メディアグランプリ

かわいそうの押し売り不要


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:河合弥生(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「うちの子、初めてのお泊まりなんです。かわいそうだけど、結婚式だからどうしても預けないといけなくて……」
 
私はペットホテルをやっているのだが、お泊まりがかわいそう、というお客さんは結構多い。このような場合、私は飼い主さんにお願いをする。
「お泊まりさせてごめんねって言わないでください」
飼い主さんはきょとんとした顔をする。は? なんで?? という顔だ。
 
「お泊まりがかわいそう、お泊まりさせてごめんねという気持ちで接すると、この子は自分がかわいそうな犬だと思います。逆にお泊まりを楽しんで来てね、お母さんも楽しんでくるからねという気持ちで接すると、犬も楽しい気持ちになります」と説明をすると、なるほど! と納得してくれる。だって想像してみてほしい。自分の夫や家族が2−3日留守にするとする。その時にしつこいくらいに「留守にしてごめんね。お留守番かわいそうだよね」とか言われたら、どう思う? ちょっとウザいと思わないだろうか? むしろ、たまにお留守番ってちょっと嬉しく思うかもしれない。一人でゆっくりできるし。いつもなかなかできない事ができたりして。
 
犬もきっと同じだと思う。かわいそうの押し売りはいらない。むしろ、お泊まりを満喫して帰る子も多い。犬は元々、群れで暮らす動物だ。うちの犬達や他のお泊まりに来ている犬達と群れになって生活をすると、とても情緒が安定してくる。群れで行く散歩は、いつもの生活にはない刺激を受けるため、身体と脳のエクササイズになる。それに当店自慢の犬用手作りごはんのオプションもつけてくれたら、ごはんも美味しくて帰りたくなーいって言う子もいるくらいだ。飼い主さんが勝手に「お泊まりはかわいそう」と思っているだけの場合も多いことを知っていただきたい。
 
あと、多いのは保護犬を引き取った飼い主さんの場合だ。
「うちの子は保護施設から引き取ったので、色々トラウマがあって、かわいそうで……」
うん。わかるよ。大変な目にあったんだもん。でも、今もかわいそうなのかな? 今は優しい飼い主さんに引き取ってもらって幸せなのでは?
 
犬は常に「今」を生きている。犬には時系列の概念がないからだ。だから、いつまでも過去にはこだわっていない。人間のように「1年前にあなたにこう言われたことで傷ついた」とか「3年前に浮気されたことを許せない」とかいうことはない。必要なのは、トラウマがある場合は、それを良い記憶に書き換えてあげること。かわいそうの押し売りをしてしまうと、その子はやっぱりかわいそうな子になってしまう。幸せから遠ざかってしまうのだ。
 
日本人は特にかわいそうの押し売りをしたがる傾向があるように思う。それは、義理人情に厚い人種だからかもしれないし、島国で隣近所とのコミュニティを大切にしてきた国民性なのかもしれない。
 
そもそもかわいそうってどういう意味なのか? 辞書で調べてみると「弱い立場にあるものに対して同情を寄せ、その不幸な状況から救ってやりたいと思うさま」とある。つまり、かわいそうを押し売りしている側が相手を勝手に弱い立場だとみているわけである。となると、うちの犬がかわいそうだと思っている飼い主さんは、自分の犬のことを弱い立場、つまりは自分よりも下だとみていることになる。これは犬との信頼関係を築く上であまり好ましいことではない。
 
そもそも犬は決して弱い動物ではない。しかも状況を判断する能力も高い。飼い主さんは知らないかもしれないが、ペットホテルで多くの犬の姿を見てきた私は知っている。ペットホテルに連れられてきた時、飼い主さんにいってらっしゃいをする時の犬はとても寂しそうな顔でお見送りをする。しかし、飼い主さんが見えなくなると、やれやれとばかりにベッドでゴロゴロし始める。早よ持ってきたオヤツくれよと催促するヤツもいる。その変わり身の早さには笑ってしまうくらいだ。犬はちゃんとわかってやっている。お見送りはさみしい顔をしておいたほうが良いことをわかっているのだ。
 
このように犬は人間をよく見ている。見ながら判断しているし、影響も受けている。だからこそ、かわいそうの押し売りはいらない。ちょっとあざとい所があるくらいがかわいくて、オモシロイのだ。私も悲しい犬の顔は見たくない。もし、かわいそうの押し売りをしている人は、犬を信頼できるペットホテルに預けてみてほしい。案外、ノビノビ楽しそうにしているかもしれない。
 
 
 
 
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2020-03-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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