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メディアグランプリ

逆さまソングを唱えると、イライラ沼にハマらないですむ⁈


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:庵 雅美(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「たーで、たーで、かーきーつ
いるーま、いるーま、いるまんまー
なーよの、んーぼ、かーきーつ」
 
父が突然に歌い出した。まったく聞いたことない歌だ。何を歌っているのだろう? 歌詞もよくわからないし、メロディーもあるようで、ない。意味不明の歌だ。きびしい労働に耐えながら自らを励ますような、そんな歌に聞こえた。
 
我が家には介護中の父を車椅子からベッドに移乗し、寝る支度を整えるという、一日最後の一大イベントがある。父と母と私はまるで運動会の障害物競走に参加しているような勢いで取り組む。
 
父をベッドに移してからは、体を温かいタオルで拭く。床ずれにならないように、クリームやオイルをすり込ませる。そして、新しい寝間着に着替える。順調にいけば、寝心地がいいように父の体を横向きにして、体に枕やタオルを挟み、ベッドの角度をかえる。布団をかけて完了だ。
 
テンションを上げて挑まないとうまくいかない。安全と安心が第一のお仕事だ。ゆっくりと、かつ、手早い動作と、優しく、穏やかな心持が求められる。
 
私は、大いなる母になりきる。そうするとうまくいく気がしている。祖母であり、母であり、娘であり、ナースであり、恋人であり、友達であり……、そういう感じである。
 
にわか役者ゆえ、時には素人の未熟な素顔があらわれてしまう。動作も、心持ちも雑になる。
 
父が突然に歌い出したその日は、うまくいっていなかった。わたしがイライラしていたせいだろう。大いなる母の役になりきれていなかった。自分でもそれはわかっていたが、イライラという名の沼にはまりそうになり、つい素顔が見え隠れしていた。
 
そんな私に、不意打のように父の突拍子のない歌が飛び込んできた。
 
まず、その歌はとにかく変だから、速攻で腰砕けになった。父の歌いっぷりが変だった。必死なように見えた。笑ってしまった。
 
そして、何を歌っているのだろう? と耳を傾けた。父が話すことは、何でも聞き逃したくないこの頃だ。
 
私はなんとか気持ちを切り替えて、その日の作業を終えた。
 
その後も、何度かその歌を父が歌うのを聞いた。決まって、一日最後の一大イベントの時に登場した。ある日、父の体調に余裕がありそうな時をみはからって、歌を覚えたいからと何度も歌ってもらい、歌詞を聞きとり、覚えた。なんでも、父が作った歌だと言う。
 
「えー、すごーい!!」
 
意味不明な歌詞だし、メロディーもない変な歌だったが、大絶賛した。
 
わたしも一緒に歌うようになった。勇しく叫ぶように歌う。そうすると、不思議と気が晴れた。
 
「たーで、たーで、かーきーつ
いるーま、いるーま、いるまんまー
なーよの、んーぼ、かーきーつ」
 
この歌を知った当初、「かーきつ」が「書きつ」に聞こえた。父は、わたしがライティングゼミで2000文字の課題を書いていることを知っていたっけ? さすが親子、以心伝心なのだな、と嬉しくなり勝手な解釈をした。
 
ただ、ただ、書いて、そのまんまでいい。
 
しかしある時、気がついた。この歌は、『月』の歌詞を逆さまにしてるだけだった……。
 
「出た、出た、月が
まーるい、まーるい、まんまるい
盆のような、月が」
 
わたしの解釈はかなりの検討はずれだったわけだ。
 
でもわたしは、このばかばかしい歌をとても好きなった。そして、意味不明な言葉を単に発声することが、頭をからっぽにする効力があることに気がついた。意味がない言葉だからこそ、機嫌が悪くても、憂鬱でも、受け入れやすいのだと思う。メッセージ性のある歌詞だったら、ネガティブな心持の時にはうざったく感じて、拒否していたかもしれない……。
 
父には、「『月』の逆さまソングなんだね。」と言ったら、ちょっと寂しそうな表情をした。きっとそれは内緒だったのかもしれない。もう言わないことにした。
 
頭をからっぽにしてくれる歌をよくぞ発明してくれた! そんな気持ちだ。
 
そういえばメロディーも、『月』とは違う。さらにもっと平坦に歌う。
 
私はイライラという名の沼にはハマりそうになった時には、この逆さまソングを唱えるようにしている。歌うというよりは、唱える感覚に近い。気持ちを鎮めるための呪文のような効果を実感している。
 
父が鬱々と気落ちしているように見える時にも、これを使わせてもらっている。私が唱えると、父も後に続いてくれる。唱えれば、モヤモヤしていて酸欠寸前だった頭の中にも、酸素が巡る。単純で変な響きが、反射的に体の感覚を動かす。
 
コロナ事態で急激な変化に慣れない日々が続いている。見えない先行きのことを考えると不安になるし、いつもはもうちょっと距離のあった家族とも近くなり、ケンカになることもあるかもしれない。自己嫌悪に陥ってイライラしたり、モヤモヤが晴れない時もあるかもしれない……。
 
そんな時には、ぜひこの逆さまソングを唱えてみてほしい。ちょっとした救出作戦になることを心から祈っている。
 
気合いを入れてできるだけオンチに、勇ましく!
 
 
 
 
***
 
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2020-04-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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