メディアグランプリ

新時代の極上エンタメ「隣のお兄ちゃん」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:織巴まどか(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「なんて、最高の夜なんだろう」
 
誰に聞かせるわけでもなく、私はうっとりとつぶやいた。
 
3万人の観客が、紛れもなく、熱狂していた。
最新テクノロジーでコンピューター制御されたハイテクペンライトが、次々と色を変え、会場内を美しく彩る。
さいたまスーパーアリーナを埋め尽くした人々は、夢中でペンライトを掲げ振り、声の限りに想いを叫んだ。
 
私もその中のひとりだ。
 
アリーナ前方、という素晴らしく良席のチケットに当選できたのは、本当に幸運だった。
肉眼でも、ステージ上の様子をはっきりと見てとることができる。
焦がれるような、熱のこもった3万人分の視線が、ステージの上に注がれ続けていた。
 
ステージの中央。
歌を歌うわけでもなく。ダンスを踊るわけでもなく。
彼らは、特に派手な動きもせず、舞台に設置されたソファに腰掛けている。
 
その、ただの「一般人男性たち」の一挙手一投足に、私たちは皆、釘付けになっていた。
 
ステージ上方の超巨大スクリーンには、日本国民なら誰もが知る、有名なゲームのキャラクターがでかでかと映し出されている。
その名も、「スーパーマリオブラザーズ」。
 
皆さんは、「ゲーム実況」というコンテンツをご存知だろうか。
 
Youtubeやニコニコ動画といったメディアにて、自分が「ゲームをプレイしている様子」を、トークを交えながら、配信したり動画投稿したりする、というのが「ゲーム実況」の概要である。ゲーム実況をおこなう人々のことを、「ゲーム実況者」と呼ぶ。
 
かれこれ5、6年も前から、私はこのゲーム実況というものにどハマりしているのだ。
 
私の子供時代は、ゲームというものとほとんど縁がなかった。両親はそういったジャンルにはまるで関心がなく、親にゲームをねだるような兄弟もいなかったので、我が家には一度も、「家庭用ゲーム機」というものが存在しなかった。
小学生時代、友だちの家に遊びに行くと、リビングの片隅で、友だちのお兄ちゃんや弟が、ゲームをしているときがあった。そんなとき、私はつい自分が遊ぶのも忘れ、その様子をのぞかせてもらった。どうやって動かしているのかまるでわからない複雑な指さばきに従って、キャラクターが画面の中を自在に動き回っている。ときには、「ちょっとやってみる?」と、コントローラーを貸してもらえることもあった。でも、自分ではまったく上手に操作できない。
ある日、当時爆発的に流行していた、「バイオハザード」というホラータイトルを、友だちのお兄ちゃんがやっていたことがある。そのゲーム画面をひと目みただけで、私は震え上がった。恐ろしいゾンビが次々と襲いかかってくる、ショッキングな映像が目に飛び込んでくる。恐くて恐くて、一刻も早くその場から離れたいと思うのに、何故か目が離せなかった。自分が普段見ているテレビの中にも、漫画の中にも、こんな世界は存在していなかった。それは、強烈な体験だった。
 
それから30年近くの時が流れた。
その「ゲーム実況動画」を見たのは、偶然だったと思う。もうきっかけも覚えていない。
何気なく再生した動画の中で、繰り広げられるゲームの世界と、そのゲームをプレイしている人たちの、楽しそうな笑い声。たちまち、あのときの感覚が蘇った。
 
私の知らない世界。それを、見せてくれる人たち。
 
ゲーム実況の最大の魅力のひとつは、この、「隣のお兄ちゃん」の感覚だと思う。
なんというか、ゲームをしているお兄ちゃん(私の場合は、年齢的には完全に弟だけれど)が隣にいて、そのプレイをのぞき見ては楽しんでいるような感覚なのだ。まさに、小学生のころの私がドキドキしてやまなかった、あの感覚。
 
