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初恋

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大森瑞希(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
「別れよう」
付き合い始めて三か月。私は涼くんにLINEを送った。人生で初めてできた恋人と、こんなに早く別れるとは思ってなかった。抱きしめあうことも、キスをすることもなかった。
一大決心して送ったのに彼からの返事は来ない。
こうして私たちは消滅した。
 
なぜ、もっと早く告白しなかったのだろう。
9年間。臆病な私はその思いを、ずっと胸に秘めて過ごしてきた。小学生のころからの幼馴染。高校で離ればなれになってから「どうか彼に彼女ができていませんように」と思い続けてきた。家は目と鼻の先。電話番号も知っていたのだから、すぐに連絡できたはずなのに。
 
告白できなかったのは、私が臆病だったからだ。彼にフラれるのが怖かったのではない。
彼は私のことが好きだったのだから。フラれるはずがない。
 
だとしたら、なぜ告白できなかったのか。
 
彼がクラスの嫌われ者だったから。
 
小学4年生のクラスの中で、彼は生徒からも先生からも避けられていた。私もあまり関わらないようにしていた。勉強は学年でトップ。小学生なのに政治や歴史、地理などをよく知っていた。運動神経も抜群で、いつもリレーの選手だった。そこまでは良いのだが、彼のいけないところは、それを存分に鼻にかけるところだった。俺とお前らは違うんだ、と言わんばかりの人を見下したような態度をしばしばとった。先生の板書のミスを偉そうに指摘した。でも一番できるヤツなのは確かなので、誰も言い返せない。一言でいうと、かわいくないヤツだ。友達も限られていて、最初のころは注意していた先生もあきらめたのか、次第に放っておくようになった。
 
美術の時間、全員の絵が教室の壁に貼りだされ、自分がいいと思った作品にメッセージを書く、という授業があった。他人の絵を評価するなんて少し恥ずかしいからか、大体の子は、絵の出来にかかわらず、普段仲の良い友達に向けてメッセージを書いた。私もそうした。
私の作品は「冬の森」。見る人が寒いと感じるように色使いに気を配った作品で、すごく自信があった。
友人からメッセージカードを受け取って読んでいると、目の前に涼くんが現れた。
 
「はい」
ぶっきらぼうに言い、くるりと踵を返して行ってしまった。
手の中で涼くんがくれたメッセージカードを開く。
「青と黒がきれいに重ね塗りされていて、見ていると本当に冬の森にいるみたいでした」
思ったよりも素直なコメント。
今まで話したことのない涼くんがカードをくれた。
そこには、なあなあな関係や打算はないはずだ。
いつも偉そうにしている涼くんがくれたのだから、本当に私の絵が良いと思ってくれたのに違いなかった。
誰からのメッセージよりうれしい気がした。
 
その日から、私と涼くんは仲良くなった。家が近かったことが判明し、一緒に登下校することが多くなった。互いに好きな本を教えあったり、かけっこをしたりして遊んだ。クラブ活動や塾も一緒だった。
 
「みずきってもしかしてアイツのこと、好きなの?」
一緒にいることが増えた私たちを見て、友達は詮索するように言った。
「好きなわけないじゃん、あんなヤツ」
私はいつだってこう答えた。
バレてはまずい。嫌われ者の彼を好きだと認めたら、私まで同類と思われてしまう。
 
「すきだ」
中学生になってすぐ、涼くんから告白された。
すごくすごく嬉しかった。飛び上がりそうになった。
でも次の瞬間、私は友達の詮索するような目を思い出していた。
もし付き合うことになって、友人にバレたら?
「やっぱアイツのこと好きだったんじゃん。あんなヤツがタイプなんだ」
きっと引いていくに違いない。
涼くんとは今の友達の関係のままでも私は十分に楽しい。わざわざリスクを冒してまで付き合う必要はない。
私はちょっと笑って、
「うれしいよ、でも」
気づいたら首を横に振っていた。
それから私たちは少しずつ疎遠になっていった。
 
タイムマシンに乗って、あの頃の私に会いに行くことができたら、私は私の頬を思いきりはたきたい。
どうしてあの時YESと言えなかったのだろう。
彼のいいところは、私が誰よりわかっていたはずなのに。
頭がいいのは、陰で彼が人一倍勉強しているからだ。一か月に20冊くらい本を読んでいた。三人兄弟の長男で、二人の弟を可愛がりよく面倒を見ていた。いつも両親の帰りが遅いから、小学生のころから料理や洗濯を一人でこなしていた。苦手な算数を教えてくれた。私が落ち込んでいる時はくだらない冗談を言って笑わせてくれた。
なにより、私のことを真正面から見てくれた。
「冬の森」を心から良いと思い、それを伝えにきてくれた。
なのに、なぜ私は、同じことを彼にしてあげられなかったのだろう。
 
「冬の森」から9年。19歳になった私は涼くんに電話をした。最後に話したのは5年も前だ。覚えていなくてもおかしくない。でも私は忘れるなんてできなかった。実はずっと好きだったこと、告白を断ったことを後悔していることを伝えずにはいられなかった。
私の人生初めての告白に、
「いいよ。付き合おう」
彼はけろりと答えた。
 
彼は私が見ないうちに、大きく環境が変わっていた。以前と比べたら考えれないほど、たくさんの仲間に囲まれていたのだ。早稲田大学に入学し、スキー部に所属。部員は100人もいるのだそう。遊びや飲みも激しいが、練習も多く、春休みはほぼ毎日合宿漬けだ。彼と電話すると、いつも周りにいる人の声がしていた。顔の知らない人のきゃぴきゃぴとした弾けるような声。電話口の彼の声は穏やかだったが、本当は早くみんなのもとへ戻りたがっている気がした。
もう、嫌われ者の涼くんじゃない。
きっと、彼は私の手の届かない遠くへ行ってしまった。
 
私の9年の恋がこんな形で終わったのは、まぎれもなく私の自業自得だ。
彼のことが好きなのに、同類に見られたくないと思っていた。
人を見下していたのはきっと私の方だった。
 
もし、この記事を読んでくださっている人の中に、
あの時の私と同じように、自分の気持ちに向き合えない人がいたら。
国籍や宗教、セクシャルマイノリティなど何らかの事情で、周囲を気にして、自分の思いを伝えられずにいる人がいたら。
周りの目なんか気にしないで、自分の心に素直になってほしいと、私は声を大にして言うだろう。
 
人生は短い。
こんな大恋愛、後にも先にももう、ないのかもしれないのだから。
 
 
 
 
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2020-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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