メディアグランプリ

5G並みに、血はつながっている


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記事:郡山秀太(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 
小学校のころ、父は怖かった。
存在自体に恐怖を感じるようになってしまっていた。
 
飲み物が入ったコップを倒すと、父が怒る。
ただ軽く注意していただけかもしれない。
父がいうのだから、きっと取り返しのつかないことをしてしまったのだ、と幼かった私はショックを受けていた。
 
父の車はハイエース(業務用ワンボックスカー)。
ハイエースの音は母の普通車と違い、低くおどろおどろしかった。
帰ってきたのが、すぐわかる。
毎晩、なにも悪いことをしていないのに、ビクビクしていた。
 
一番怖かったのは、父が酒を飲んだとき。
 
実家は2階建てで、当時築60年。
子供部屋は2階にある。
部屋といっても、扉もなく、階段をあがるとすぐ10畳くらいの広間があるだけだ。
 
夜寝ていると酔った父が、子供部屋に上がってくる。
古い家なので、ギシィッギシィッと階段を一歩一歩上がって来るのがダイレクトにわかる。
迫り来る恐怖は、ジェイソンだ。(遭遇したことはないけど)
 
寝顔を見るだけで戻ってくれれば、子供を愛するいい親なのだ。
 
だが上がってきたジェイソンは、寝ている子供を起こし、
「おい、なにか文句はないのか?」と酔っ払いよろしくからんでくる。
「なにもないよ」と返答すると「そんなことはないだろ?」と顔を近づける。
 
恐怖だ。
酒くさいし。
 
小学校・中学校のころはずっと怖かった。
だが、高校生になると父に対する印象に変化があった。
 
怖かった父は、めんどくさい父になっていた。
 
酒に酔うと父は、相変わらず、寝ている子供にからもうと2階へ上がって来た。
「おい、なにか文句はないのか?」と聞かれても、めんどくさいので無視して寝たふりをした。
質問に答えないと、おもしろくないのか、すぐに1階へ戻る。
次第に、ジェイソンは、2階へ上がってこなくなった。
 
高校を卒業し、地元の鹿児島から福岡に就職。
社会人になり数年がたった。
 
ある年の6月。ちまたじゃファーザーズデイで盛り上がっている。
 
友人と雑談していると、父の日のプレゼントが話題にあがった。
友人はネクタイをプレゼントするらしい。
 
昔、夜な夜な恐怖のどん底へ叩き落とされていた。
そんなジェイソンにプレゼントなんて考えたこともなかった。
 
しかし、ここは同調が得意な日本人。
友がやっているのだから僕もやろう、という気になった。
 
とはいっても、電話くらいですませて、
「今年は電話だけにした」
とかなんとか友人との話題に困らないようにしたかっただけだ。
 
めんどくさい父ではあったが、ええい! ままよ!
父の日に、父の携帯に電話した。
 
「もしもし」
 
低い父の声だ。
 
急に恥ずかしくなってきた。
電話するなんて、プレゼントよりハードルが高いことに気付く。
プレゼントだったら鹿児島の実家へ送って終了。反応を見ないで済む。
相手の反応がわかってしまう分、電話は小っ恥ずかしさが増すのだ。
 
「父の日だからさ。元気?」
「おー。元気だよ」
「ひさしぶりだね」
「うん。……もういいか?」
 
1分もたたず、電話は終わった。
おい、ジェイソン、なんだそれ。
あんまりだ。
 
こちとら恥ずかしい思いをして電話をしているのにすぐ切られてしまった。
くそっくそっ。あーやっぱりめんどくさいな、父は。
 
次の日になっても、あまりの仕打ちに気持ちが冷めやらない。
うって変わって頻繁に連絡を取っていた母に、愚痴を聞いてもらうことにした。
 
「お母さん、聞いてよ!」
「あんたお父さんに何いったの? 昨日大変だったんだから」
 
母によると、こうだ。
 
父は昨日、あからさまに機嫌がよかった。
「あいつが父の日だからって電話してきたんだよー」と、5回くらい聞かされたらしい。
お酒もすすみ、ずっと話し相手をさせられたとのこと。
 
電話がそっけなかった理由。
たぶん、父は、恥ずかしかったんじゃないだろうか。
疎遠になっていた息子から急に電話が来たぞ。父の日だから? どうしよう!? 的な?
 
電話をした僕が恥ずかしいのなら、受けた父も恥ずかしかった。
そう。血はつながっている。5G並みに。
 
この日を境に、父の見る目が、すこし変わる。(ほんの少しね)
 
なにかめんどくさいことを言われても、なんとか許せるようになった。
結婚しろと言われても、仕事を辞めて地元に帰ってこいと言われても、なんとか。
 
めんどくさいことに変わりはなかったが、少し、愛らしい。
父の行動や言葉の根っこには、息子を思っている気持ちが隠れていることに気付いたからだ。
 
いままでは、
ただただ、恐怖。
ただただ、めんどくさい。
なぜそんなことをいうのか、考えていなかった。
 
昔、酔った父は寝ている子供にからんで「おい、なにか文句はないのか?」といっていた。
当時仕事がうまくいかず収入も少なかったのかもしれない。そんな自分を悔いて愛する子供に申し訳ないと思っていたのだろうか。
と、いまでは考える。
 
「愛している」
「大事に思っている」
 
本当の気持ちをストレートに伝えられるひとは、なかなかいない。
言葉をそのままではなく、いったん自分で噛み砕き、受け取る。
そうして相手の気持ちに少しでも寄り添うことで、そのひととうまくやっていける。
 
父とは良い関係とはいえない。
ただ、悪い関係でもなさそうだ。
トムとジェリーだって、心の中では親友のはず。
 
正月、帰省したが、あまり父とは話さなかった。
父も、話しかけてこなかった。
めんどくせ。
でも、この感じ、嫌いじゃないよ。
 
 
 
 
***
 
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2020-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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