それは、自分自身でゲームをプレイする楽しさとは、また全然違うはずだ。
 
ゲーム自体の面白さに感動することも、たくさんある。
ストーリーの奥深さや、グラフィックの美しさ。中毒になるようなシステムの巧妙さ。
ゲーム実況というものがなかったら、きっと一生触れることがなかったであろうそのゲームの世界を知ることが出来たよろこびに、何度震えたか知れない。
 
それと同等に、ゲームを楽しんでいる実況者たちのリアルな反応、トークから伺えるタイトルへの思い入れ、ふとした合間に挟まれる雑談、などが本当に楽しいのだ。プレイしている人の「人となり」が見えてくるほど、ゲーム実況は面白い。感覚の「ツボ」が自分と同じだな、などと思うと、どんどんその実況者に対する好感があがっていく。気がつけば、毎日欠かさず動画を見ては応援するようになっている。
 
また、ゲーム実況は、テレビ番組のように、つくりこまれたコンテンツではない。実況者のほとんどが、事務所などに所属しているわけでもない、ただの「一般人」だ。だからこその、「素」のかんじが、視聴者をほっとさせ、癒やしているのではないかとも思う。彼らは芸能人やセレブではなく、本当に、「面白いことを言う隣のお兄ちゃん」なのだ。
私は疲れているときほど、いわゆる「バカゲー」と呼ばれるような、インディーズタイトルやスマホゲームの実況を見たりする。中身のないゲームに、くだらない(でもつい笑ってしまうような)トーク。これが、てきめんに効く。「しょーもなさ」が人を癒やし救うのだと知ったのは、ゲーム実況に出会ってからだ。
 
ゲーム実況者は、自分一人では知ることのできなかった、未知の世界をナビゲートしてくれる、楽しい「隣のお兄ちゃん」なのだ。
 
とはいえ、私の愛してやまない彼らは、ものすごい「スーパー隣のお兄ちゃん」である。今や戦国時代となったYoutuber業界と同様に、ゲーム実況のジャンルでも、ビジネスとして成功するのはもちろん、たった一握りの人たちだ。
その、トップクラスの規模は、はっきり言って、やばい。
たとえば、私が愛聴している「2BRO.」という実況者チームは、Youtubeのチャンネル登録者数が2020年1月現在、270万人。これはなんと、京都府の総人口を超える。京都の人全員が、ただの一般人がゲームをプレイしているところを見ているのだ。すごい。
 
そして今回の、さいたまスーパーアリーナ。
3万人の大観客を前に、ただの一般人が、スーパーマリオをプレイするというイベントである。これはなかなか他に類を見ないと思う。意味がわからないし、すごい。
出演していたメイン実況者の「キヨ」は、Youtubeのチャンネル登録者数240万人、昨年あの「an・an」にも特集された。私の大好きな、声のうるさい一般人「お兄ちゃん」である。
 
今や私は、自分ではゲームをほとんどしないのに、最新のゲーム情報にはやたらと詳しい、という、変な人種になってしまった。
でも、思えば、スポーツの世界でも、自分では一切スポーツをプレイせず、「観る専門」でスポーツを楽しむ人たちはたくさんいるのだ。
ゲームも、これからの時代、他の人のプレイを「観て楽しむ」ことが、主流になっていくのかもしれない。
 
ゲーム実況を見るたびに、世界はなんて面白い方向へ進んでいるんだろう、と感じる。「愉快な隣のお兄ちゃん」が、ビジネスとして成立し、人々を熱狂させ、癒やし、救う世界なのだ。
そこには当然、「面白いゲームを世に出そう」とするゲーム業界の計り知れない努力と、彼らゲーム実況者たち自身の「面白いことをやって生きていこう」とする、弛まない努力の掛け合わせがあるだろう。
彼らは、本当に楽しそうにゲームをする。心からゲームの世界を楽しんでいるのが伝わってくる。世間一般からしたら生産性がなくくだらないこと、と捉えがちな世界を、全力でやりきって生きている。私はそれが、心底好きだ。
 
ゲーム実況、ぜひ一度みてみることをおすすめします。
 
 
 
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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