丸ノ内線の罠
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記事:蓮台寺梓(ライティング・ゼミ平日コース)
「またやってしまった……」
これで何度目だろう。絶望的な気持ちになる。
私が降り立ったのは、東京メトロ丸ノ内線の方南町駅。人気のないホームで、フラフラとベンチに座り込み、思わずつぶやく。
「丸ノ内線の罠だ……」
私の自宅は、東京都杉並区荻窪にある。最寄り駅は、荻窪駅だ。方南町駅からだと、30分弱かかる。だが、「あんな失敗」さえしなければ、きっと今ごろはもう帰宅できていたはずだ。
今日の失敗は、イヤホンで大音量の音楽を聞いていたことだ。あのとき、中野坂上駅で「荻窪方面はお乗り換えです」のアナウンスさえ聞き逃さなければ! いや、そもそも行き先表示をよく確認して、最初から「荻窪行き」に乗っていれば! 今、こんなみじめな思いは味わっていなかった。
丸ノ内線のダイヤ改正があったのは、昨年の夏だっただろうか。昨今流行っている、複数社乗り入れの影響も一切受けず、荻窪と池袋の間をひたすらピストン輸送するだけだった丸ノ内線に、大きな変化が訪れた。これまで、中野坂上駅で乗り換えなければならなかった、方南町支線への直通運転が始まったのだ。
丸ノ内線ユーザー以外のために解説すると、丸ノ内線のおおよそのルートは、池袋→東京→新宿という、東京都心をぐるっと半周するものだが、新宿を出発した先の中野坂上駅で、2つのルートに分岐する。荻窪に向かう本線ルートと方南町に向かう支線ルートの2つに分かれるのだ。この、中野坂上駅で分岐して方南町駅まで延びる3.2kmの方南町支線が曲者である。
従来、方南町駅のホームが極端に短かったため(本線は6両編成で運行しているにもかかわらず、この駅だけ3両編成の電車しか停車できなかった)、支線ルートの利用者が新宿方面に向かうには、必ず中野坂上駅で乗り換えを行う必要があった。そのせいで、通勤ラッシュの時間帯は、中野坂上駅が大混雑していたらしい。
東京メトロは、中野坂上駅の混雑を解消しようと、何年もかけて方面町駅のホーム及び線路の延伸工事を進めてきた。ようやく完成し、2019年7月5日の金曜日、晴れて直通運転が開始されたというわけだ。
残念ながら、この「改正」は、荻窪方面の本線ルート利用者にとっては「改悪」でもあった。確かに、中野坂上駅の混雑解消によって、毎朝の遅延が減ることは喜ばしい。だが、残業で疲れ切った帰り道、誤って「方南町行き」の電車に乗ってしまうというトラップも、同時にもたらされたのだ。
直通運転が始まった当初は、行き先確認の癖がついていない人が多かった様子で、中野富士見町駅や方南町駅で慌てて折り返す人をたくさん見かけた。長年の通勤スタイルを急に変えるのは、なかなか難しい。
ちなみに、念のため調べてみたら、東京メトロの旅客営業規程の第164条に「旅客(定期乗車券又は回数乗車券を使用する旅客を除く。)が乗車券面に表示された区間外に誤って乗車した場合において、係員がその事実を認定したときは、その乗車券の有効期間内であるときに限り、直近の列車(特別急行列車を除く。)によって、その誤乗区間について無賃送還の取扱いをする。2 前項の取扱いをする場合の誤乗区間については、別に旅客運賃を収受しない。」と明記してあった。誰も係員に申し出てはいなかったけれど……。
さて、なんとか行き先表示を確認する癖がついてくると、今度はあえて方南町行きの電車に乗ることが多くなった。なんと言っても、明らかに空いているからだ。荻窪行きは、ギュウギュウ詰めの満員電車なのに。
疲れているときには、座れることが何よりありがたい。中野坂上で乗り換えれば良い、と思って乗り込む。座る。疲れているから、寝てしまう。結果は……お察しのとおり。せっかく座ることができても、あまりリラックスはできない。
無事に中野坂上駅で降車したとしても、荻窪行きの電車が到着するまで、しばらく待たなければならない。一刻も早く家に帰りたいときには、この待ち時間が憎々しい。そういえば、方南町駅から荻窪駅まで戻るときに一番面倒なことも、中野坂上駅での乗り換えだ。とにかく、接続があまりよろしくない。ここでの時間ロスによって、ますます「罠」に引っかかった自分への後悔が深まっていく。
あなたも、もし東京メトロ丸ノ内線で、荻窪方面まで乗車する機会があったら、「方南町行きの罠」もとい行き先表示には充分にご注意を……。おや、そんなことを書いているうちに、中野坂上駅に到着したようだ。さあ、乗り換えなければ!
東京メトロ丸ノ内線・荻窪方面の本線ルート利用者の注意力は、今後も半永久的に試され続ける。
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