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メディアグランプリ

突発性難聴になって得られたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:藤原 千恵(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
どうも左耳の感覚がおかしい。
 
それに気がついたのは、自宅のスピーカーから流している音楽が「いつもと違う」ように聞こえたからだ。
女性ボーカルの高い声が割れて聞こえる……?
私は自宅にいる時、朝起きてから出かけるまで、帰宅してから就寝まで、ほとんどの時間スピーカーから小さく音楽を流している。
日常的に使っているからこそ「そろそろ寿命なのね」と、さほど気にとめず、流れてくる耳障りな音楽を消した。
 
だが次の日はテレビ、コンビニの入り口の音、電子レンジの「ピー」という音、全てが不協和音に聞こえ始めた。
音は聞こえるから難聴ではないはず。でも、電子音や高い音が音割れして聞こえる。
ある一定の音より高くなると、より違和感が増して頭が痛くなってしまうのだ。
普段から聞いている音が全く別物に聞こえ始め、気のせいかな? のレベルをとうに越した頃、病院に向かった。
 
その症状が突発性難聴だとわかったのは、耳鼻科で検査し、医師の口から検査結果を聞いた時だった。
そして、思いがけずこう言われた。
 
「あなたは敏感な体質? 診断結果は両耳ともさほど問題ないんだよ」
 
敏感な体質? 問題はない?
両耳の聴力検査や骨の音伝達の検査をしての診察結果だから、間違いがあるはずはない。
それでも医師に「問題ない」と言われると、私のこの不調は一体なんなのだろうと不安になり、何と聞き返していいのかわからなくなった。
身振り手振りを使いながら症状を詳しく話し、珍しいケースだけどやっぱり突発性の難聴だね、という診断結果を得た。
 
次回の診察予約を確認し、様々な薬の名前が書かれた処方箋を受け取る。
薬局で1週間分の薬を受け取り、その薬の量の多さに愕然としながら「感覚」は伝えることがとても難しいことだと、しみじみ思った。
 
私は確かに、音が不協和音に聞こえているのだ。それも突然に、何の前触れもなく。
でも、検査をすると両耳とも問題はない。
数字やグラフであらわれないくらいの、微妙な違和感をいくら訴えても、私が聞こえている音がそのまま相手に伝わらないことが、とてももどかしく感じた。
 
普段私たちが特別気にすることもなく、でもフル活動している五感は、本当はとても尊いもので愛すべきものなのだ。
どれもがオリジナルで、自分にしかわからない感覚。
私が聴いてうっとりするような音は、他の誰かにはとても聴いていられないような音かもしれない。
「肌ざわり」も、ただただ心地がいい、温度や手触りがちょうどいい、そんな自分オリジナルの感覚なのだと思う。
 
だけど、その感覚を言葉にしてしまったら、それが全てになってしまうという、なんだか残念な気持ちにもなってしまう。
その言葉を発した瞬間に、本当に伝えたいことはそれではないような気がしてくるのだ。
 
感覚を言葉で伝えたいのに、それを伝えた途端別のものになってしまう。
だから私は、必要以上のことを口にしなくなり、本当に伝えたい感覚的なことは色や温度や匂いを例えに話すことが多くなった時期があった。
 
……わかりづらくて面倒すぎる。自分のことなのに飽き飽きしてしまうような面倒さだ。
 
「あなたと一緒にいる空気感が好きなの、色で例えると淡いピンクのような感じ」
と伝えて、どのくらいの人が理解するのだろうか。(私は言ったことはない、例えば、のはなし)
もしかしたら誰かは120%理解できるかもしれない、うんうん、と力強く頷いてくれるかもしれない。
だが人によっては、何のことを言っているのかさっぱりわからない人もいるだろう。
だからこそ、感覚を共有できるということは私にとっては特別なことで、もしそんな人が現れたら私は一瞬で恋に落ちると思う(男女問わず)
 
でも私だって今まで様々な経験をしてきて、わかっているのだ。感覚だけではうまくいかないことを。
それをどうにかぴったりの言葉で伝え、説明する重要性を。
 
このライティング講座で、大切なことを言葉で伝えられるようになりたいと思い、もうすぐ1ヶ月が過ぎようとしている。
やっぱり、難しい。
簡単なことではないとわかっていながら、早くも「書くことはサービス」というのが、私にとってこれから乗り越えなければいけない課題のような気がしている。
 
普段から五感を働かせて生活しているつもりでも、いざそれを文章にしようとすると、伝わってほしいメッセージがとても薄っぺらなものになる。
元々の自分の癖で、色や香りで表現してしまいそうになり、ファンタジーやメルヘンな文章になってしまう。
そして伝えたい気持ちが空回りして、自分でも何を言いたいのか途中で迷子になってしまうのだ。
 
突発性難聴になって、自分の感覚をより大事に優しく扱おうと思った。
正解も不正解もない、だからこそ、その感覚が相手に伝わる言葉やテクニックを身につけたい。
突然のことに戸惑いもあるが、これから先も大切にしていきたいオリジナルの「感覚」を再認識するきっかけは、どこで出会うか分からない。
 
 
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2020-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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