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メディアグランプリ

掃除はアートだ!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高橋実帆子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
主婦歴12年。「不都合な真実」に気づいてしまった。
 
ワタシ、ソウジ、ニガテカモ……
 
私、掃除、苦手かも!
 
思えば小学生のときから、机の引き出しの中がカオスだった。鉛筆にキーホルダー、その辺で拾ってきた石まで、何でもかんでも一緒くたに放り込むので、どこに何が入ってるのか自分でも分からない。「片づけなさい!」と母に叱られるたび、誕生日プレゼントが包まれていた綺麗な包装紙を混沌の上にそっとかぶせてカムフラージュ(?)していた。
 
就職してひとり暮らしを始めてからは、どうしても燃えるゴミの日を覚えられず、ベランダがゴミ袋でいっぱいになり、遊びに来た妹が目を丸くしていた。
 
結婚して主婦になり、私なりに努力して、床に落ちているものを拾い集めたり、掃除機をかけたりしてみるのだが、いくらがんばってもよそのお宅のように「すっきりと片づいた」状態にならない。
 
仕事と育児の両立が大変で掃除をする時間がないとか、片づけるそばから男の子2人が無限に散らかすから仕方がないとか、自分に言い訳をして生きてきたのだが、気づいたら毎日、「あれがない、これが見つからない」と家の中で失くし物を探すのに15分くらいは時間を使っている。
 
15分×30日×12ヶ月=90時間
 
つまり私は、家が片づいていないために、1年間で90時間もの貴重な時間を失っているのだ!
この損失が今後40年間継続すると、私はまるまる150日分、実に半年近い時間を「物探し」のために浪費して死ぬことになる。
 
このままではいけない。不都合な真実を直視しなければ。
 
週末の貴重な時間に、無言で(しかし小さいため息をつきながら)お風呂を洗ったり家のあちこちを片づけたりしてくれている夫に、私は意を決して告白した。
 
「あのさ……私、掃除、苦手かも」
 
スポンジでバスタブを洗う手を止め、夫は「今さら何を言っているの?」と問いたげなまなざしを私に向けた。
 
「知ってる」
 
そしてまた、ゴシゴシとお風呂を洗う作業に戻る夫。呆然とした。なるほど、そうか。私以外の家族は、皆この真実に気づいていて、あえて触れずにいたということか……
 
「それでね、大事な休みの日に、こうやって毎回掃除してもらうのも大変だし、思い切って家事代行頼んでみるのはどうかな?」
 
「家事代行?」
夫は眉をひそめた。
「すごく高いんじゃないの? そんなお金を払うくらいなら、俺がやるよ」
 
夫がそう言うだろうということは、だいたい予想していた。私自身も、調べてみるまで夫と同じように思っていた。小説や映画で「お手伝いさん」が働いているのは、たいていお城のように立派なお金持ちの家と相場が決まっているのだ。
 
「それがね、最近は違うらしい」
お風呂を洗い終わって段ボールを畳んでいる夫に、私は準備していたスマホの画面を見せた。
「便利なマッチングサービスができて、2人でちょっと豪華なランチを食べるくらいの金額で、水回りと台所だけ綺麗にしてもらうこともできるんだよ。初回はお試しクーポンが使えるから、1回だけ試してみない?」
 
「うーん」
いつも思いつきと直感で突拍子もないことを言い出す私が、めずらしく論理的な説明をしたことに、夫は少し心を動かされたようだった。
そこで、私はすかさずダメ押しの一言を繰り出した。
「仕事で疲れて帰ってきたとき、ピカピカのお風呂に入ったら、きっと、すごく気持ちいいと思う」
 
「わかった」
夫は頷いた。
「とりあえず1回だけ試してみようか」
 
そんなわけで、わが家は家事代行デビューすることになった。
 
サービスの予約はスマホから希望日時を送信するだけで、とても簡単だった。当日、5分前に現れたSさんは、はきはきと挨拶をしてエプロンをつけ、掃除する箇所の説明をひと通り聞いた後、「時間がもったいないので、すぐ作業に入りますね」と慣れた様子でお風呂の掃除を開始した。
 
作業の邪魔にならないよう、掃除の間、私は別の部屋で自分の仕事を進めることにした。
ときどき「洗剤はどこにありますか?」「台所に入りますね」などと声をかけられることもあるが、基本的には静かに、てきぱきと掃除が進んでいく。
 
そして2時間半後。
「作業が終了しましたので、確認をお願いします」とSさんに促され、掃除をお願いした浴室と洗面所、トイレ、そしてキッチンを見て回った私は、目を見張った。
 
たった2時間半で、どこもかしこもすみずみまでぴかぴかに磨き上げられ、散らかっていた棚の上などもすっきりと片づいている。埃や汚れ、水垢がなくなった室内は、何だかいい香りがして、全体に明るくなったようだ。
 
トイレットペーパーもさりげなく三角に折り畳まれ、「ホテルの部屋みたい……」と私は思わずつぶやいた。
私が同じレベルの片づけと掃除を再現しようと思ったら、おそらく丸3日はかかる。
 
「私、掃除が苦手なので本当に尊敬します。もともと、掃除が得意なんですか?」
帰り支度をするSさんに聞いてみた。
「そうですね。得意かどうか分からないですけど昔から掃除が好きで、気づいたらつい、家の中のどこかを片づけちゃってるんです」
世の中には、「気づいたらつい片づけちゃっている」などというすごい人がいるのか! と私は心の底から驚いた。
家事代行の会社では、掃除や料理の技術を学ぶための研修も行っていて、そこで技を磨くのがとても楽しいとSさんは教えてくれた。
 
自分で掃除をするときのコツなども私に伝授し、「帰りにゴミを捨てていきますね。ありがとうございました!」とゴミ袋を持って、Sさんはさっそうと帰っていった。
 
水回りが綺麗になった室内は、まるで別の家のように居心地がよく、ホテルに滞在しているかのような旅行気分さえ感じられた。
何よりも、「掃除をしなければ」というプレッシャーから解放されて過ごすことで、こんなにも心が軽くなるのかと驚いた。
帰宅した夫も「おお! 確かに綺麗になったなあ」と嬉しそうだ。
 
限られた時間の中で、熟練の技術を駆使して家に魔法をかけ、住む人の気持ちを明るく豊かにする。
掃除がこんなにクリエイティブな仕事だったなんて、家事代行サービスを利用するまで気づかなかった。
汚れを落とすだけでなく、家が持つ本来の魅力や癒しの力を引き出す、それはまるでアートのようだ。
 
絵を描くことが好きで、技術を学び描き続けた人の作品がほかの誰かを感動させるように、プロが心を込めて掃除した家は、人の心を動かす。
私にもそれなりに得意なことはあるけれど、少なくとも掃除に関しては、プロのアーティストではない。
餅は餅屋。私は私の得意なことをがんばって、アートのことはアーティストに任せよう!
 
その日のうちに家事代行サービスに本登録をして、月に一度、水回りの掃除をお願いすることにした。
 
私は掃除が苦手だ。
でも、そのために困ることは、今ではあまりない。
 
それぞれが自分の好きなこと、得意なことのプロになり、苦手なところではほかの人の力を借りて知恵と技術をシェアできる世界って、すごく豊かだなと思っている。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2020-02-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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