メディアグランプリ

高輪の提灯殺し


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記事:結城 智里(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「さあ、それではまず提灯殺しに行きましょう」
なんだか物騒な言葉が案内役のH先生の口から飛び出した。
 
晩春の東京高輪。
提灯とは縁遠い昼下がり。
「提灯殺し」なんて怪談話みたいだな、と思いながら、明るい日ざしの中を歩き始める。
きょうはH先生の案内で高輪界隈を物語散歩。
高輪から三田の街歩きと街にちなんだ小説などの話をH先生から聞くのである
 
都営浅草線の泉岳寺駅に集合だったので、当然赤穂浪士ゆかりの泉岳寺に向かうのだと思っていた。ところが最初は泉岳寺ではなく、別なところへ向かうようだ。
それが「提灯殺し」
泉岳寺駅からさほど歩かずに目的地に到着した。
「ここが高輪の提灯殺しです」
そこはJR山手線や東海道線が通る線路の下のガードの入り口だった。
ずいぶん高さの低いガードである。そしてまたずいぶん距離があるので、中は薄暗い。
まるでトンネルのようだ。
「ひょっとして心霊スポット?だから提灯殺し?」
「昔提灯を持った旅人が殺されたとか?」
ちょっと怖い話が頭の中をよぎる。
 
「ここは高さ制限が1.5メートルと低くて、通り抜けられる車が限られています」
なるほど身長160センチ弱の私でも低いと感じるわけだ。
「タクシーは屋根の上に表示灯が載ってるでしょう、だからここを通るのがギリギリなんです」
ふんふん、と一同うなづく。
「大きな表示灯だと天井にぶつかって壊れてしまうことがあるのです」
「タクシー業界ではあの表示灯のことを提灯と呼ぶのです。提灯を壊してしまう、だから
提灯殺し」
ああ、なるほどね。一同納得の表情。なんだか洒落が効いてるな、と感心しつつ、ガードの下へ。ここは正式には「高輪橋架道橋」という名前らしい。
「この上には東海道線や山手線、そのほかにもたくさんの線路が走っているので全長は230メートルにもなります」
どうりで長いわけだ。出口が遠くに明るく見える。ガード下というにはあまりに長い。そのさきは薄暗く、ところどころに明かりがついている。その明かりがぼんやり黄色っぽくて、かえって不気味な感じを醸し出している。(ように思える)たとえ昼間でも一人で通るのはためらってしまいそう。
サスペンスドラマで、人が襲われたり、殺されたりしそうな場所である。ただ意外に交通量が多く、自動車がかなりなスピードで走り去る。そしてときおり頭上に列車の通過する音が響き渡るので決して静かな場所ではない。
そして、途中からだんだん天井が低くなってくる。男の人は身をかがめて歩かなければならないようだ。タクシーの提灯が壊れてしまうのも無理もない。入り口付近よりもかなり低くなっているので、ここまで来て進むのをあきらめて戻るタクシーもあるのだろうか。それとも無理やり進んでしまって、提灯が天井をこすり、壊れるという事態が起こるのかもしれない。
自転車を飛ばして通り過ぎていった男性がいた。頭は天井すれすれである。よく怖くないなあ、と感心する一方でひやひやした。
やっと出口である。歩きごたえ十分であった。出口から緩やかな上りになっている。坂を上りきると見晴らしの良い場所に出た。
「あのあたりに新駅、高輪ゲートウェイができる予定です」
H先生が線路の先の方を指さして教えてくれた。
「新駅開業にともなってこの辺りも再開発されるらしいです。それで
この提灯殺しも姿を消すみたいですね」
「ほお……」
きょうが通り初めにして、通り終えなのか。
しばらくして、来た道を戻っていくことになった。
なかなかに長い道のりを歩き、出口付近でさっき気づかなかったことに気づいた。こちらも緩やかな坂になっている。そして誰かがその物体に気づいて声を上げた。
「ほら、あれあれ!」
「!?」
「提灯の残骸だよ」
その指さす先には、白いプラスチックの大きなかけらがあった。そこには青い字で書かれたタクシー会社の名称らしきものが見える。なんだか「提灯殺し」の証拠を見せられたような気分である。
「天井にぶつかっちゃったんだねえ」
「うーん、坂道下って来る時になんか弾みでもついちゃって、ぶつかっちゃったのかねえ」
などという会話が交わされている。
それにしても現実に壊れた提灯(表示灯)を目にすると生々しい感じがする。まだ新しいようなので、最近殺されてしまった提灯なのかもしれない。
ガードを抜け出し、坂道を登って、次の行く先、泉岳寺に向かって歩き始める。
それにしても「提灯殺し」。うまいネーミングだなあ。なくなってしまうなんて残念。
高輪ゲートウェイのせいでなくなってしまうのか。そうしてみると高輪ゲートウェイは「提灯殺し」殺しなのだな、まさに。
 
 
 
 
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2020-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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