メディアグランプリ

味噌ラーメンから学んだ“熱々”の話。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ムックブック(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「すいません、味噌バターコーンラーメン一つ」
札幌の某ラーメン横丁の有名店。
遥か昔の記憶だが、初めて食べる本場の味噌ラーメンに私は興奮していた。
散々飲み歩き、食べ歩いた後だったが、締めのラーメンは外せない。
お腹をパンパンにしながら、熱々の一杯を食べ終えて大満足。
熱々過ぎて、舌は火傷でベロンベロンだったが、良い思い出だ。
 
さて、今回は私が味噌ラーメンから学んだ非日常と現実の“熱々”のお話をしようと思う。
 
私の持論として、デートは非日常を演出すべきだと思っている。
現実を離れて、二人で没頭する。
だからデートの場所選びは、いつも苦労する。
いまだに正解は分からない。
相手の行きたいところか、自分の行きたいところか、流行りのどこかか。
悶々としながら、とりあえずのジャブとしてLINEを送って誘う。
自分の定番は「気になるお店があるのですが、一人では行きにくくて。一緒にいかがですか?」だ。
これは意外と上手くいく。
しかし無事にデートに誘えたとしても、予想に反して盛り上がらないときもある。
 
以前に、お互いに好きなアーティストが内装を手掛けたメイド喫茶で、デートをしたことがある。
内装は遊び心もあり、実際に行って良かったと思えた。
ただ、メイド喫茶はメイド喫茶だ。
 
「萌え萌えキュンキュン、美味しくなーれ」
オムライスを運んできたメイドは、フリルの可愛い給仕服の姿で、魔法の言葉を投げてくる。
初めてのメイド喫茶。
テレビで見知った風景だったが、直面すると私の心は凍った。
横にいた彼女未満のあの人の心も凍った音が聞こえた(気がした)。
 
“場違い感”に、私も相手も恥ずかしくなった。
すぐに外に出て、他のお店に行ったような気はするが、ほとんど覚えていない。
結局、お付き合いには至らなかった。
場所選びとしても大きな反省があった。
もっと大きな反省として、驕りがあった。
「俺はデートで来てるんだぜ」と、周囲の彼女のいなさそうなお客さんに対してマウントを取りたかったのではと。
些細な上から目線を持ち込んで、今思えば、とてつもなく恥ずかしい。
そんな歪みは捨てて、メイド喫茶の作法に従い、素直に楽しんでいたら、その場の空気も、あの人との未来も違っていたのではないか。
 
要は、メイド喫茶にいた可愛いメイド。
彼女をコスプレイヤーと捉えるか、本物のメイドと捉えるかの差だ。
自分は、コスプレイヤーとしてしか見ていなかった。
しかし周囲のお客さんは、本物として見ていたのだと思う。
そこにある「冷めてしまうかどうか」の一線。
私は、これを「心のラード」と呼ぶ。
それは、非日常に“現実”を持ち込まないための防衛線。
溜まった熱量を逃がさないための防護壁。
 
札幌ラーメンと言えば、味噌ラーメン。
その特徴は、寒さの中でも熱々のまま食べられるよう、スープに張られたラードの膜だ。
ラードは豚の脂で、スープの熱をどんぶりに封じ込める蓋となる。
ラードがあるから、お客さんは熱々のまま一杯を食べ終えて、満足する。
札幌で舌を火傷した私だが、この非日常と現実の境にある一線は「心のラード」だと思った。
 
そこから、私はちょっとずつ変わった。
意図的に心にラードの膜を作ることにした。
誰かと出かければ一緒に楽しむことを忘れず。
また、その場所の楽しみ方を忘れず、時間を過ごすようになった。
例えば、デートでライブに行けば、コールやお決まりのやり取りを事前に調べた。
そういう小さな改善からのスタート。
そして、心が冷めてしまいそうなときは、熱々の札幌ラーメンを思い出す。
ただ、あのときの因果応報か、いまだに独身なので、恋愛的な成功を書けないのが残念だ。
ただ、実は仕事に応用している。
 
私は、逆にメイド視点になって、周囲が楽しめているかどうかを考えている。
エンタメ系の仕事をしているので、非日常の空間の中で、お客さんが冷めていないか、満足しているか。
お客さんにラードの膜を張ってもらえているかどうか。
とても重要なことなのだ。
 
そして、これはエンタメ系だけではなく、仕事という現実にも使えると私は考える。
仕事の上司部下だったり、プロジェクトチームの温度感だったり。
そういうところにも応用ができるだろう。
例えば、部下の仕事に対する熱量はどうか?
担当業務を楽しんでやっているのか?
スープを冷めさせている人はいないか?
私は、そういった視点で、今は部下とのミーティングでは、ラードの有無や厚さに気をつけている。
もちろん相手を味噌ラーメンとして認識するのに最初は戸惑ったが、もう慣れてきた(苦笑)。
昔の非日常のデートの失敗が、今の現実の仕事に活きている。
そんなことも長く生きてればあるのだから、面白い。
札幌行って、あのとき熱々の味噌ラーメンで締めて、本当に良かった。
 
 
 
 
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2020-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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