メディアグランプリ

えっ! 善いことをしているだけなのに、それが罪?


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記事:サカ モト(ライティング・ゼミ平日コース)
 
最近の民放テレビは炎上などを恐れて、せめる番組が少ない。その反対にNHK総合テレビ、Eテレは斬新な試みを取り入れたプログラムが多くて面白い。
 
たとえばEテレで子供たちに絶大な人気の「昆虫すごいぜ!」。題名から想像する内容の、はるか上をいっているこの番組。実力派俳優であり、歌舞伎役者でもある香川照之が、カマキリの扮装をして“カマキリ先生”として登場。これだけでも民放のバラエティー番組よりインパクトがあるのに、この番組のすごいところは、昆虫図鑑のようにただ昆虫の名前や特徴を紹介するだけではない。昆虫が生きていくうえで避けては通れない弱肉強食の映像を最後までしっかり見せるのだ。大きなトノサマガエルが、小さなタガメに食べられるシーンでは、途中、ほかの映像を入れて逃げたりすることなく、トノサマガエルがタガメの腹の中に入るまでを全部みせる。大人の私でも目を背けたくなるようなグロテスクなところも、この番組は誤魔化さない。まさに、そこがすごいのだ。
 
香川照之が昆虫なら、歌手で俳優の福山雅治は絶滅危惧種を追いかけて、世界中のジャングルや秘境の地を訪れる。こちらも通常の動物ドキュメンタリーとは一線を画している。桁違いの予算に見合っただけの情報はもちろん、雄大な景色の裏で壊れていく地球の姿、そこに住んでいた動物たちの悲惨な姿もしっかりお茶の間に届けてくれる。
香川がカマキリの扮装なら、福山はカメレオンのエサである昆虫を自分の口にくわえて、それをカメレオンに食べさせる。カメレオンの獲物を捕獲するときの力や、舌の動きなどをリアルガチで体験する。まさに「出川かよ!」と突っ込みたくなるぐらい、体をはっている。
 
そんな攻める2人のMCがタッグを組み、生き物について熱く語る特別番組がNHK総合で放映された。『福山雅治×香川照之・生きものすごいぜ!』は、旅人とカマキリ先生が生き物について熱く語るだけでなく、いま地球が抱えている問題についても提言する。
 
その中で、福山雅治が「地球にやさしいという思いで私たちはヤシの実の油の入った洗剤を買う。しかしその一方でヤシの実を栽培するために、森を壊している事実もある。そしてその結果、森がなくなり、そこにいたオラウータンなどの動物が住むところをなくしていることも知ってほしい」と訴えた。
 
私の母は老人施設にお世話になっている。
年末、餅つき大会があるというので、私も参加した。入居者はスタッフが餅をつくのを見学するだけ。最初は子供の頃に体験した餅つきが懐かしいようで、みんなも思い出話に花が咲いていた。
が、そのうち餅つきに飽きてくると、あちらこちらから餅つきとは違う会話が聞こえてきた。
 
「私はわざわざ来なくていいといっているの。自分の具合が悪いのに、来てもらっても困るわよ」
「わざわざでも来てくれるなんてありがたいじゃないの。妹さんもあなたに会いたいんだから「来てくれてありがとう」と言わないとダメよ」
 
2人の女性が声を荒げ、なにやら口論になっている。
どうやらお正月に面会に来たいという妹さんについての話らしい。妹さんは足の具合がよくないので、心配だから会いに来なくてもいいという姉。いやいや、それでも会いたいと思ってくれる家族がいることは幸せだから感謝して迎えるべきだというもう一人の女性。これだけのことなのだが、2人それぞれの言い分は正反対だが、どちらも間違ってはいない。
 
結局、この話はお互い主張を一歩も譲ることなく、最後は「本当にかわいくない「ありがとう」といえばいいじゃない」、「こっちは妹が心配なの」と捨て台詞を吐いて席を立ってしまった。
 
これは『福山雅治×香川照之・生きものすごいぜ!』で、福山雅治が言った言葉に重なる。地球にやさしいと思い、私は少しぐらい汚れ落ちが悪くても、少々割高でもヤシの実油を使った洗剤を積極的に買っていた消費者の一人だ。しかしその一方で動物が住むところをなくしていることなど、まったく想像をしていなかった。メーカー側の地球に優しい、環境によいという言葉をうのみにしていた。その挙句、少しだけ高い洗剤を買うことで「わたしは地球にいいことをしている!」という満足感もあった。そこにはすこしの悪気も、罪悪感も存在しなかった。
 
面会にやってくる妹さんを巡り、真剣に意見を言い合っていた二人の女性も、妹さんの思いを想像し、そしてその思いをくみ取ったうえでの対立だ。ここには一つの悪意もない、どちらかというと優しさから始まっているから難しい。
 
私は自分が正しいと信じていることも、その裏にある事実を見なければ大きな判断ミスをしてしまうことに気づいた。長く生きてきて、そんなことわかっている“つもり”だったが、その“つもり”が、悲劇をうむことがあるということを忘れてはいけない。
 
 
 
 
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2020-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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