メディアグランプリ

焼きいも屋さんが与えてくれたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ながはら なおこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ピンポーン
「120番の番号札でお待ちの方、投薬台3番までお願いしいます」
「今日もいつものお薬ですね。体調お変わりないですか?」
「30日分お薬出ていますので、引き続きお飲みくださいね。お大事に」
 
ピンポーン
「121番の番号札でお待ちの方、投薬台2番までお願いします」
「今日はお風邪ですか? 風邪薬3日分が出ています」
「抗生剤は最後までしっかりお飲みくださいね。それではお大事に」
 
職場のいつもの光景。
毎日ひっきりなしに患者さんが来局され、お薬をお渡しし、お帰りになる。
そしてまた次の患者さんへ……
それはまるで椀子そばのようにいつ終わるとも知れず、朝から晩まで処方箋を受付け、薬を調剤し、間違いがないかチェックし、お薬を説明し、お渡しする。そして、また次の患者さんへ。
そんな多忙な毎日を送っていたのだが、ここ最近はめっきり患者さんが減り仕事にもゆとりが出てきた。
 
理由は、そう、今世間を賑わしているあのコロナの影響である。
 
不要不急の外出は控えるようにと緊急事態宣言が出され、それに呼応して医療機関もオンライン診療や処方日数の延長など三密にならないよう様々な対応に追われている。
また、私の勤める薬局はビジネス街にあるためテレワーク等により出勤するビジネスマン・OLの方が日に日に減り、薬局前もめっきり人通りが少なくなっている。
 
以前はあまりの忙しさにトイレへ行くタイミングすらも見計らわなければいけないくらいの忙しさだったのが、今ではトイレも行き放題。
おかげで業務の合間に、外の景色を見る余裕すら出てきた。
 
そんなある日、仕事の合間にホッと一息ついていたところどこからともなく季節外れな声が聞こえてきた。
 
「いしや~きいも~おいも~」
 
声はだんだんと近づき、そして「焼きいも」と書いたトラックが目の前を通り過ぎて行った。
しかも結構なスピードで。
 
「えー! 今のおいも屋さん!? あんなに早く走ったら買いたくても買えないよね」と、同僚と笑いながら再び仕事へと戻った。
 
そして、次の日。
 
またもやどこからともなくあの声が……
「いしや~きいも~おいも~」
 
そして、次の日も……。
 
連日『焼きいも屋さん』が目の前を通り過ぎていく。
こうも毎日、あの声を聞かされると次第にいろんな事が気になってきた。
 
「何故、冬でもないのに?」
「何故、このコロナの時期に?」
「何故、ほとんど出勤されていないこのビジネス街を走っているの?」
「果たして売り上げはあるのか?」
「そもそも売る気はあるの?」
 
いろんな疑問が湧いてくる。
そうすると今度は運転手さんの顔が見たくなってきた。
 
「一体幾つくらいの人なのか?」
「どんな顔して走っているのか?」
「意外と女性だったりして」
 
興味がどんどん湧いてくる。
 
そんな期待を胸に次の日あのトラックが通り過ぎるのを心待ちにしていた。
「だいたいこの時間にいつも通り過ぎるよな~」
外を眺めながら待っているとやってきました!あの声が!!
 
「いしや~きいも~おいも~」
 
「今日は、運転手の顔を見るぞー!」
「この時期に焼きいもを売る人って一体どんな人なんだ?」
「やっぱりどこか変わってるのかな~」
 
そんな期待を胸に抱きながら通り過ぎるトラックを待ち構えていると、運転していたのはなんと「普通のおじさん」だった。
 
私の期待は大きく裏切られた。
「なんだ~ 普通のおじさんか~」
しかし、今度は「普通のおじさん」だったからこそ、逆に私の想像を更に掻き立てた。
 
焼きいもを売るのに違和感がないくらいのおじさん。
でも、全く売る気がないくらいの車のスピード。
そして、何故コロナのこの時期にこのおじさんは焼きいもを売ろうとしているのか?
しかも全く人通りのないこのビジネス街で。
もしかして逆に何か意図があるのか?
意図があるならどういった意図があるのか?
この普通のおじさんの頭の中は何を考えているのか?
え~なんだろう?
何考えてるんだろう~……。
 
気付けば仕事そっちのけで「焼きいもおじさん」の事ばかり考えていた。
そんな自分に気付き、「焼きいもおじさん」の事を必死で考えている自分がなんだか可笑しく思えてきた。
それと同時に、こんな風に「焼きいもおじさん」に想いを巡らす余裕ができている自分にも気付いた。
 
知らぬ間に日々の忙しさに忙殺され、目の前の事に必死になって周りが見えなくなっていた毎日。
もしかすると、焼きいもおじさんは毎日通っていたのかもしれない。
ただ、自分が気付いていなかっただけで。
 
今、世の中はコロナウィルス感染で混乱している。
これからどうなっていくのか?どうすればいいのか?
 
そんな不安な世の中だけれども、
もしかすると、「非常識」と言われるかもしれないが、私にとっては「コロナ休息」を頂いている感じだ。
そして、それに気付かせてくれたのが「焼きいもおじさん」である。
もしかすると、ビジネス街を疾走する「焼きいもおじさん」は、日々働き過ぎて周りが見えなくなっている私達の心に余白を与えてくれているのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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