メディアグランプリ

人見知りの僕はお店で店員さんに声をかけられると買う気がなくなるのだ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:近藤泰志 (ライティングゼミ平日コース)
 
 
「いかがですか?」
 
「あっ、はい……」
 
「こちらなんてどうでしょうか? きっとお似合いになりますよ」
 
「はい。……どうも」
 
その直後、僕はお店を後にした。
 
なぜ僕はお店を後にしたのか。
 
僕はお店で店員さんに声をかけられると買う気がなくなってしまうのだ。
 
友人にこの事を話してもあまり共感してもらえない。それどころか『面倒くさい奴』と思われてしまう。おそらく店員さんも僕のことを『買う気のない冷やかし』と思っているだろう。なぜなら声をかけたら気の抜けたような返事をして、お店から出て行ってしまう奴などお客でもなんでもない。僕が逆の立場でもそう思ってしまう。店員さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。いつもお店を出るときは罪の意識を感じてしまう。
 
それはおそらく……というかきっと僕が極度の人見知りなのがいけないのだと思う。どのくらいの人見知りかというと、もし仮にオリンピックで『人見知り』という競技があるとしたら、きっと余裕で日本代表になれると自負している。そのくらい知らない人と話すのが大の苦手なのだ。
 
そもそもどうして僕がこうなってしまったかというと、以前僕が店員さんに声をかけられて、最後までNOと言えなかったため、話がどんどん進んでしまいオーダーメイドの中敷きと靴を購入したことがあった。内訳は靴が2万円で、中敷きが8千円、中敷きを作る手間賃が1万円の計3万8千円。近場の温泉なら軽く1泊できるぐらいの値段だ。
 
惨めだった。
 
僕はその靴を『買った』のではなく『買わされた』のだと思った。
 
それ以来、買い物中に声をかけられるのがとても苦手になってしまった。声をかけられると人見知りスキルが発動して委縮してしまい、何か買わなければいけないような気持ちになってしまうのだ。こんな気持ちになってしまうのは果たして僕だけなのだろうか。
 
人見知りの僕が誰にも気兼ねなく楽しく買い物できることは夢物語なのかもしれない。
 
物語といえば昔こんな話を聞いた。それは中東のある絨毯屋さんでの客と店主のお話だ。
そのお店では商品を買うのに3日かかるという。それはまさに僕が追い求めていた理想の買い物の話だった。この話を僕がお客という設定でみなさんに紹介したい。
 
1日目、僕はそのお店に来店する。店主は僕に声をかけない。僕は安心して店内を歩いてお目当ての商品があるか吟味してその日は店を後にする。
 
2日目、再度来店した僕を見つけて店主は声をかける。
 
「おや、昨日も来てくださいましたね。どうぞごゆっくり」
 
「ありがとうございます」
 
その後、僕は店主と世間話をして店を後にする。
 
3日目、三度来店した僕はようやく店主に欲しい商品を告げる。
 
「承知いたしました。その前に良い紅茶が手に入ったのでよかったらご一緒にいかがですか?」
 
僕はお言葉に甘えて紅茶をいただきながら、商品の由来などを店主から聞く。
そして紅茶を飲み終わった後、商品を手に取り代金を支払う。すると店主は穏やかな口調でこう語りはじめる。
 
「もし、あなたが1日目にこの品を買おうとしていたら、私はあなたには売らなかったでしょう」
 
「なぜでしょうか?」
 
「あなたが商品を選ぶように、私もお客様を選ぶのです。私はここにある品々をどれも自分の子供のように思っています。」
 
「自分の子供……ですか」
 
「ええ、自分の子供を有無も言わさず連れ去っていこうとする相手をあなたは黙って見ていられますか? 私には出来ません。それは私の商いの美学に反することなのです」
 
「商いの美学……」
 
「ここ数日、私はあなたを見ていました。そして語り合うことであなたにならこの品を譲れる……いや、あなたになら託せると確信しました。私の大切な子供をよろしくお願いしますね」
 
「ご、ご主人……ありがとうございます。ずっと大切にします」
 
「あなたならそうしてくれるでしょう。そしてこの良き出逢いを私は神に感謝いたします」
 
僕は店主と固い握手を交わして店を後にする。頬には熱いものが伝っているが、僕はそれを隠すように精一杯の笑顔で振り返り深々と頭を下げる。店主は僕が見えなくなるまで手を振ってくれている。僕は我が人生で最良の買い物と最高の友ができたと幸せな気分で家路に就くのだった。
 
いかがだろうか。これが僕の理想の買い物だ。誰にも話しかけられることもなく心行くまで商品を吟味して、かつ店主とは熱い絆で結ばれて生涯の友と呼べるような関係になれる。
こんな買い物ができたら人見知りの僕でもきっと通ってしまう。だがこんなお店は今の日本には見当たらないと思う。あるとしたらそれは僕が自分のお店を持った時ではないだろうか。
 
もし、僕がお店を持つことがあったら件の店主のような商売をしたい。そしてお店の入口にはこんな文字を掲げたい。
 
「自分は人見知りだというお客様、当店はお客様にお声がけをいたしません。なぜなら店主も人見知りだからです。どうぞごゆっくりお買い物をお楽しみください」
 
……と。
 
 
 
 
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2020-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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