6歳の私の中に生まれた【自然への畏怖】
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:杉下真絹子(ライテイング・ゼミ日曜コース)
今でも忘れられない光景があるのです。
そう、目を閉じると、あの時、あの場所に、今でもすぐに戻れてしまう……。
大きな空の下で、圧倒的に輝きながら私を包み込んでしまうほどの無数の星々と天の川。
その星が詰まった夜空に見える流れ星。
私は、そのたくさんの流れ星たちと一緒に、たくさんの願い事をしていました。
その夜、私たち家族は、ギュウギュウ詰めの薄暗い山小屋の二段ベッドで登山服のまま一夜を過ごしました。
どれくらい寝たのかわからないけど、翌朝、小屋の外にゆっくりと出て、辺りを眺めてみると……。
「え、わたし、雲の上にいる?」
雲を見下ろす私の中に、信じられない気持ちと高揚感がまじりあっていました。
自分が雲よりも高いところにいるなんて、想像すらしてなかったことに、すごくワクワク。
私、6歳。
富士山の7合目。
しかし、あの朝私は、低酸素状態から高山病の症状が現れ、吐き気と頭痛に襲われたため、結局7合目で断念し、そこに留まって頂上に向かって登る父を見ていました。
その時、徐々に山の表面が一面オレンジ色に染まっていったので、ふと振り返ると、燃えあがるような朝日が見えてきたのです。
圧倒的に美しい。ただその一言。
富士山で見せてもらった大自然の姿はこの世のものとは信じがたいほど、美しく、6歳の私でさえ心打たれました。
夏が終わり、保育園で「夏休みの思い出の絵をかいてみよう」となり、私は迷わず富士山に登った思い出を描いていました。
白い画用紙にクレヨンで
【富士山、夜空、流れ星、雲の上、私】
が思いっきり入った絵でした。
ちなみに、下山途中、私は小さな溶岩を見つけ、自宅に持ち帰り(後で石の持ち出しはNGだと知りましたが)、その溶岩は自宅玄関の一番目立つ場所に置かれることになりました。
その日以来、毎朝出かける時はいつも、ツルツルしたくぼみがたくさんついている溶岩を触りながら
「行ってきます~」
するのが私の朝の儀式になっていました。
その後、何年か経ち私は高校生になったのですが、玄関にいる溶岩が毎日私たちが見た富士山の光景を思い出してくれていたからでしょうか、家族でもう一度富士山に挑戦してみようということになったのです。
夏休みに入り、私たちは登山装備の準備をして、車で登山口まで向かっていたのですが、まだ6歳だった私が見たあの風景にまた会えると思うと、自然とワクワクが止まりませんでした。
しかし、途中雨が降り出してきたのです。
やがて車のフロントガラスは雨に打ち付けられ、目の前が見えなくなるほどの土砂降りの雨になり、結局登山口に来た時点で、富士山登山は中止に……。
実は、その後も何度か富士山登頂に挑戦したのですが、その時も天候不良で、富士山に近づくことはできず、結局、私の富士山体験は、6歳のままになってしまったのです。
そのこともあってか、私の中で知らない間に富士山は【神格化】されていきました。
あの、見事な左右対称に広がる円錐形を見ると、この世のものとは思えないほど美しく、どこか異次元からいきなり現れた存在に感じてしまうのです。
自然と、手を合わせ崇めてしまう……。
何か、私たち人間を超えた大きな存在だと感じてならないのです。
それは、私にとって【自然への畏怖】を意味するのかもしれなせん。
あの時に見た、
富士山
夜空
流れ星
雲の上
朝日
そして、その中に存在させてもらった私。
そこには、大自然の美しさや壮大さに圧倒される中に【畏怖】を感じるだけでなく、私たちがコントロールできない自然の摂理というものを通して、その意味を享受していくことの大切さを示唆しているように思えてなりません。
昨今の異常気象や自然災害、そして今コロナ感染流行真っただ中で、私たちはこれまで以上に生活習慣や生き方に大きな見直しを迫られています。
楽しみにしていた旅行もキャンセル、仕事の商談もなくなり、食料・日用品さえも入手困難になるなど、これまで当たり前だったことが、思い通りにいかなくなった今だからこそ、私たちの先祖が古来より実践してきた【自然に対する畏怖】を思い出し、私たち人間以外の存在への崇拝を忘れないことが大切だと感じています。そう、AIを始めとするテクノロジーがどれだけ発展しても、そこにおごり高ぶるのではなく、という意味でも……。
それはまた、様々な変化に対して、抵抗するのではなく、上手く順応しながらも新しい解決先を柔軟に見出していくことが望まれているような気がしてなりません。
狂言師の野村萬斎さんは、日本や世界の伝統芸能の根底には、自然に対する畏怖の念があるそうで、こういう災害や異常気象など不安定な時代だからこそ、顧みられるべき姿勢であり、考え方だと言っています。
だからこそ、私自身も今、6歳の私の中に生まれた【自然への畏怖】について改めて振り返り、私たちがこれからどう生きていくのかについて考え始めています。
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