本の階段を登った先に見える景色
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記事:あかね(ライティング・ゼミ特講)
「本は足場だ」
脳科学者の茂木健一郎さんは、そう例えていた。
本を読むと、それが足場となり、その分高いところから世界を見ることができる。幅広いジャンルの本を読めば、その分足場は広がるという。
茂木さん著書の『頭は「本の読み方」で磨かれる』を読みながら、私は「本は足場」という例えに、妙に納得してしまった。
それは、高校生の頃のS先生の話を思い出したからだ。
S先生は高校の英語の先生だった。
授業は分かりやすく、話も面白い先生だ。世の中で起きていることや、社会に出てからのことなど、いろんな話を聞かせてくれた。
もう50歳なのに、受験生の私たちと一緒に大学院を受ける! と、宣言するような熱い先生だった。高校生の私には、かっこいい大人に見えて、大の苦手だった英語も、授業だけは楽しみだった。
S先生はよく、授業の最後にある動画を流していた。
それは、「TED」というアメリカの非営利団体が行っているカンファレンス番組だ。
あらゆる分野で活躍する人たちが、自分のアイデアや技術をプレゼンするのだ。発表者には、有名な経営者や研究者もいれば、名前を知られていない一般人もいる。発表は英語で行われ、日本語字幕もついているので、英語の勉強にちょうどいいと考えていたのだろう。S先生は「TED」の中で、面白かったプレゼンを選んで、よく授業で流していた。
動画を流しながら、S先生は言った。
「この人たちは、とても高いところまで登った人たちだ。君たちが今、腰のあたりの高さにいるとしたら、この人たちは、ウンと手を伸ばしても届かないくらいの高さにいる」
S先生は、左手を上にピンと伸ばしながら続けた。
「ここまでたどり着くのは簡単じゃない。地道に努力をして、一歩ずつ登っていくしかない。でも、君たちには、この高い場所に立てる人になってほしいんだ」
S先生は手を戻すと、また熱い目で続けた。
「君たちはもうすぐ社会に出る。今は階段の途中だけど、社会に出たら、自分の力で階段を登っていかないといけない。大変なことだ。上までいけない人のほうが多い。でも、一番上まで登ると、今まで見たことのない景色が広がっているんだ。下にいては見えない景色だ。雲の上の景色。このTEDに出ている人たちは、君たちとは全く違う景色を見ているんだ。その、上まで登った人にしか見えない景色を、君たちにも見てほしい」
どんな景色だろう。私は想像した。
階段を上まで登った人にしか、見えない景色。知識や技術を極めた人だけが、見える景色。
私も、その景色を見てみたい。熱くなった。
今、働き始めて3年。
いつの間にか、その階段の話は忘れてしまっていた。目の前の仕事に必死で、階段を登ることなど考えもしなかった。あんなに熱い気持ちになったのに。社会に出たら、どんどん上まで登って、いつかその景色を見るんだ! と、夢を抱いていたのに。今の自分は、階段の途中で立ち止まったままだ。
このままじゃダメだ。階段を登らないと。私は上からの景色を見てみたいんだ。階段の途中で終わってしまうのはイヤなんだ!
でも、階段って、どうやって登ればいいんだろう……。
分からなくなった。階段の登り方も、てっぺんがどこにあるのかも。
答えを知りたくて、また、『頭は「本の読み方」で磨かれる』を読み返した。もう、S先生はいない。教えてくれる人は、いない。
本は足場だ。幅広いジャンルの本を読めば、足場は広がる。特定のジャンルの本を読めば、足場は高くなる。本を読んだ分だけ、高い場所に立てる……。
「あ、そうか。階段はひとつじゃないんだ」
私はずっと、階段はひとつしかないと思っていた。今いる場所からずっと伸びている階段を、登るしかないと。でも、それは違う。本当は、階段はたくさんあるのだ。
本のジャンルはひとつじゃない。小説もあれば、医学書もある。料理の本、宇宙の本、自己啓発本、自然科学、心理学、歴史……。
どのジャンルを選んでもいいのだ。いろんなジャンルの本を読んで、足場を広げてもいいし、ひとつに絞って高く登ってもいい。無数にある階段の中から、どれを選ぶかは、自分で自由に決めればいい。
ちょっと、気持ちが楽になった。今まで、暗い霧の中に伸びているように見えていた階段の先が、パッと明るくなった気がした。「本は足場」という言葉が、なんとも都合よく、私の心を満たした。
階段の先には、きっと楽しい世界が広がっている。私はどの階段を登るだろう。今の仕事か、それとも大好きなハンドメイドか。もしかしたら全く別のジャンルかもしれないし、今書いている文章の世界かもしれない。
登った先には、どんな景色が待っているのだろう。
今はしっかり足場を広げて、ゆっくり登っていこう。
高校生の頃に感じた、あの熱い、ワクワクした気持ちが、また湧いてきた。
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