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メディアグランプリ

となりの田中さん。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ツキノワ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「はい、週末ゆっくりしてリフレッシュできましたよー!」
あー、もう。この子はまた、人の話聞いてない(読んでない)。
いい週末が過ごせたみたいでなによりやね、と、適当に返信を打って、スマホを置く。
 
LINEの相手は、職場のひとつ下の後輩・田中さん。
同じ沿線を使う彼女とは、たまに帰りが一緒になると、駅までの道々、近況を報告し合う。
お互い中堅ドコロになった職場での悩み、恋愛、ちょっとずつ気になる親の健康。年頃、立場が似ているから共通のトピックはたくさんある。
ただ、報告し合う、と言っても、駅までの10分ちょっと、喋っているのはほとんど彼女だ。
「最近どうですか、先輩」
と、まずは話を振ってくれるのだけれど、いざ話始めると
「それ分かりますー!! 私もかくかくしかじかで!」
と、あっという間に話をかっさらっていって、残りの9分は彼女のマシンガントーク。私は相づちを打つことになる。本当に吐き出したいときは、どうもモヤモヤして別れることになる(笑)。
 
「先輩が心穏やかになれるよう、話を聞くくらいしかできませんが、いつでも声かけてくださいねー!
お互い、良い週末を過ごしましょうー!」
話を聞く……私が心穏やかになる……ん?
別れた後、彼女が送ってくれたメッセージに、なんとも言えない気持ちになる。
うーん、今回も、結構喋っとったけどなぁ、あなた。
「気にかけてくれてありがとうね。田中さんにとっても気分転換の時間になってたらいいなと思うよ」
ほんとにささやかに、”私、結構聞きましたよー”を伝えてみようとした結果、返ってきた返信が冒頭のアレだ。
うーん。彼女の最近の出会いの話と、お姉さんの再婚と、お母様に起こったハプニングと……それなりに、色々聞いたと思ったけどなぁ。
そっかー、やっぱり彼女の中では「悩み多き先輩の話を聞いた時間」なのね、と苦笑いする。
 
田中さんと私は、真逆だなぁと思うところがたくさんある。
私はどうも話すテンポが遅いみたいだけれど、彼女はとにかくよく舌が回る。
私は社内の人間模様や情報に疎いけれど、彼女は「今度社内の誰それが結婚する」みたいな話はたいがい知っている。
私は苦手な人とは積極的に関わらないけれど、彼女はほんとに顔が広くて、誰とでも楽しそうに喋る。
 
「わたし、八方美人なんですよー!」と、田中さんは言う。
なんでも引き受けてしまって、後悔することもあるんですよ、と、たまに疲れた顔を見せることもあるけれど、私は、彼女が羨ましい。
 
私は、なんだか好きじゃないAさんと、給湯室で一緒になっても言葉を交わしたこともないのに、田中さんはなんでAさんと、あんなにゲラゲラ笑いあえるんだろう。
立場が近いもの同士、3人で苦楽を共にした!と思っていたBさん。転勤していった後、結婚が決まって。田中さんは結婚式に参列したみたいだけど、私は会社仲間への一斉報告メールをもらっただけだった。
入社当初の教育も担当して、可愛がっていたつもりの部署の後輩・Cさん。ある日「来月で退職します」とLINEが来た。ビックリして悲しくて田中さんに声をかけると、「随分止めたんですけどねー」と呟いた。聞くと半年ほど、相談を受けていたという。そうなのか。私もCさんを気にかけていたつもりだった、と心がスースーした。
 
田中さんの周りにはいつも人が集まってくるように見えて、私は、人付き合いが苦手だ、というコンプレックスをチクチクやられる。
 
人の話、さえぎるクセに。
人の話、細かいとこは聞いてないクセに。
「あんた、ほんまに、よう人の話取るなぁ!」
田中さんと談笑している上司が、半分呆れて半分笑って口にしたツッコミに、そうそう、と頷く。
 
でも、田中さんが皆から好かれるだけのことがあるのを、私は、ほんとはよく知っている。
 
彼女は本当に、人の気持ちに敏感だ。
体調が良くない、気持ちが沈んでいる――誰かの顔色が悪いのを、一番最初に気づくのは田中さんだ。
「先輩、大丈夫ですか」
私に声をかけてくれるように、きっと見えないところで、皆に声をかけてくれてるんだろう。
 
ひた隠しにされて皆がビックリした、我らが上司の社内結婚も、田中さんの第一声は「やっぱりー!!!」だった。
「違うって言われたけど、絶対そうやと思ってたんですよー! 3年くらい前に聞いたじゃないですかー? あのときでしょ? ほら、やっぱりー!」
ほんとに田中さん、あなたの嗅覚、すごいわ(笑)。
 
誕生日にはちょっとした、でもわざわざ前もって準備してくれたんだな、というプレゼントをくれることもある。
誰かが退職する、結婚するときには、田中さんが全力で寄せ書きを作ってくれるのが恒例になりつつある。
人を喜ばせるために、自然に何かをするのが本当に得意な人なのだ。
 
そして田中さんはいつもケラケラ笑っている。
人に喋りかけては笑い、電話を受けては笑い、基本賑やかだ。
イラっとした出来事も、しばし納得のいかない顔をした後、「聞いてー!」と喋り出して、最後には笑い飛ばしている。
 
でも、消化できないことは人に話さないんよね。
人の顔色に疎い私ですが、ちょっとずつあなたのことが見えるようにもなりました。
また仕事帰り、一緒になったら喋りましょう。たまにはこないだみたいにお茶しましょう。伊達に長く同僚してないぞ、話聞くよ、と言ってあげれる先輩になれるといいなと思ってます。
 
 
 
 
 
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2020-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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