大手企業を辞めて見えてきたもの
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記事:いしはら(ライティング・ゼミ日曜コース)
2019年の10月で、新卒から6年半勤めた会社を辞めた。転職先は決めていなくて、今もニート生活を送っている。
これまでずっと優等生として生きてきた。高校も大学も良いところに行けたし、その調子で大手企業に就職も決めた。ここまで毎日、必死だったと思う。必死だった、はず。
でもいつからか意味を見出せなくなった。私は一体、何のためにここで毎日仕事をしているんだろう。将来やりたいことのため? それとも、お金のため? 社会的信用のため?
大手だから就職したかったわけじゃない。将来の夢のための経験値になると思ったから選んだ業界だった。そこに間違いはなくて、今後かならず活きてくる経験にはなったのだけれど、それにしても、こんなに心がからっぽになるとは思わなかった。
私が頑張っていた仕事を振り返ると、毎日をつつがなく回すための工夫ばっかりだった。客商売だったのに、お客さまはどこに行っちゃったんだろう。売上目標も意味のない数字で、でもそれをクリアしないと反省資料作成という仕事が増える。それ、誰のためにやっているんだろうか。お客さまの姿が一向に見えない仕事を機械的にこなす日々。作り上げた資料に、本当の意味なんて、どこにもなかった。
仕事を頑張るにあたって、どこに心のよりどころを置いたらよいのかがわからなくなったのは、就職して4年目に入った頃だった。この会社ではもう頑張りきれない、目指したいものがなくなってしまったのでもう辞めたい、と、自分の胸の内を上司に正直に伝えた。
辞めさせてもらえなかった。正確に言うと、様々な条件が提案されて、そのひとつに流されてしまったのだ。一旦気持ちを切り替えて、次の年にはそれなりの成果をあげた。でもそんな絞り出したモチベーションなんて長続きするものじゃない。やっぱり同じ理由が心に引っかかる。どうして、私はここで意味のない仕事をしているんだろう?
そんなことを来る日も来る日も考え続けていたある日、ちょっとした出来事が決定打となり退職を決意。そこからはブレることなく辞めることができた。でももしかしたら、そのきっかけがなければ、私はまだ働いていたかもしれない。それだけ、大手を捨てる勇気を出すのは私には難しいことだった。
冷静に考えたら、頭の中が「いつ辞めるか」で占められている状況なんて一刻も早く脱したほうがいいに決まっている。でもなかなか踏み切れなかった。どうしても、惜しくなってしまって。せっかく新卒でつかんだ大手を手放すことが、どうしてもどうしても惜しかった。ここに残れば、何かチャンスがもらえるかもしれない。お給料だって小売業の中では悪くない方だし、福利厚生だってちゃんとしている。これからもそれなりに良い暮らしをしていけそうだった。
でもそんな考えを持っていること自体が、会社に甘えきっている証拠だなと気がついた。私はそうやって、いろんな場面で思考を停止させてきてしまったのかもしれない。いつの間にか、なんでもかんでも「もらえる」と思ってしまっていた。でもそうじゃない。自分の思いを満たすためには、常に自分の頭を使って考えながら行動していないといけなかったのだ。仕事に意味がないと感じていたのなら意味を見出せば良かったし、そうやって動くことを求められていたのだろうし、そこがきちんとできていなかったのだと思う。
よく「結婚はゴールインじゃなくて、本当はここからがスタートだ」というような祝辞を聞くけれど、就職も同じことだったなあとしみじみ感じている。就職したことはスタートでしかないのに、私はずっとゴールテープを切ったままだったのかもしれない。
そういえば入社したときの人事部長が、私たち新卒生に向かってこう言っていた。「ここからがスタートだ、社会人たるもの、週に2日ある休みはこう使うんだ。『一日休養、一日教養』だぞ。教養ある大人になってこそ、良い仕事ができるんだ」と。あの時はこの言葉の意味をあまり深く考えなかったけれど、今の私にはずしりと重く響いてくる。
「大手で勤めていた私」はたしかに存在したけれど、大手=私ではない。「私」の本当の価値は私の中にしかないのに、「大手に行けた」私という価値付けをして満足してしまっていた。私の中には、一体何が残っているのだろう。大手にいるからといって、油断しきっていた自分が本当に恥ずかしい。
どこにいるか、なんて関係ない。自分は自分。自分の中身を濃く面白くできるのは、いつだって自分しかいない。
所属の看板を自分の看板だと錯覚していた私は、会社を離れることができて本当に良かったのだと思う。これからは自分の中身で勝負できる人間になれるように、ものごととの向き合い方を考えなおしていきたい。
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