運転免許証自主返納の道は険しい
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記事:こうづか(ライティング・ゼミ特講)
子供の頃、父と一緒にごはんを食べた記憶はほとんどない。
テレビでよく見る、家族で食卓に座って食事をする風景。
それはテレビの中だけに存在するものだと思っていた。
仕事で帰りが遅いのもあるだろうが、父は自分の部屋に運んで食事をしていた。
母、姉、私と家には女ばかりで、3人でしゃべっていたので、会話に入れないのもあっただろうが、父は無口で、普段から口数は少ない。
たまに口を開くと、「家が汚い」とか、「おかずは一品でいい」とか文句ばかり言うので、私は父が嫌いだった。
私がワーキングホリデー制度を利用し、最大1年間オーストラリアに行くことが決まったことを報告すると、「長く部屋を空けるなら、掃除して行け」とだけ言った。
「体に気をつけて」の一言も言えない父。
結婚が決まったことを報告した時も、「相手に経歴書を書いて提出してもらえ」と。
「おめでとう」の一言も言えない父。
私は父と楽しく会話をした記憶を思い出すことができない。
そんな父が先月84歳の誕生日を迎えた。
目は、白内障か緑内障か忘れたが、どちらかの方向が見えにくく、耳も聞こえづらく補聴器を使っているが、いまだに車を運転している。
最近、高齢者の交通事故のニュースをよく耳にする。
昨年も私が住んでいる福岡で80代の運転する車が逆走し、多重事故となった。
運転手は80代の男性だった。
自分の知っている場所で事故が起こり、それがニュースになると、事故を身近なものに感じる。
できれば、父に運転免許証を返納してほしいと思っている。
実家に行ったときに
「お父さんもそろそろ免許返納した方がいいんじゃない?」
と伝えると一言「ん」と短い返事が返ってきた。
これは、心に響いてないなと思っていたら、案の定、免許更新に行き、更新できたとの連絡があった。
今、75歳以上の免許更新は、認知機能検査をして、その結果に基づいて高齢者講習を受けて免許更新となる。
認知機能検査で免許の取消及び停止となる人もいるそうだ。
父は認知症ではないので、試験をクリアできたのだろう。
また、父の故郷は長崎の島原なのだが、1人で車を運転して時々帰省する。
福岡からだと休憩なしで3時間くらいの距離だ。
先日、帰省した時、パーキングエリアで縁石につまずいて転び、腕を10針縫った。
長時間の運転で足が固まってしまい、思うように上がらなかったのだろう。
父の様子を見に行った時に、「危ないから、島原は公共の交通機関で行った方がいいんじゃない?」と伝えると、また一言「ん」と短い返事が返ってきた。
これもまた、心に響いてないなと思っていたら、先週も車で島原に行っていた。
確かに車は便利だ。
自分のペースで動ける。
重い荷物を運ぶのも楽だ。
運転免許証を返納した際の特典は、各都道府県や市町村で異なる。
福岡ではバスの定期券が1,000円安くなったり、対象のタクシーの運賃が1割引きになるそうだが、特典が少し弱い気がする。
本当に高齢者に運転免許証を返納してほしいなら、もう少し、特典を増やしてもいいのではないだろうか?
そして、昭和の父親はプライドが高い。
元々、それほど会話をしてこなかったのもあるが、プライドを傷つけずに返納を促すにはどのように話したらいいか、全くわからない。
姉はケンカになり、白旗をあげた。
「あとは、任せた」と。
しかも、私は末っ子の次女だ。
家の中で一番の下っ端。
そんな下っ端の言うことを父が素直に聞くはずがない。
免許更新の場に、免許証返納お助けマンのような人を常駐してもらって、それとなく話してくれる制度があればいいのにと思う。
第三者の意見の方が聞き入れる可能性は高い。
是非とも関係者には検討をお願いしたい。
そんな、私の要望が通る見込みもないし、それを待っている時間もないので、とりあえず、また、実家に話しをしに行こう。
ダメ元で。
当たって砕けろだ。
父を洗脳するくらい、何度も話してみよう。
いつか、自分から免許返納を申し出てくれるまで。
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