メディアグランプリ

中3息子がヤクザです


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記事:佐藤久美子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「おい、お前! もう一度やったらぶち殺すからな!」
 
驚かせてごめんなさい、これは今朝15歳の息子が朝食中に、彼のお皿があるテーブルに登ってきてソーセージを盗もうとするうちの猫に向かって言ったセリフです。
 
(はぁぁ、朝から何なの。もうちょっと違う言い方できないかな。まぁ、猫はきっと日本語理解していないと思うけど。ていうかこれ毎朝やってない? ていうかぶち殺すのぶちって何?)
 
その証拠に無理やりテーブルから降ろされた猫は、その後何度も何度も悪びれずに登ってきてはソーセージを狙い、冒頭のセリフの繰り返し。壊れたビデオテープのように毎朝何度も同じ光景が流れる、いつもの殺伐としながらも穏やかな朝です。
 
最近、うちの中3息子がヤクザ。1年ほど前までは可愛い少年だったのが、反抗期といえばお決まりの中2・14歳になった頃から、月に何度かヤクザが顔を出すようになり、夏休み辺りにはヤクザと少年が半分半分程度になったかと思うと、全盛期は極悪非道、常識なんて一切無視、理不尽な言葉で寄るもの全て傷つける、いやむしろ見かけたら理由も無く向こうから全速力で走り寄って来て、理不尽なイチャモンつけられるような日々にかなりうんざりしていました。
 
ちょっと前までは、まだなんとか言いくるめられたのに。たとえ言い合いになったとしても、叱りつけたらそれで終わったのに。小学生まではツルツルだった顔にどんどんニキビが出てヒゲも生え、随分前に背も越されて大分差がついてるし、力じゃきっと全然敵わない。昔はかわいかったのになぁ……。
 
それにしても反抗期の子どもって本当にムカつく。ある日はマンションの駐車場に通じる共用の扉を脚で押し開けていたから、「脚で開けないで、手を使ってよ」と伝えると
 
「はぁぁぁ?!?! 訳わかんねー! 手で開けるのと脚で開けるの、何が違うの!! 納得いく理由で説明しろよ、ムカつくな!!」と驚くような理由で絡まれ、それから毎回わざと脚で開けるようになった。
 
はぁぁぁ!?!? 訳わかんないのはこっちですけど!! 納得行かなくて良いから手使え!おまえは猿か!!! と言いたいところだけど、とにかくこんな感じで正論が通じると思ったら大間違い、こちらの負け。何にでも反論したいだけなんです。無視するのが1番なんだけど、まぁとにかくムカつくことこの上無い。
 
しかもしばらくしたら何事もなかったかのように、「今日のご飯なに?」「何かお菓子買ってきてくれた?」なんて言うから、こっちも戸惑っちゃう。
 
早めに切り替えて忘れるのが一番だけど、それにしても入れ替わりが早くてギャップが酷い。彼の中に2人の別人が入ってるのではないかと思うくらい、何かに取り憑かれているようなヤクザの時間帯があり、それが終わると、すっと少年に戻っている。
 
以前、読んだ河合隼雄さんの”こころの子育て”という本の中で
 
”思春期でうまくいってる場合は、それまでの貯金なんです。「小さいとき、まあまあ一緒に遊んでくれたし、ええか」と思って、子どもの方でこらえてくれてるわけです。ほんとに「思春期のことがわかる」とか「思春期の子にちゃんと物が言える」なんていう人、まあめったにいません。それでもいいのです。”
 
子育ての貯金。なるほど。
息子が2歳になる前に離婚して、それから一人で子育てしてくる中でいろんな本を読んだり、話を聞いたりして来ました。とにかく離婚したことを後悔したくないし、悲しい結果にはしたくない、そんな中まだ息子が小さい時に知ったこの「思春期までは子育ての貯金」は私の子育てにおけるひとつの大きなスローガンとなり、子育ての貯金をしようと頑張ってきた。だけどあぁ、ちゃんと貯金出来ていたのかな、いや出来てなかったのかもしれない……。
 
そんなある日のこと、買い物した後に駅まで息子を車で迎えに行くことがあり、マンションに着いて駐車場で車を降りると、
 
息子が「持つよ」と重い荷物を持ってくれながら、マンションの扉を静かに手で開け、家まで歩いている間の何気ない会話、部活の先輩がムカつく話、コーチの練習内容に納得いかない話。
 
そして「あのね、こんなことを話してあげるのは僕くらいのもんだよ。部活の友達はお母さんと話すことなんか無いって言ってたからね。話してもらえるだけ、ありがたいと思ってね! よかったね!」だそうで。
 
はぁ、ありがとうございます(笑)。
 
まぁ、少しは貯金できていたのかもね。余裕は無くてカツカツかもしれないけど、それでも何とかやっていけるくらいの残高はあるみたい。
 
ところでこれまではヤクザと少年が入れ替わりしていたけれど、最近なんだか、ヤクザが終わった後の、正気に戻った息子がやけに大人っぽい。彼の中の2人がヤクザと青年になってきた感。
 
もうすぐ子育てが終わっていくのかな。ヤクザが抜けて青年になった時には、きっとすっかり子離れの時期。
 
そう思うと何だかとても寂しくて、ヤクザでも良いから、あとほんの少しの時間を楽しもうと思う。残り少ない、私と可愛いヤクザの時間。
 
 
 
 
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2020-02-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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