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日常英会話こそ最も難解である


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鈴木亮介(スピード・ライティングゼミ)
 
 
「ただでさえ英語は難しいのに、病院実習を英語でやるなんて大変そうだね……」
医学部の短期海外留学プログラムを利用して、ロンドンにある大学病院で1ヶ月研修するという話をしたときに、何人かの人に言われた言葉だ。
僕は典型的な純ジャパで、海外に行くのも今回で2回目。
それに、リーディングとライティングは少しできるけど、リスニングとスピーキングは大の苦手だった。純ジャパのサラブレッドといえるだろう。
そんな僕がいきなり海外の病院で専門用語が飛び交う中に放り込まれると思うと、少し気が引けたものだ。
 
実際、実習開始日が近づくにつれて、徐々に不安は募っていった。
実習開始日の数日前にオリエンテーションがあったのだが、その際他の国から来た留学生たちと顔を合わせて、オリエンテーションの合間に軽い自己紹介をした。
どこらへんに住んでいる?とか、どうやって病院まで通う?とか、そういう話題から始まる何気ないおしゃべりである。でも僕はそんな簡単な会話でも一発で聞き取れず、返答もたどたどしくなっていた。
さらには、一人の学生が何か言葉を発して、その瞬間にまわりみんなが爆笑するときがあった。しかしながら、僕だけなぜ笑っているのか分からない……
ああ、これが留学で辛い瞬間とうわさの「みんなが笑えているのに自分だけ笑えない」という状況かあ……としみじみ感じていた。
簡単な会話ですらこの状況で、これから先の実習でやっていけるかなあ、と不安はさらに増していった。
 
しかし実習が始まってから、予想外なことが起こった。
僕は、指導担当の先生の後について業務を見学していた。
見学の中で、患者さんとの会話や医者同士の会話に耳をすませていると、
「あれ? 言っていること、なんとなく分かるぞ……」
もちろんすべて聞き取れているわけではないけれど、話の流れや要点は理解できるし、僕の質問も先生にしっかり伝わっているようだ。
あれ? おれ、急に英語うまくなったのかな……と思ってしまった。
もちろん決してそんなことはない。
あいかわらず他の留学生との会話とか、滞在先の学生寮のフロントでの会話はおぼつかない。
しかしながら、病院での会話が一番理解しやすいのだ。
 
それで、僕の中で1つの仮説が立った。
「日常英会話のほうが、専門分野の英語より難しい説」
 
その仮説を頭の片隅に置いたまま、しばらく実習を続けていると、その仮説を支持する根拠がいくつか思い当たった。
つまり、専門分野の英語の方が簡単な理由だ。
1つ目に、業務の中で使われるボキャブラリーは、日常会話に比べて、圧倒的に少ない。
僕が実習中に先生と話す際に使っている語彙は体感的には100〜200語程度だ。その限定された語彙の中でお互い話しているため、相手のイイタイコトを想定しやすい。
2つ目に、専門用語は一語一語が長い。そのため、その英単語の日本語の意味さえ知っていれば聞き取りやすい。実習中に出会った中で、一番長い専門用語は「T cell/histiocyte-rich large B cell lymphoma」だ。これで1つの病気を表すのだが、これだけ長ければ聞き間違えようがない。
3つ目に、基本的な業務はルーティンのため、置かれる状況には再現性ある。そのため必然的に使用される英語にも再現性があるので、次にどんな話題になるのか、どんな英語が来るかが予測しやすい。
 
一方で日常英会話はこの逆だ。日常の何気ないおしゃべりでさえ、話題は刻々と移り変わるので、使用されうる語彙は1000語以上になる。さらにhaveとかtakeとか、一語一語が短いし、リエゾンや省略も多いために、単語が聞き取りづらい。また1つの単語に、複数の意味があって、文脈で判断しなければならない。そのため、一度追いつけなくなったら、容易に「今なんの話をしているの?」状態に陥る。
さらに、雑談には背景知識とか会話のテンポとか、その他の要素もたぶんに要求される。極端な例だが、少し日本語のできる外国人が日本の漫才を観ることを想像すれば分かりやすいだろう。時事ネタや有名ドラマに引っ掛けて笑いを誘う漫談を見て、その外国人が日本人と同じタイミングで笑うのは難しくないだろうか?
 
「日常英会話は難しい説」の実例として、僕の実習での英語でのやり取りを日本語に直してみると、一見奇妙なことが起きている。
 
先生:以上の免疫染色から、鑑別診断としては結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫、古典的ホジキンリンパ腫、T細胞/組織球豊富型大細胞型B細胞リンパ腫が妥当だね。
僕: でもCD21陽性の濾胞樹状細胞のMeshworkがみられるので、この所見はT細胞/組織球豊富型大細胞型B細胞リンパ腫とは矛盾しませんか?
先生:確かに典型例では濾胞樹状細胞のMeshworkは消失するけれど、本症例ではCD21はあくまで部分陽性だから、Meshworkが残存しているケースという可能性を否定できないんだよ。
 
このような専門用語ありきのコミュニケーションはできるけれど、この議論が終わった後に、
 
先生:そういえば、君はこれが終わったら、いつ帰る予定なの?
僕:えっ、ごめんなさい……もう1回言ってください。
先生:いつ帰るの?
僕:ああ、ヒースロー空港からです。
先生:……
 
と、雑談モードに入ったとたん、急に聞き取りづらくなってしまう。
つまり、専門用語オンパレードのほうが容易に会話が成立する、という不思議な現象が起きるのである。
他の実例を挙げれば、留学中に一番理解できなかったのは、ミュージカルを観ていたときだった。ミュージカルなどの演劇は役者のかけ合いにこそユーモアや感動を感じるものだが、英語のミュージカルは全く理解できなかった。特に怒ってまくし立てているシーンとかは冗談抜きに一語も認識できず、途中から聞くのを諦めていた。
 
そう、思った以上に日常英会話は難解なのだ。
 
もし日常英会話が高度なスキルだとしたら、「英語はまず日常会話から」という学習方針や「日本人は何年も英語を勉強しているのに、まともに外国人と話すことさえできない」という類いの批判は的外れになる。
日常英会話こそ、聞き取る力や経験、背景知識などが多分に要求されるからだ。
 
さて、大学生や社会人の英語学習者の望みは何であろうか?
「外国人と雑談して仲良くなりたい」というのもあるだろうが、主な願いは「将来、英語を使って仕事ができるようになれば」だと思う。
もしそうであれば、真っ先にやるべきなのは日常英会話を勉強することではなく、専門用語や業務上必要な英語を集中的に勉強することだ。
そうしたほうが、習得が容易で、なおかつ仕事で使う分には事足りる。
外国人とジョーク言い合いながら楽しく雑談するなんて、そりゃできるに越したことはないけれど、英語学習では後回しでいいのかもしれない。
 
 
 
 
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2020-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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