メディアグランプリ

「保護猫から学ぶ認知症介護」 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:野上 洋 (ライティング・ゼミ特講)
 
 
うちの娘は動物がとても好きだ。残念ながら、我が家にはそんな余裕もないので、動物を飼ってはあげられないが、動物に関する本ならたくさん持っている。
たまに「お父さん、お父さん、コアラの赤ちゃんってお母さんのう〇ちを食べて育つんだよ」
などと、へーってなる知識を披露してくれる。
妻も子供のころから動物が大好きだったらしく、「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」でおなじみ(もう知らない人も多いかもしれない……)の動物大国で、「大人になったら働く!」と本気で思っていたそうだ。
 
そんな我が家の女性陣は毎週土曜日の「志村どうぶつ園」をとても楽しみにしている。私も動物の赤ちゃん特集には頬が緩むし、「動物と話せる女性ハイジ」の動物とのやり取りには毎回涙する。まあ、嫌いではない。
最近は保護猫や保護犬の特集もよく組まれている。保健所で殺処分される予定だった動物を引き取り、世話をし、新しい飼い主を見つける。ほぼボランティアで活動されている方も多く、本当に頭が下がるし、応援せずにはいられない。保護された動物の中には人懐っこい子もいれば、極度に怯えていたり、敵意をむき出しに威嚇したりしてくる子もいる。
 
ある日の放送、人が近づこうとするものなら、歯をむき出しにして、低い声を漏らし、パンチを繰り出す、そんな猫の姿が映し出される。
「おそらく飼い主に放っておかれたり、ひどい仕打ちを受けたりしたのかな?本当に人間は勝手な生き物だな」なんて、上から目線で人間批判をしつつ画面を眺めていた時、不謹慎かもしれないが、ふと先日の認知症の方とのやり取りを思い出した。
 
ある日の午後、私の内線電話が鳴る。受話器をあげると「不穏状態(突然の興奮状態、行動が過剰で落ち着かない状態のこと)で、大声を張り上げ、手あたり次第に物を投げ、近づこうとするものなら、引っ掻いてくる。興奮を鎮めるための薬を飲んでもらおうにも払いのけ、手がつけられない」とSOS! 現場に急行する。
 
認知症の方の対応はある程度自信もあった。まずは落ち着いてもらおうと柔和な笑顔で近づき、その方の車いすの横に腰を下ろす。そして目線を合わし、落ち着いた声のトーンで話しかけようとした瞬間、「私の眼鏡は奪われ、ぞうきんのように絞られる……。顔には唾を吐きかけられ、首からぶら下げていた名札をグイグイ引っ張られる……」と散々な目に。
 
「なにもそこまでしなくても……」
でも、これって冷静に考えると、警戒心MAXのところに何の準備もなく不用意に近づいた私は、人が信じられず、歯をむき出しにしてパンチを繰り出そうとしている猫に何も考えずに不用意に近づき、手を差し出したのと同じ……。
噛みつかれて当たり前だ。
 
認知症の方は、記憶障害や見当識障害(場所や時間が分からなくなる)、判断力の低下などにより、すごく不安な状態にあると言える。「何かが違う、何かがおかしい」と感じながらも、それを上手く表現できない。難しいことは分からないが、なんとなく自分がおかしい、のけ者にされているのではないかということはわかる。
 
とにかく「居心地の悪い今」から脱出したい! どうしたらいいの!
そんな時、向こうの方から怪しい笑顔(柔和だと思ったのですが……)を浮かべた見知らぬ男(記憶障害により忘れている)が遠慮なく近づいてきて、断りもなく隣に座る。
 
私は今まで幾度となく不穏状態にある方の対応を行ってきた。ある程度余裕をもってコミュニケーションをとれば、大抵の人は落ち着きを取り戻したし、そうする自信もあった。認知症の方への対応の基本「笑顔」「目線を合わせる 」「落ち着いた雰囲気で対応する」を抑えていれば、何とかなると過信し、警戒心を解くことに丁寧に取り組むという手順を省き、不用意に対応してしまった。
 
かのムツゴロウもよく言っていました。猛獣と触れ合う時、まずは警戒心を解くことから始めます。不用意に手を出せば噛まれるのは当然です。「大切なのは動物のことをよく知ること」噛みつかれるのは、動物に関する知識がなく、スキンシップを図るための技術もなく、何より動物に対する愛情(敬意)がない人間が悪いそうです。動物園の猛獣たちは人を噛むと殺処分されてしまいます。そんなかわいそうな目に遭わせないよう、飼育員(専門家)たちは知識、技術を身につけ、愛情を注ぐのですと……。
 
経験値という何の根拠もない自信なんか、何の役にも立ちませんでした。介護の専門家である私には、知識・技術、そして何より相手に対する敬意が足らなかった。
 
「ごめんなさい、ムツゴロウさん」
 
そんな今日は土曜日、志村どうぶつ園の日だ。「四国水族館」がオープンするんだって!
 
「へーっ、いつか行ってみたいね」
 
いつもの平和な我が家の団欒だ。
 
 
 
 
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2020-03-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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