「おへそはどこを向いているか?」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:更谷重之(ライティング・ゼミ 冬休み集中コース)
「いらっしゃいませ~。空いているお席にどうぞ~!」
地方の駅前によくある、飲食チェーン店を思い浮かべて欲しい。
私はそこで、若干遅めの夕食に舌鼓を打っていた。
全国チェーンとしてそこそこ有名なお店なので、接客マニュアルも定めし完備されているのだろう。
大学生風の若々しい女性が、慌ただしくテーブル拭きの作業をしながらも、微笑みを添えた愛想のよい声で、来店客に挨拶をしている。
入り口に背を向けて。
違和感を覚えた私は、一瞬だが箸を止めて、考え込んでしまった。
先に断っておくが、当記事は、その某チェーンによる接客サービスの不行き届きを糾弾したいのではない。だから、お店の名前も出さない。
くだんの若い女性店員も、多くの仕事を任せられて、少し疲れていたのかもしれない。
あるいは、元々人見知りで、一生懸命接客に慣れようと頑張っている最中なのかもしれない。
まだお店に入りたての駆け出しで、膨大なマニュアルを覚えることに精いっぱいだったのかもしれない。
事情は様々考えられるし、お客側には見えないことだ。
店長でもエリアマネージャーでもない私にとっては、女性が今後精進を重ね、お店の顔として成長するであろうことを、束の間祈るのみである。
私が考え込んでしまったのは、自分は今日どのように挨拶していたか、である。
私の職場は、事務職専門の小さなオフィスだ。来客があることは、ほとんどない。
従業員数もそれほど多いわけではなく、徹底されたマニュアル指導とも無縁である。
いわゆるアットホームな雰囲気といえばよいだろうか。
そんな職場の空気に甘んじていたかもしれない。
私は今日、どれだけ同僚の顔を見て、にこやかに挨拶が出来ていただろう?
思ったそばから、恥ずかしさと後悔の念が沸き起こる。汗顔の至りとは、このことか。
もちろん、仕事に余裕がある場面では、ある程度実行しているつもりだ。
ただ、忙しさ全開で目の前の作業に没頭していたときは? 顔すら向けずに、おざなりな挨拶をしていた瞬間が無かっただろうか。結構、ある気がする。
そんなとき、職場の仲間は、どんな気分になるだろうか。
眠たい目をこすりながら出勤して、「今日も一日頑張るぞ」と決意を胸に戦場へ足を踏み入れたのに、そんな適当な挨拶を受けたなら。
私の職場は皆気の良い方々ばかりなので、「(目を見て挨拶もできないくらいに)たまたま雑務に追われているのかな」と、さして気に留めることも無いのかもしれない。しかし、そう期待するのは甘えと言えないか。たとえわずかでも、朝のやる気に水を差されたようで、不愉快さを感じさせた可能性があるとしたら、これは大いに反省すべきである。
恥ずかしながら、今日まで気づきもしなかった。職場の同僚に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
一流の挨拶と聞いて思い浮かべるのは、例えば高級ホテルや高級料亭。ブランドショップやCAさんといった、おもてなしという響きに相応しいサービスを担う方々だろうか。彼ら彼女らの挨拶をそのまま当方へ移植するとなると、アットホームな事務職にはいささか不釣り合いな感じも否めない。しかし、そのエッセンスは真似て学ぶべきものがある。
必ず、おへそをお客様に向けて挨拶しているのだ。その微笑みは、まぎれも無くその瞬間のお客様だけに向けられたものである。
これぞ、サービスの原点と言えるのではないだろうか。
転じて、私にとって目下の課題である、このライティング活動にも応用したい。
私の文章は、おへそがちゃんと読み手を向いているか。
捻りだしたセンテンスは、誰に向けたメッセージなのか。
本稿の想定は、直接お客様に接する機会が比較的少ないとされる、私と同じようなオフィスワーカーだ。
これまで何度か職場を渡り歩いてきたが、大小を問わず、お客様の影が遠のいた時間帯やお客様から見えないスペースでは、表情から輝きが消えてしまう仲間が多く見受けられた。
私も、そうだった。
もちろん、作業効率やアイデア想起に集中するために、愛想の無くなる瞬間が避けられないことも、また事実であろう。
しかし、挨拶は日にそう何度も行うものではない。
同僚が職場にやって来たとき、あるいは帰るとき。
おへそを向けて、元気な声かけを実践しよう。
恥ずかしがるほどのことではない。
それによって職場の空気が良くなるとか、社の業績改善につながるだとか、大上段に構える必要も無い。
縁あってチームを組んで頂いた仲間への、ささやかなサービス向上である。
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