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「シモスワコマツ」最強説


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岸本くりすてぃーな(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「シモスワコマツ」
 
この言葉にビビッ!ときたあなたはこの先、読み進めなくてもいいだろう。
でも、そうじゃないなら、もう少しだけ読み進めてほしい。
 
2020年2月末
雪がチラつく長野県に、私は来ていた。
寒いところが大の苦手で、極度の運動音痴。スキーやスノボといったウィンタースポーツなんて全く興味がない。
そんな私が、冬のリゾート地として有名な長野県にいた理由。
それは、出張だった。
 
普段は大阪に住んでいる私にとって、長野県に抱く存在感は薄い、申し訳ないが本当に薄い。
・りんご
・海なし県
・夏の避暑地
・スキー場が多い……くらいだろうか。
 
(なんか他に長野県でおすすめスポットってあるんかな……)
 
こう思ったのには理由がある。
金曜日に出張先で仕事が終わるときは、たいてい延泊し週末に観光をしてから日曜日に帰阪するのが定番スタイルになっていたからだ。プライベートではなかなか選ばない場所に行けるというのは、出張の醍醐味だと密かに私は思っている。
仕事の忙しさを言い訳に、事前に下調べなどもほとんどしなかった。
そして、見どころはそんなに多くないだろうと勝手な解釈をしていた私は、1日だけ延泊予約をしたのだ。つまり、土曜日だけ観光して帰阪する計画だった。
 
ところが。
 
この選択が、のちに後悔することになろうとは出張前の私には1ミリも想像できていなかった。
 
出張先での仕事を終え、自由の身になった私が土曜日に辿り着いた場所。
そこは、
「シモスワ(下諏訪)」
 
なぜこの場所に辿り着いたかの説明は長くなるので今回は割愛するが、簡単に言うと
・出張先から近かった
・親切な地元の方からの紹介 といったところだ。
 
下諏訪は、長野県のちょうど真ん中にある諏訪湖の北側に位置する町。
1時間に1本(多いときは2本)走っている電車に乗って到着した駅は、素朴という言葉がピッタリな雰囲気だった。
駅前は工事中の作業員で賑わっていたが、それ以外は特に人通りも多くはなく、地元の学生さんがぽつりぽつり。
時間の流れはゆったりで、時折自然と耳に入ってくる人々の会話の方言が、普段大阪という都心で過ごす私にとって、なんとも心地よかった。
 
(どこから行こかな……)
 
これといった情報もなく来てしまった私は、とりあえずパンフレットでももらおうという軽い気持ちで駅に隣接している観光案内所の扉を開けた。
お世辞にも豪華で綺麗な建物ではなく、洗練という言葉からは程遠い。
こぢんまりとした建物で、どちらかというと手作り感満載のアットホームな雰囲気が漂っていた。
 
「観光? 初めて?」
「……あ、はい。ていうか、出張のついでに来ただけで、なんとなく観……」
「とりあえずどうぞ! 座って。下諏訪はいいとこよ、いっぱい行くところあるから!」
 
(めっちゃグイグイくるやん……)
 
町あるきMAPみたいなものだけもらおうと思って入ったが、とんだ誤算だった。
待ってました! と言わんばかりの勢いと迫力で、私の下諏訪での滞在時間を聞き出した後、テキパキと私専用のプランを作り上げたのだ。それだけではない。
初めて下諏訪に来たなら、絶対に行くべき場所、観光名所を見て回る順番、徒歩での所要時間、神社での参拝方法、それにまつわる歴史や下諏訪でしか買えない絶品お土産にいたるまで、こと細かく丁寧に教えてくれた。
口頭だけではない、多くの情報を私が忘れてしまわないように、きちんと必要事項をメモしてくれる。
 
(スゴイな……)
 
MAPだけでいいやと思っていた当初の私は、いつの間にか彼の話の虜になっていた。
そして気づけば足を踏み入れてから30分は経っていた。
次のお客さんが来なければ、きっと時間も忘れ、彼の話を夢中になって聞き入っていたかもしれない。
 
「気をつけて!
まずは、諏訪大社下社春宮目指してね! さっき教えた参拝方法覚えてる?
有名な御柱もちゃんと見てきてね! 横からね!」
 
そうやって見送られた私は、彼の教えに従い、1か所1か所、丁寧に見て回った。
彼の教えてくれた情報を思い出しながら……
 
そして、いつの間にか日も暮れ、一段と寒さが身にしみ始めたころ。
氷のように冷たくなった右手の親指でスマホの電源ボタンを軽く押した。
17:15
時間を確認するためだった。
帰りの新幹線に乗るためではない。
とにかく、下諏訪駅までの道を足早に歩いた。
 
「ただいま!! 間に合ったー!」
17:25
そう。
観光案内所の営業終了時間が17:30だったからだ。
私にはどうしても最後にやりたいことがあった。
 
「直接お礼を伝えたい」
 
時間にすると、私が1人で観光していたのは3時間にも満たない。
しかし、その3時間の中で歩いたり、見たり、食べたり、体験して感じたこと。
それは、彼の存在がなかったら、こんなにも満足度の高いものにはならなかった、そう思ったからだ。
 
すでに17:30を過ぎたにも関わらず、彼はそんなことを気にする素振りも見せず、一生懸命に私の話を聞いてくれた。
(この人、ホンマに下諏訪のことが大好きなんやな)
ふとそんなことを感じながら、感謝の気持ちを伝えた。
 
「また、待ってるよ! なんかあったらいつでも連絡して!」
帰り際、そういって名刺をくれた。
 
「コマツ」
そう。彼の名前は小松さん。
 
(あと1泊しとけばな……)
ちょっとした悔しさも感じたが、私はすでに知っていたのだ。
7年に1度、寅年と申年に行われるとんでもない神事があることを。
 
「御柱祭」
 
次回は、2年後の2022年。
 
 
 
 
***
 
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2020-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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