写真でまちや人を元気にできるのか
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:竹中 昌代(ライティング・ゼミ平日コース)
私にとって写真を撮ることは現実逃避の時間である。特に琵琶湖や夕空などの風景を撮っている時はまさにそう。日頃の子育ての悩み、家事のことなどは一旦こっちに置いといて、いや忘れて、目の前の光景に心を無にして集中できる。誰とも話さずに、ただただ穏やかに過ごせる大切な時間だからだ。
そんな私にとって、“ポートレイト”というのは苦痛でしかなかった。現実逃避とは真逆でとても面倒な行為。だって相手と会話をしないといけないからだ。家族や友人ならまだしも、初対面の人にカメラを向けてコミュニケーションを取るなんてとんでもないことだ。
4年前、知人の誘いで長浜市の事業である「長浜ローカルフォトアカデミー」に参加した。
それは“ローカルフォト”を提唱する写真家MOTOKO氏と市の協働事業だった。長浜の人や暮らしを、写真撮影を通じて発信する人材を育成。そしてまちの息づかいが聞こえるような写真を内外に発信することで、関係人口を増やすとともに、長浜に暮らす人が自らまちへの誇りを高め、まちが元気になるきっかけ作りを目指す。というのがこの活動の目的。
ちなみに長浜市をご存知でない方もあろうかと思うので補足すると、琵琶湖のある滋賀県の北に位置し、バス釣りのスポットとしても有名。またちょうど大河ドラマ「麒麟がくる」の第5回で放映された、明智光秀(十兵衛)が斎藤道三の命を受け、鉄砲鍛冶の職人である伊平次を探して訪れた近江の国友村。まさにそこが長浜市の位置するところ。
私は知人から「写真講座があるんだけど入らないか?」と誘われ、まだカメラ初心者だったので「写真の撮り方を教えてもらえるのなら」と、軽い気持ちで長浜ローカルフォトアカデミーに参加したのだ。使用するカメラの操作方法は教えてもらえるものの、いっこうに構図やアングルなんかのいわゆる”写真上達のためのコツ“の話が出てこない。
MOTOKO氏から語られるのは「ハレの日によそ行きの格好で撮ることよりも、日常の何気ない暮らしの中にある“宝探し” それがローカルフォト」そして「“どう撮るか” ではなく“なぜ撮るのか” が大事」ということだった。
私はこの講座に誘ってくれた知人に「話が違うではないか」当初このようなことを言った記憶がある。まちの人を取材し、語らい、写真も撮って発信する。
現実逃避ができる風景写真が好きだったのに、一応人見知りの私にとっては人を撮ることが苦痛でしかなかった。エイ! と覚悟を決めてアポを取り、お会いする直前にお腹が痛くなることもしばしばあった。
月1回程度の講義と撮影ワークショップを重ねていき、いつの頃からか「あれ?この活動楽しいな」そう思うようになってきた。写真は魔法なんだろうか。こんなことを考えるようになったこと自体、既に何かの魔法にかけられているのかな。何でだろう……。
ある時、私は地元の60代の女性を取材した。ヒサコさんだ。家業は合鍵屋と骨董品屋を兼ねているが、私がヒサコさんを取材したのは別の理由だ。ヒサコさんは地元の「町並み研究会」のメンバーで、大正・明治時代の地元の写真を残している。「まちのことはこの人に聞くといいよ」このまちに引っ越してきてまだ年が浅かった私は、知人のすすめで存在を知り、とても興味をもったからだ。
私は昔の町並みの写真を見せてもらいながら、ヒサコさんの話に耳を傾けた。ヒサコさんはまちの生き字引みたいな人だった。とても勉強熱心で、無知な私にいろいろと教えてくれ、その表情はとても生き生きとされていた。まちのことが知れて嬉しかった私は、その気持ちをヒサコさんに伝え、最後に写真を撮らせてもらった。
「うわ!(心の声)」何度かシャッターを切るも、撮れた写真は目つぶりがほとんど。
瞬きがとてもゆっくりの方だったのだ。これは大変! と、何枚もシャッターを切り、会話をしながら何とか笑顔を撮ることができた。
取材した内容はFacebookに投稿したが、ヒサコさんはFacebookの存在すら知らなかった。書いた内容は息子さんのスマホで確認してくださったそうだ。
それからしばらく経ってから、近所でばったりヒサコさんに会った。「最近Facebookを始めたのでまた教えてくださいね」と言われた。
そしてプロフィール写真にはなんと私が撮影した写真を使ってくださったのだ。
この時ヒサコさんと話して「写真は魔法なのかな?」の理由がわかった気がした。
「私は写真を撮ってもらっても、いつも目をつぶってばかりで撮られるのが苦手だったんです。でもこの写真を撮ってもらってから、写真を撮ってもらうのが嬉しくなったんですよ」
ヒサコさんの写真に対する苦手意識ととともに、私の中の人を撮る苦手意識が、ふわっと軽くなった瞬間だった。写真の魔法によって、被写体に喜んでもらえる。そしてそのことが撮り手である私の喜びになるのか。
3年間の事業だった「長浜ローカルフォトアカデミー」を終え、昨年から市民団体「長浜ローカルフォト」として活動を続けている。もちろん風景写真を撮ることも好き。でもそれ以上に人を撮ることが好きになった。
ローカルフォトの活動を始めるまでは、ただ外から見ているだけだったけど、カメラを持つことで一歩まちに踏み込めた。そして地元のいいところをたくさん知って、関わる人が増えてまちへの愛着が強くなった。
まんまと私も写真の魔法にかけられたものだと改めて気づく。
昨年から地元の人たち数人で、滋賀の郷土料理である“鮒ずし”を一緒に仕込んでいるのだが、
そのメンバーにヒサコさんもいる。ヒサコさんはマメにFacebookをチェックしているようで、以前に比べてとてもアクティブになられたそうだ。
写真が取り持ってくれた縁を大切に、これからも人にまちに写真で魔法をかけていけたらと思う。
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