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延命措置を希望しますか?

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:sakura_shuri (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「結局どっちが良かったんだろうね?」
父が2カ月間の闘病の末に亡くなった。私たち家族にとってそれは突然の出来事だった。
 
闘病中の2か月間、私たちは父の病気が治って家に帰ることを目標に頑張ってきた。でも、やっぱり駄目だった。それなら父の望み通り何もしない方が良かったのか。それは永遠のテーマなのかもしれない。
 
父の望みは
「どうせ死ぬのだから、苦しい治療をせずに早く楽になりたい」
家族の望みは
「可能性があるなら頑張って欲しい」
 
「お父さんが救急車で運ばれた」
7月上旬、母からの連絡だった。
「散歩から帰ってきて、おなかが痛いって横になっていたんだけど、我慢できなくなったみたいで、救急車を呼んで欲しいって」
急性膵炎だった。
 
79歳の父はこれまで病気らしい病気をしたことがなかった。本人も病院が嫌いで、退職してから健康診断もまったく受けていなかった。でも毎日幼稚園に通う孫のたちの相手をしていたし、散歩もしていたから、まだまだ元気だと家族は思っていたし、本人もきっとそう思っていただろう。
 
救急車で運ばれてしばらくはICUで治療を受けていたが、1週間ほどで一般病棟に移ることができた。ICUから一般病棟へ、その時点では容体は回復していると思って疑わなかった。一般病棟では歩いて病院内を散歩するまでに回復していたのだ。
 
「家に帰る!」
「だめ! 点滴中だしまだ治ってないでしょう!」
病院嫌いな父らしく、母と院内を散歩していたらそのまま家に帰ろうとした。父の入院した病院は家から徒歩5分の距離にあって、子供のころから私たちの御用達の病院だった。
「家に帰る!」
病棟の窓からわずかに見える自宅に向かって繰り返し母に言っていた。
 
「こんなものいらん!」
ある日、治療のために鼻から入れていたチューブを抜いてしまった。このチューブは炎症を起こしている膵臓から膿を出すために入れていたもので、この治療が成功しないと次の治療に進むことができないとっても大事な物だった。
 
「なんで取っちゃうの! 取ったら治らないでしょう?」
「治療なんていらん! どうせ死ぬんだから、何もしなくていい!」
聞こえてきたのは死を覚悟した父の言葉だった。
 
「けどこの治療をすれば良くなるから!」
医者の言葉を信じて、わずかな可能性にすがっていた。しかしもう起き上がることが難しくなっていた。父の体を見ると、排尿のための管がつながり、おしっこの量を確認する毎日。入院してから一度も食事がとれていないため、栄養を補給するための管もついていた。あまりにもひどい炎症のため、想像を絶する痛みがあるらしく、痛み止めの麻酔が常に入った点滴のための管もあった。多くの管につながった父の姿がここにあった。
 
痛みの余り、もうしゃべることはなくなりベッドに横になっているだけの父。それでも私たち家族はわずかな可能性にかけていた。
 
「お父さん、しんどいのはわかるけどもう一度チューブを入れるよ」
「これができれば今より少し楽になるからね」
「みんな応援しているから」
嫌がる力もあまり残っていない父を説得し、抜いてしまったチューブをもう一度入れるための処置を無理やり合意させた。
 
「24時間体制でお父さんを監視するよ!」
家族総出で父がチューブを抜かないように泊まり込みで見守る。とっても心苦しかったけど、席を外すときは父の手を軽く拘束しなければならなかった。そうしなければ前回のようにまたチューブを外してしまうから。
 
「またやった!」
2日間は持ちこたえた。でも3日目、やっぱり家族のすきをついてチューブを抜いてしまったのである。
 
怒りを通り越して涙が出てくる!
 
家族はこんなに父に生きて欲しくて頑張っているのに、当の本人はさっさとあきらめてしまって自ら悪い方へ進んでいく。
 
2回目のチューブを抜いてしまったことで、次の治療の目途が立たなくなった。そうこうしている間におしっこがほとんどでなくなってしまった。これは腎臓が機能しなくなったサインでだった。
 
「会わせたい方がいれば今のうちに会わせておいてください」
父の入院から2カ月がたっていた。
 
「いよいよ覚悟しなきゃいけないか」
つい2か月前まで元気だった父。この2か月間は私たち家族にとって覚悟を決めるのに必要な時間だった。でもそのために父の苦しみを2か月間引き延ばしてしまった。今は言葉を発することはない父。それが父にとって本当に良かったのか誰もわからない。
 
「延命措置を希望しますか?」
「最後くらいは父の望みをかなえてあげよう」
 
「希望しません」
 
最後の夜、家族みんなで父を取り囲んで声を掛ける。
 
「しんどかったね」
「本当に頑張ったね」
「痛みを長引かせてしまってごめんね」
「ありがとう」
 
父は安らかな顔で息を引き取った。
 
「結局どっちが良かったんだろうね?」
母は今でもあの時に2か月間父の苦しみを長引かせてしまったことを気にかけている。
「わからないけど、私たちは覚悟を決めることができたし、お父さんともいろいろ話ができて私は良かったよ」
私は自分自身に言い聞かせるように言った。
 
私が父の立場だったらどうだろう?
「子供達もまだ小さいし、おちおち死んでいられないから意地でも生きるかな。でも、子供達が大きくなって安心できるようになっていれば、苦しまずに死にたいかな」
 
後に残された家族が後悔しないように、自分の意思をあらかじめ伝えておくことはとても重要だと実感した。私はまだ若いから大丈夫! とは思わずに早速家族で終活について話を始めようと思う。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2020-02-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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