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保育園、預けてもいいの?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:kotokoto(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
3年前の2月のある日
私はポストの前をウロウロしていた。
空っぽのポストを確認して、あきらめて家に入るも、
外で物音やスクーターの音が聞こえる度
 
「きた!」
 
また玄関を出て空のポストを確認する、ということを繰り返した。
この戦いは、正午から夕方4時頃まで続いた。
ついに郵便屋さんが来た時には、私はポストの前で待ち構えていて、
待ちに待っていたそれを、郵便屋さんの手から直接受け取った。
 
ドク、ドク
 
心臓の動きが途端に早くなる。
 
ついに来た。私たちの運命はここに書かれている。
 
はやる気持ちを抑えるためか、私は自分の手にあるピンク色の封筒を、わざとゆっくりした動作で、表、裏、とひっくり返し
分かり切っているはずの宛て名と送り主を確認した。
 
結構分厚い。
ということは……
 
ドク、ドク
 
ますます早くなる鼓動を、隠すように
急いで家に入った。
 
封筒を切るハサミが揺れている。
違う。
私の手が震えているのだ。
 
「合格……」
 
封筒から取り出した書類は、保育園の合格通知だった。
 
あと2か月もしないうちに、私は会社に行き、娘は保育園に行く。
社会に戻れる喜び、自由になれる喜びを、感じなくはなかったが
重たいため息ばかりが、こぼれた。
 
とうとうこの生活が終わってしまうんだ。
 
保育園の入園申し込みは、すごく迷って、迷っての決断だった。
必要書類を揃えて、あとは提出するだけという段になって、急にこれでいいのかとモヤモヤしだし、「やっぱり一緒にいたい!」という気持が非常に強くなって、毎日涙が出た。
 
ちょっと前まで、ちゃんと回っていない現実で奮闘しながら、「4月になれば、4月になれば……(保育園に預かってもらえる)」と呪文のように自分に言い聞かせながら、4月を心待ちにしていたというのに。
 
娘が生まれてからお友達になった近所の親子は、その1年前の4月にみんな保育園に入り、お仕事に復帰していた。
私は取り残された気持が少なからずしたと同時に、保育園に預けてきれいになってイキイキと社会に戻ったママたちがうらやましくもあった。
 
それからの日々
私たちは毎日、児童館や公園で遊び、ごはんを食べて、眠る。
毎日毎日そのくりかえし。
体調が悪くてちょっと休みたいときも、洗い物がたまっていても、トイレに行きたくても、すべては娘次第。初めての育児で、全力で娘と向き合おうとしていた私は、いつもどこか緊張していて、自分の思い通りになることなんてほとんどなく、24時間娘のペースで生きていた。クタクタだった。
毎日なにしてるの? とか、のんびりしていていいね! とか言われる度に、専業主婦に対する世間のイメージと現実があまりにも離れていることにイライラした。
でも、それも仕方がない。だって実際、食べて、遊んで、寝るだけの毎日なのだから。
理解のある夫でさえ、本当の本当に、ずっと家にいても「自分の」時間が全然ないことは、なかなかわからないようだった。
自分の時間のはずなのに、寝て起きる時間でさえほとんど何も自分で決められないなんて。たとえ娘であっても、他者に人生を振り回されることが、どれほど我慢ならないものなのか、この約2年でよくよく分かった。
これまでの人生で、こんなひどいことはなかった。
 
フラストレーションのたまる、つまらない毎日。
しかしそれでも、
あまりにも幸福な毎日。
 
未だかつてこんな時間は持ったことがなかった。
確かに苦痛もあった。
でも、娘が生まれてから2年間の一日一日は、今振り返っても、奇跡的にすばらしく、宝物だった。
 
この宝物を、私は手放して良いのか?
 
もちろん、母親が子どもを保育園に預けて働くことに対して、何ひとつ反論はない。むしろ親がしっかりと自分の人生を生きることは、重要だと思っている。
ずっと一緒にいることだけが大切だとも思わない。
だけど、
自分は後悔しないのか?
もうこんな時間は二度と、永遠に戻ってこないのに。
 
あらためて、娘を見る。
あまりにも私が放心状態なので、つまらなそうに、ウロウロおもちゃを物色している。
家には私しか遊び相手がいない。
お友達がいたら、さぞ楽しいだろうな。
 
春には2歳。
発達の早い娘は、もう余裕で3語文をしゃべり、会話が成立する。
スプーンやおはしを使ってご飯を食べられる。
好き嫌いなく、なんでもよく食べられる。
ほとんど自分で靴下と靴が履ける。
一緒に歌ういろんな歌を、覚えて1人で歌える。
小麦粉アレルギーも完治した。
家でも外出先でもトイレで用を足すことができ、まもなくオムツもはずれる。
毎日毎日、公園や児童館に遊びに連れて行き
毎晩絵本を読み、20時に寝かせる
一日3食のアレルギー除去食も
トイレトレーニングも
お友達とのかかわりも
ここまで
家でできることは、全部やったんだ。
大丈夫。
もう娘は、ちゃんと新しい世界に出ていくことができる。
 
保育園入園は、ベストなタイミングでやってきたのだ。
 
羽ばたいておいで。
完璧とはほど遠い母親だけれど、
そしてもちろん、この先もずっとずっと育児は続いていくのだけれど、
家で育児ができたこの2年間は、生涯の宝物であり、評価などされなくても、私はこの日々を誇りに思う。
 
ただ、感謝しよう。
 
毎年、春が近づく度に思い出す。
初めて娘の保育園が決まった時のこと。
あの複雑な感情。
 
あれから3年が経ち、母子ともに逞しくなった。
娘は最初の慣らし保育から順調で、こちらが拍子抜けするくらいあっさりと母子分離できた。今も毎日楽しく保育園に通っている。
私の方はもう少し複雑で、半年くらいは通勤中もずっと娘の写真や動画を見ていた始末。
けれども今はもう、日中はほとんど子供のことを忘れているくらいだ。
 
今年復職のママたちは、まさに今複雑な思いを抱えている方も多いだろう。
 
大丈夫だよ。
その複雑な気持ちだって、いずれ宝物になる。だから、無理して結論付けようとせず、乗り越えようとせず、思う存分複雑な気持ちや葛藤を味わっておいて欲しい。
 
 
 
 
***
 
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2020-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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