなんだ」となじられても気に病まない図太さ。
「飯はまだか!」とどなられても、(食事をつくってもらえるだけ幸せでしょう)と内心静かに思えるまでの悟りの境地!
 
 
気付くと、以前とは比べ物にならないくらいに強くなった自分がいた。
鍛えられたのだ。
 
 
元々の私はとても弱い人間だ。
どちらかというと優等生タイプで、人から悪く言われると簡単に落ち込んだ。
人に褒められたくて、いい子でいることに気を配っていた。
だからいつもニコニコして相手の機嫌をとってしまう。
人から好かれたくて仕方なかった。
そんな自己評価の低い、承認欲求の塊だった。
 
 
いつからだろうか。人にどう思われるのか、気にするのをやめることにした。
 
 
「人を変えようとしても変わらない」と知ったからかもしれない。
人を愛した見返りは求めない。
自分が自分を認めて愛してあげればいい。
人から愛されたとしても、それを必要とするのはやめようと。
 
 
強くなったものだ。
 
 
だから、慣れない職場でもやっていける。
 
 
「こんなん幼稚園以下やろ」
 
 
容赦ない社長からのメールだ。仕事帰りの暗い夜道でスマートフォンの明るさが目に痛い。
「相場」の記事を書いたときにことだった。
 
 
株とか為替とかいう世界に疎い私は、新聞を読んでも意味不明。
相場からもっとも遠い人間なのだ。
「そんな私に書かせること自体、そもそも間違っている」と一人ぶつぶつと反論する。
 
 
その上、人を安くこき使う職場は、お世辞にもよい環境とはいえない。
九州人を悪く言うつもりはないが、社長の語り口はちょっとべらんめえ調でもある。
どちらにせよ「幼稚園以下」などと言われたら……
 
 
前の私だったらボロボロになっていただろう。
でも今は大丈夫。「きっと挽回できる」と思える。
 
 
「幼稚園以下」の件から相場の担当を外された私は、別のテーマで書くことに次第に慣れていった。
少しは腕があがったのか、記事ランキングに顔を出すようになった。
ランクインすると、インセンティブでいくらか原稿料が上積みされるのが嬉しい。
少しずつ自信をつけていった。
九州人の社長が「Nさんの構成力は買ってるんよ」などと言うようにもなった。
少々気味が悪いものの、悪い気はしない。
 
 
そんなある日、社長と取材の移動中にランチをしたときのことだった。
「あれー、Nさんもう少し仕事増やす気はあるん?」と社長が切り出した。
「べつに増やしてもいいですけど、夫は仕事と認めてないので、条件が今より良くないと厳しいです」と私。
ここは遠慮するところではないだろうと開き直り、包み隠さず事情を説明する。
 
 
「したらー、契約を月給制にするのはどう?」
(「えーうそ? うぉー、やったー!」)
私は平静を装いつつ、内心ではガッツポーズを決めていた。
 
 
家に帰って夫に伝えたが、反応は特になかった。
別に構わない。
もう人に褒めてもらう必要はないのだから。
 
 
ボクサーのように、いくら打たれても立ち上る気力と体力。
修行僧のように、何を言われても平静でいられる精神力を手に入れていた。
 
 
「もしかして、私って無敵……?!」
 
 
そんな自分でも驚くような熱いマグマが、内側から沸き上がってくる感覚。
きっと夫が驚くぐらいに稼げるようになって、必ず鼻を明かしてやる。
 
 
女は鍛えられるほどに強くなれる生き物なのだから!
 
 
アウトカーストがカースト最上位のバラモンに取って替わるなど、実際には起こりえない。
だが何が起きるか分からないのもまた人生の面白いところ。
 
 
腹の中で、ふつふつと下剋上への闘志をたぎらせる私だった。

 
 
 
 
***
 
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2020-01-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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