mixi日記というパンドラの箱には今の自分へのギフトがあった
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:近藤佑子(ライティング・ゼミ特講)
銀座のとある古びた建物にある、カウンターだけの小さなスナック。
友人であり、そこの店主でもあるY氏が、私にタロット占いをしてくれた。
駆け出しキャリアカウンセラーでもあるY氏は、「キャリア相談も占いも一緒だから」といっていた。
相談事を頭に浮かべながら、選んだカードは6枚。
六角形になるようにカードを配置し、一番上の「現在」にあたるところに置かれたのは、「吊るされた男」のカードだった。
「これは今、立ち止まって自分に向き合う必要があるということを示しているから。そう悪いもんじゃないよ」
不吉な絵柄のカードのように思えたが、そこはキャリアカウンセラーのY氏、前向きな指針を示してくれた。
それは確かに、今の自分にタイムリーなアドバイスに思えた。
これまでの私はアクティブすぎて、たとえ、たくさんの経験ができたにしても、体や心がいつも休まらず、無理をしていたように思う。
そんな私が今年から「内省」をキーワードに、あえて予定を入れずにボーッとしたり、旅行に行っても、たくさん回ろうとか美食を食べようと思わなかったり、毎日の感情をSNSやブログに残したり、とにかく自分に向き合う時間を積極的に持つようにした。
あるとき、スマートフォンのアプリを整理していると、一世を風靡したSNSのmixiを発見した。
私は大学生の頃にmixiを始め、Twitterやブログを使い始めるまで、たくさんの日記を書いていた。数えてみると、5年間で約300本ほどあげていた。
私がインターネットで文章を書くのが好きになったのは、紛れもない、mixiのおかげだ。
とくにあの、足あと機能がよかった。日記を更新するたびに誰かが見に来てくれるというのが快感だった。承認欲求を満たしたく、文章をあげたくて、自分のことを見てもらいたくてしょうがないという気持ちになった。
文章を書くのが好きになったきっかけであり、そして10年以上前の大学生時代の記憶を思い出すツールとしての日記がもう読めなくなるのは惜しいから、数年に一度、ログインをするだけしていた。
日記を読むのは、パンドラの箱を開けるような気持ちになり、とてもできなかった。
そっ閉じだった。
でも、最近mixiにログインしてみたときには、ふと、もう少し見てみようと思ったのだ。
「自分に向き合うことが必要だよ」というY氏の言葉が心に残っていた。
特に面白かったのは、今から10年前、2010年の日記だ。
2010年の私といえば、大学を4年で卒業したものの、就職先も進学先も決まっておらず、学部とはまた違った大学に研究生として所属し、大学院を目指してふわふわと浪人していたころのこと。
浪人時代のはじまりは、進学したい大学院と志望研究室さえもまだ決まっていなかった。
やろうとしていたのは、特に世の中に役に立つような研究でもない。
今の仕事に接続しているのでもない。
なんて無価値で非効率な1年を過ごしていたんだろう。
そんなふうに思っていた。
ところが、10年前の私は、当時なりの爆発的な熱量のもと、必死に生きていたようなのである。
納得して考え抜いて行動したことは、まぁそれなりに今を形作っているようにも思う。
そう、大人になってやや器用になり、昔よりもがむしゃら度は減っているのにも関わらず、いろいろできちゃえるようになった私は、10年前の出どころ謎な熱量が懐かしく思う。
例えば、「私はなぜ大学院に行くか?」を切々と書いた日記の一部。
「わたしはアーティストみたいな研究者になりたい。研究は新しい世界を見せるものである。新しい世界を見せる人はアーティストでしょう? 研究は美しくなければならない」
当時やろうとしていたのは、シェア居住の建築空間に関する研究。
今思えば、少し流行ってはいたものの、世間的に金になる分野でもないし、求められているわけでもない。
自分の存在意義を自分で定義しないといけないのだ。
何かに突き動かされるような熱量がある、そんな感じ。
「アーティストみたいな研究者」なんてよく言ったもんだなと思うけれど、そういえば今の私も、自分はなりそこないの研究者のように仕事をしていると思っていたら「君はアーティストみたいなんだよね」と言われたりしていて、妙なシンクロを感じたりもするのである。
他にも、大学院の進学先を見つけるために、たくさんの先生にアポを取ったこと。
つかの間の上京時には、Twitterを通じて知り合った人とたくさん会って、いろんな話と体験をしたこと。
なかなかカオスで過渡期で、選択肢が色々あって、愛すべき1年だった。
昔の日記を読み返し、立ち止まって自分に向き合う。
昔も今も、私は私だし、今では忘れかけていた感覚を教えてくれる。
日記は、今の私へのギフトみたいに思えた。
未来の自分を楽しませるために、今の感情を記録しよう。
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